車から降りるとそこは人工的な光のない暗い草原で、星が輝き蒼白い月の光だけが二人を優しく照らしていた。
「うわぁ、凄く綺麗ですね。」
感嘆のため息を漏らし夜空を見上げるミニョ。
「俺たち二人が外で人目を気にせず、のびのびと出来るのはこんな場所くらいしかないな・・・」
ミニョの横で同じ様に夜空を見上げているテギョンの顔は少し辛そうに見えて、ミニョはそっとテギョンの手を摑むと首を横に振った。
「オッパ、こんな最高の場所は他にありませんよ。だってあんなにたくさんの星を二人だけで見られるんですから。」
満天の星を見上げ、笑顔を見せるミニョにテギョンの顔も綻ぶ。
「あの男とは・・・車の中でどんな話をしていたんだ?」
嬉しそうに夜空を見上げているミニョの横顔にテギョンが話しかけた。
「行きの車の中ではテギョンさんの会社の話を聞きました。食品メーカーで、飲み物だけじゃなく、お菓子やアイスも作っているそうです。そうだ、もらったコーヒー飲みませんか?あ、でもオッパのもらったコーヒーは一番苦いって言ってましたね。・・・・・・オッパ、飲めないかも・・・」
車から取り出した缶コーヒーをテギョンへと手渡すと、ミニョは最後にひと言付け加えた。
「いや、せっかくだから飲もう。」
あの男からもらったコーヒーなど誰が飲むものかと思っていたテギョンだったが、ミニョに苦くて飲めないかも・・・と言われては飲まない訳にはいかない。
「これ、すっごくおいしいですよ。オッパのはどうですか?」
テギョンの飲んでいたコーヒーを飲むとミニョは途端に顔をしかめた。
「う・・・これ、凄く苦いですね・・・・・・罰ゲームによさそう・・・」
ミニョの言葉にテギョンが笑い出す。
「結局あの男にはずっと振り回されっぱなしだったな。」
「そうですね、でもオッパがお兄ちゃんじゃないってちゃんと伝えられたし、オッパのこと 『ファン・テギョン』 だって気付いてないみたいなんで、アン社長との約束も守れてよかったです。」
いつも突然現れて、言いたいことだけ言って去って行くハン・テギョンに、テギョンは苦笑いを浮かべた。
「そういえば、あの男が言っていた 『忘れないように』 って、何のことだ?それに、あいつ車の中でお前に何をしたんだ?」
ハン・テギョンの車の後ろからずっと様子を窺っていたテギョン。細かな動きは判らないが、ミニョの方へ身を乗り出す姿ははっきりと判った。
「えーっと、まつ毛にゴミがついてたんで、取ってくれたんです。その後で男の人の前で目を瞑っちゃダメだって。取ってあげるから目を瞑ってって言ったのはテギョンさんなのに。」
テギョンは飲んでいたコーヒーを噴き出すと、ゴホゴホと咳込んだ。
「な・・・ミニョ・・・お前・・・本当にあいつの目の前で、目を瞑ったのか?」
「はい、目に入りそうだから、触らないでって。」
「まさか、他にも何かあったんじゃないだろうな。」
「何かって・・・オッパの話をしていただけです。その前はちょっと寝ちゃったんで、別に何も・・・」
「なにっ!?」
ハン・テギョンの車の助手席で眠り、目の前で目を瞑る・・・
ミニョのあまりの無防備さに、クラクラと眩暈さえしてきたテギョンは大きなため息をつくとミニョの目の前に立った。
「ミニョ・・・今日は俺が特別な星を見せてやる。」
拳を握りハァ~と息をかけると大きく振りかぶった。
「オッパ!?」
首をすくめてギュッと目を瞑るミニョの唇にテギョンの唇が重なる。ミナムのフリをしていた頃、テギョンと二人で映画を見た後にされたのと同じキス。
「ミニョ、あいつが言ったのはこういうことだ。俺以外の男の前で簡単に目を瞑るな。」
少し赤くなった顔を俯け小さく頷くミニョにテギョンは何かを考える様に眉根を寄せ、口の片端を上げると持っていたコーヒーを目の前で見せた。
「あまりにも無防備すぎる罰だ、飲め。」
「えっ、それ、凄く苦いですよ。」
たじろぐミニョに楽しそうに笑みを浮かべるテギョン。
「罰なんだから我慢しろ。」
「・・・・・・・・・」
口をキュッと結び上目遣いでテギョンを見るミニョ。
「仕方ない・・・少ししか残っていないんだが俺も手伝ってやるから、ちゃんと飲めよ。」
テギョンはニヤリと笑い、口にコーヒーを含むと少しだけ飲み、ミニョの顎に指をかけ上向かせると唇を合わせた。
「んんっ・・・」
ミニョの口の中に流し込まれる液体。
ミニョの喉がゴクンと音を立てたのを確認するとテギョンはゆっくりと唇を離した。
「どうだ、美味いか?」
初めてのことに驚いたミニョは手で口を押さえたまま首を横に振る。
「そうか?俺はさっきより美味くなったと思うが。」
「あ、味なんて、全然判りません!」
蒼白い月の光に照らされたミニョの顔は、テギョンにもはっきりと判るほど真っ赤になっていて・・・
短く反論する姿が妙に可愛く見えた。
「じゃあ丁度いいな・・・罰なんだから、ちゃんと全部飲めよ。」
ニヤリと笑いコーヒーを口に含むとミニョの唇を塞ぐ。
ゴクリと鳴るミニョの喉。
二度、三度と繰り返すと、唇を離した時に薄く開いたミニョの潤んだ瞳が見えた。
テギョンが唇を近づけると再び閉じられる黒い瞳。
缶の中身が無くなる頃には・・・
唇を合わせたままテギョンの腕はミニョの身体を強く抱き寄せ、ミニョの手はテギョンのコートの背中をしっかりと摑んでいた。
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