ドラマの撮影に同行するのはこれで二度目だが、前回は途中でスタジオから出されてしまった。テギョンが演技をしているのをあまり見られなかったミニョは、今日の撮影をとても楽しみにしていた。
歌を歌っている時とはまた別の魅力があり、新たなファンが増えている事実にミニョはアン社長がテギョンにドラマをやらせたがる気持ちが判る様な気がした。
テギョンは椅子に座り、台本で半ば顔を隠すようにしながらミニョを視界の端に捉えていた。
「今日はいつものマネージャーさんじゃないんですね。」
隣で台本を開いているミンジがスタジオの中を挨拶をしながら歩き回るミニョを見ている。
「ああ、他の仕事で忙しそうだったからな。まあ、いてもいなくても同じ様なものだし。」
テギョンはマ室長の顔を思い浮かべ、フンと口の端を上げた。
「ミニョさん・・・でしたよね。どうして歌手としてデビューしないんですか?マネージャーだなんて・・・」
「契約すれば色々と縛られることが多いからな。あいつにはそういうのは合わない。・・・マネージャーの方がもっと合わないけどな。」
テギョンは立ち上がりミニョの方へ向かって歩き出した。
ミニョはスタッフ全員に挨拶をするべく、スタジオの中を歩き回っている。その歩く先にカメラ等撮影機材のコードが何本も横たわっていた。そして案の定ミニョがそれに足を引っ掛け転び・・・そうになったところをテギョンが腕を摑み傾きかけたミニョの身体を立て直した。
「ミニョ・・・俺の仕事を増やしてくれるな。」
文句を言いながらもテギョンの口元には微かに笑みが浮かんでいる。
「オッ・・・テギョンさん、すみません、ありがとうございます。」
テギョンの方を向き身体を大きく二つ折りにして謝るミニョ。丁度そのすぐ後ろを通りかかったスタッフが後ろに突き出したミニョのお尻にドンッと押され派手に転んだ。
「プッ、クックックッ・・・」
慌てて今度はそのスタッフの方を向いてペコペコ謝るミニョに、スタジオの中にいた人達はクスクスと笑い出す。
「全くどこにいても事故多発地帯だな。」
口に拳を当て笑うテギョンにミニョは顔を赤くしながらすみませんと謝った。
「お前のすみませんは最早あいさつ代わりだな。」
「・・・すみません・・・」
「いいからお前はチョロチョロしないで隅でじっとしてろ。」
しゅんと頭を項垂れるミニョがスタジオの隅へ行こうとした時、テギョンが周りに聞こえない様に小さな声で言った。
「よそ見をしないで俺だけを見ていればいい。」
通り過ぎざまにそう言って歩いて行くテギョンの後ろ姿を見ながら、更に顔を赤くしたミニョはペコリと頭を下げるとバタバタとスタジオの隅の方へと走って行った。
「ミニョさんってもっと落ち着いた人なのかなって思ってたんですけど、意外とドジなんですね。」
壁際に立ち、テギョンに言われた様にじっとしているミニョを見ながらミンジが言った。
「一見おとなしそうに見えるが何をしでかすか判らないヤツだからな。これでもマシになった方だ、以前はもっと・・・色々とやってくれた。」
これまでに起こった数々の出来事を思い出しフッと笑うテギョンの顔は、ミンジが今までに見たことのないくらい柔らかな表情をしていた。
テギョンはテーブルの上に置かれたコーヒーに手を伸ばす。
「ミニョさんとジェルミさんて仲が良いんですね。」
「何だいきなり。」
「この間、控室でジェルミさんが抱きついてましたよね、あれには驚きました。」
「ジェルミのあれは・・・ハグだ。ただの挨拶だ。別に相手がミニョに限ったことではない、他の奴にもすることだ。」
テギョンは口元を歪めながらコーヒーを一口飲む。口の中にゆっくり広がっていく香ばしい苦み。
「へえ~、そうなんですか。」
「ああ、そうだ。」
テギョンはコーヒーを見つめながらこの間飲んだ苦い缶コーヒーの味を思い出し・・・ミニョとのキスを思い出し・・・目を瞑ると口の両端を微かに上げた。
「でも・・・他の人には手を振ってるだけでハグはしてないですよ。ミニョさんだけです・・・ほら。」
ほら?
今起こっていることを見ているかのようなミンジの言葉にテギョンが目を開けミンジの視線の先・・・ミニョの立っている方を見ると、ミニョに抱きついているジェルミの姿が見えた。
「何でジェルミが・・・」
不機嫌オーラを漂わせ近付いてくるテギョンに気が付くと、ジェルミは慌ててミニョの背中へスッと身を隠す。
「何でジェルミがこんなところにいるんだ。」
「俺も今日このテレビ局で収録があるんだ。マ室長から今日はミニョがヒョンと一緒だって聞いてちょっと覗きに来た。いいだろ、少しくらい見学させてよ。」
「仕事があるならさっさとそっちへ行け。」
「大丈夫、時間はまだあるから。」
顔をしかめるテギョンの背中に、撮影を始めると声がかかる。
テギョンはミニョの後ろに隠れたままのジェルミの襟を摑むとミニョから引き離した。
「少しくらいなら構わないが、もっとミニョから離れて見ていろ。」
「・・・ホントにヒョンは焼きもち妬きなんだから・・・」
テギョンに聞こえないくらいの小さな声で呟くジェルミと、それをしっかりと聞いてジェルミを睨むテギョンを見ながら、ミニョは口元を手で隠しクスクスと笑っていた。
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