何故ミンジにあんなことを話してしまったのか・・・
「俺らしくもない・・・」
眉根を寄せ前髪を掻き上げる様に額に手を当てながらテギョンがテレビ局の地下駐車場へ来ると、青い車の助手席に座っているミニョの姿が見えた。
俯き身動きしないその様子から眠っているのかと思いこっそり窓から中を覗くと、ミニョは首から外した星のネックレスを手の平に乗せじっと見つめていた。
「テギョンさん、お疲れさまです。」
ガチャッという音と共に運転席に乗り込んできたテギョンにミニョは慌てて顔を上げ、手の上に乗せていたネックレスを隠すように握りしめた。
テギョンはミニョの言葉に眉間にしわを寄せると、服の中から月のネックレスを引き出しミニョに見せる。
「もう仕事は終わったし、ここには他に誰もいない。それに俺はこれを着けている、 『テギョンさん』 はやめろ。」
シートを倒し左腕を目の上に乗せると大きく息を吐く。
「何かあったんですか?」
心配そうに声をかけるミニョにテギョンは右手を伸ばした。
「手を貸せ。」
「はい?」
「ここに本物の星がいるんだから、ネックレスじゃなくて俺の手を握ってろ。」
「でも・・・ここは駐車場です、誰かに見られたら・・・」
「運転してたらお前は手を繫がないだろう?大丈夫だ、いいから手を貸せ。」
テギョンの強い口調にミニョがおずおずと左手を伸ばすとテギョンの右手が力強く握ってきた。
温かく大きな手。
ミニョはそのまま身動きもせずに黙ったままでいるテギョンに目を向けた。
「あ、あの・・・私なら大丈夫ですよ。撮影見てましたけど、大丈夫ですから・・・」
「・・・俺が大丈夫じゃない。」
「え?」
テギョンは大きく深呼吸をすると手を繫いだまま左手でネックレスの石をつまんだ。
「今日これを着けながら改めて気付いたんだ・・・自分の不甲斐無さに。」
石を見つめたまま辛そうに口元を歪めるテギョン。
ミニョは自分の手を摑んだまま放さないテギョンをじっと見つめた。
「これを隠さなければならない理由はクリアした筈なのに、結局同じ理由で今でも隠しているんだから不甲斐無いとしか言いようがない。」
ミナムとミニョの入れ代わり疑惑を持つキム記者は退けたが、 『ファン・テギョンの恋人』 という存在を隠さなければならない状況が今でも続いていることに変わりはない。
「でもそれはアン社長とした約束ですから。それに条件は付いてますけどこうしてオッパのお仕事にも連れて行ってもらえます。楽しいですよ、撮影風景が見られて。本当のマネージャーでもない私が、ただオッパの傍にいたいという理由でマネージャー見習いという肩書まで頂いて・・・。ファンの皆さんに知られたら、ズルいって怒られちゃいますね。」
ニッコリと笑うミニョの言葉に嘘はないのかもしれない。
それでも無理に笑顔を作らせているのではないかという思いがテギョンにはあった。
『手を繫いで下さい。』
いくらでも繋いでやる・・・
『抱きしめて下さい。』
思いきり抱きしめてやる・・・
だが人目を気にせずその願いを叶えてやることが出来るのはまだもう少し先・・・
テギョンは繋いでいる手に力を入れミニョの手を引っ張る。
体勢を崩したミニョは倒したシートに寝転んでいるテギョンの上に上半身が覆い被さる様に倒れ込んだ。
テレビ局の地下駐車場。いつ誰が通りかかってもおかしくはない場所。
記者の出入りも多い。実際に今日の撮影にも雑誌記者が取材に来ていた。
「オ、オッパ!こんなとこ誰かに見られたらマズいです!」
顔を赤くし、テギョンの身体の上から逃れようとするミニョの身体を強く抱きしめる。
「いいからじっとしてろ、少しだけだから・・・」
誰かに見られたら 『恥ずかしい』 ではなく 『マズい』 と言うミニョ。
いつもこんなにも気を遣わせているのかと思うと胸が痛む。
「でも・・・」
「辛い時には抱きしめるんだろ?」
「私は大丈夫です。」
「さっきも言っただろ、俺が大丈夫じゃない。手を繫いでもまだ辛い・・・だからお前はおとなしく抱かれていろ。」
テギョンの声にはいつものミニョをからかっている様子はなく、真剣な眼差しでミニョを見つめている。
思いつめた様な表情のテギョンを見ていると、ミニョの胸はキュッと締めつけられる様に痛んだ。
ミニョを抱きしめるテギョンの腕は緩まない。
ミニョは黙ってテギョンの言葉に従うと、頭をそっと広い胸の上に乗せた。
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