『オッパ、お願いがあるんですけど。』
そう言われて連れて来たドラマの撮影現場。一緒に行くことを許可すると、ミニョはもう一つテギョンに願い事をした。
『今まで通りにして下さい。』
特にミンジには自分が見ているからといって距離を取ろうとせず、今までと同じ様に接して欲しいと言われた。
『オッパ言ってましたよね、人と関わるのもいいもんだって思うようになったって。完成されたドラマだけじゃなくて、それを作り上げる過程を見ておきたいんです。オッパがどんな風に周りの人と接して、周りの人がどんな風にオッパと関わっているのか。ん~、何て言ったらいいのか判んないんですけど、私のことは気にしないで、いつもの撮影と同じ様にして下さい。』
「ヒョンは一体どういうつもりなんだろう、こんなとこにミニョを連れて来るなんて。ミニョの気持ち考えてないのかな。」
壁際でミニョと二人並んで立っているジェルミは落ち着かない様子でチラチラとミニョの方を見ていた。
カメラの前ではテギョンがミンジを見つめ優しく微笑んでいる。
「私がテギョンさんにお願いしたんです、連れて行って下さいって。私は・・・ちゃんと見ておかないといけない気がして・・・」
NGだったのかミンジが周りに頭を下げている隣でテギョンは何も言わず黙っている。
「近くには誰もいないよ。それでもヒョンのことオッパって呼ばないの?」
「油断してるとついオッパって呼んじゃいそうになるんで、お仕事している時は意識してテギョンさんって呼ぶようにしてるんです。」
撮影が再開され再び先程と同じシーンを撮っている。
「ふうん・・・ミニョはそれで平気なの?人前でオッパとも呼べずに・・・本当だったらあんな風に皆の前でヒョンに見つめられることができるのはミニョだけの筈なのに・・・」
ミンジの瞳を覗き込むように見つめ優しく微笑むテギョン。
「これはドラマのお仕事ですから。それに・・・」
ミニョはカメラの前の二人を見て一度言葉を止めた。
「それに?」
ジェルミがその先の言葉を問うように繰り返す。
「あ、いえ・・・。テギョンさんはNGも出さずに凄いですね。きっと集中力が凄いんでしょうね。」
俯き加減で言葉を詰まらせたミニョは、急にパッと顔を上げると明るい声を出した。
「まあ確かにヒョンは完璧主義者だからね、仕事に対する集中力は凄いよ。・・・でも今どれくらい演技に集中してるかは判らないけどね。」
ジェルミの言葉にミニョは首を傾げた。
「テギョンさんはいつも台詞も演技も完璧だって聞いてますけど。」
「さあ、今日はどうだろうね・・・」
ジェルミが悪戯っ子のようにクスッと笑うと、ミニョの肩を抱き寄せ頭をコツンとくっつけた。
「カーット!」
監督の声にスタッフ皆がミンジの方を見ると、頭を下げているのはテギョンだった。
「プッ・・・クックックッ・・・。ヒョン今完全に俺達に背中向けてたのに、何で判るのかな。頭の後ろにも目がついてるの?」
ミニョの肩から腕を離すと、ジェルミはその場でお腹を抱えて笑い出した。
ファン・テギョンがNGを出すなんて・・・
初めてまともにドラマの撮影を見ているミニョよりも、スタッフの方がその驚きは大きいようで、皆目を丸くし一瞬その動きを止めた。
が、次の瞬間には何事もなかったように・・・何も見なかったというように振舞うスタッフ達。
「テギョンさんのNGってきっと初めてですよね。そんな日に偶然撮影を見ているなんて、私達って凄く貴重な体験をしましたね。」
何故だか興奮気味で話しているミニョの姿がおかしくて、ジェルミはなかなか笑いが止まらない。
「きっとミニョが見てるから緊張したんじゃない?」
― 俺があんなにくっつかなきゃNGなんて出さなかっただろうけど。ホント、ヒョンって焼きもち妬きだよな。
ジェルミは自分を睨みつけているテギョンの視線を感じ、ミニョの後ろへこそっと隠れた。
「テギョンさん、お疲れさまでした。」
テギョンはミニョから受け取ったペットボトルの水をぐいっと飲むと、乱暴に口元を手の甲で拭った。
「ジェルミは?」
「もうずいぶん前に行っちゃいましたけど。」
「チッ、逃げたな・・・」
テギョンは舌打ちするともう一口水を飲む。
「テギョンオッパ、お疲れさまでした。」
ミンジがテギョンの後ろから声をかけた。
「今日は吃驚しました。まさかテギョンオッパがNG出すなんて・・・あ、ごめんなさい、NGばっかり出してる私が言うことじゃないですよね。でも何か親近感がわいてきて・・・テギョンオッパでもNG出すんだなって思ったら、ちょっと安心しました。・・・って、これも私が言うことじゃないですね。NGだらけの私が安心してたらもっとNGだらけになりますね。」
「俺だって失敗することはある。」
ジェルミがあんな事さえしなければ・・・
ミニョとジェルミが立っている壁に背を向けて演技をしていたテギョン。丁度視線の先の大きなスタンドミラーに二人の・・・ジェルミがミニョの肩を抱いている姿が映っていた。
一瞬思考が停止し、台詞が出てこない。
気付いた時には監督のカットの声がかかっていた。
テギョンは口元を歪めると、恥ずかしそうに笑いながら話をしているミンジに目を遣り、ミニョの方へ手を出した。
「今日の俺の撮影は終わりだ。…出せ。」
「え?テギョンさん・・・でも・・・」
ミニョにはテギョンが何を要求しているのか判ったが、いつもは人目につかないように車の中か控室で渡していた為、ポケットに入れた手をそのまま出せずにいた。
「いいから出せ。あとは事務所に帰るだけなんだ、問題はない。今日は・・・今、必要なんだ。」
テギョンの真剣な眼差しに、ミニョはポケットの中で握りしめていた小さな箱をテギョンの手の平の上へ置いた。
「ミニョは先に車に戻っていろ、俺は後から行くから。いいか、ちゃんと車で待ってろよ。」
テギョンは車のキーをミニョへ渡すと手の中の箱を握りしめ、スタジオの隅に置かれた椅子へ向かって歩き出した。
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― ピグのお部屋より ―
「ミニョ、ジェルミからだ。」
マンションに帰ってきたテギョンが手に提げていた袋をミニョへと渡す。
「何でしょう?・・・わあ、メロンパンだ!」
ミニョが袋の中を覗くと、そこにはまだほんのりと温かいメロンパンが二つ。
「丁度お腹がすいてたんです。オッパ、一緒に食べましょう。」
「俺はいい、お前が食べろ。」
「はい!わあ、まだあったかいです。」
ニコニコと嬉しそうにメロンパンを頬張るミニョの姿にテギョンの顔が綻ぶ。
「・・・美味そうだな。」
「はい、あったかくて、甘くて、中はふわふわで、とってもおいしいです。」
笑顔で答えるミニョはパクパクとパンを食べているが、暫くするとテギョンが自分の食べているパンをじっと見ていることに気が付いた。
あっという間に一つ食べ終えたミニョは袋に入ったパンをテギョンへと差し出す。
「はい、オッパも食べて下さい。さっきからずっと見ていたでしょう?」
もう、そんなに食べたいんなら早く言ってくれればいいのに・・・とテギョンの顔を見ながらクスッと笑った。
テギョンはフッと口元を緩めるとミニョの差し出した袋・・・ではなく、ミニョの手を摑んでぐっと引き寄せた。
「俺が食べたいのはこっちだ。」
そのままミニョに口づける。
ミニョの唇を優しく包み込み、啄むようなキスを続け、最後にペロッとミニョの唇を舐めた。
「本当にあったかくて、甘くて、ふわふわで・・・美味いな。」
テギョンが見ていたのはメロンパンではなくミニョのおいしそうな唇。
「今度は俺が食べる番だな。」
テギョンは口元に笑みを浮かべミニョを抱き上げるとそのまま歩き出した。
「えっ、ちょっ、ちょっと待って下さい、どこ行くんですか?まだ・・・まだメロンパンが一個残ってます~」
ミニョの声はリビングから遠ざかり、バタンと閉まるドアの音。
テーブルの上にポツンと残ったメロンパン。
このパンがミニョの口に入るまでには、もうちょっと時間がかかりそう・・・
*:.。。.:゜ *:.。。.:゜ *:.。。.:゜
ある日、ピグのお部屋に行くとテーブルの上にメロンパンが。
どなたでしょう?
ありがとうございます。お礼が遅くなってしまってすみません。
ケーキに続いてメロンパン。
こんな感じのお話になるのは食べ物だから?
この二人だから?
ただの 『おまけ』 ですので、笑って許して~~
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