そんなつもりなど全くなかったが、結果としてミニョと二人でハン・テギョンが去っていくのをじっと見送る破目になってしまったテギョンは小さく舌打ちすると、運転席のドアを乱暴に開け、手に持っていた缶コーヒーを無造作に後部座席へと放り投げた。
シートに深く腰掛け、一度大きく息を吐き、エンジンをかけるとスタートした瞬間から低く太い排気音が後方から響いてきた。
走り出してからどのくらい経っただろうか。
暗い夜道を走る車はいつの間にか街の灯りから遠ざかっていた。
すれ違う車の数も徐々に減ってきている。
時折対向車のライトに照らし出されるテギョンの顔はあまりにも真剣に見えて、ミニョは窓の外の闇を見つめながら、なかなか声をかけられずにいた。
口元を歪め眉間にしわを寄せたまま黙ってハンドルを握るテギョンを横目でチラッと見ると、ミニョは車に乗ってから何度目かのため息を漏らした。
「オッパ・・・怒って・・・ます?」
両手で包み込むように持った缶コーヒーを見つめ、時折テギョンへと視線を向けながら控え目に聞いてみると、テギョンは眉間のしわを更に深くし、ハンドルを指先で苛々と叩きながら口の端をピクピクと動かした。
「怒っているか、だと?・・・怒っていないように見えるか?」
口の片端を上げ、小さく笑うテギョンの声が怒りを抑えているように微かに震えて聞こえた。
「あ、あの・・・ごめんなさい。オッパが私のお兄ちゃんじゃないって・・・私が話してしまって・・・」
ミニョはテギョンから 『俺が話すから黙っていろ。』 と言われたのに、自分が話してしまったことを怒っていると思いしゅんと俯く。
テギョンはミニョの様子に開きかけた口を閉じるといった動作を何度か繰り返した後、大きなため息をついた。
「まあ、そのことは・・・もういい。あの男にちゃんと伝わったのならそれで。・・・って、本当に伝わっているんだよな。」
確かにさっきミニョの彼氏と呼ばれたが、本当に正しく伝わったのか一抹の不安が残るテギョンはミニョの方を見ると眉をひそめた。
「はい、大丈夫です。でも・・・私が話をするよりも前から気付いていたそうです。やっぱり彼氏だったんだねって・・・」
ミニョはそういった時のハン・テギョンの沈んだ声を思い出すと手の中の缶コーヒーをギュッと握った。
気付いていた?
それなのに今日呼び出されたミニョの後をついて行き、いつあの男の前に現れて本当のことを教えてやろうかとずっとタイミングを計っていた自分は一体何だったのかと思うと、どっと疲れが出てくる。
「オッパ、そのことは・・・って、他に何を怒ってるんですか?」
キョトンとした顔を自分の方へ向けるミニョを見て、テギョンは口の端をピクリと動かした。
自分の苦労のことなどこの際どうでもいい。問題はミニョだ。この、のほほんとした顔・・・
今も、ハン・テギョンにもらった缶コーヒーをずっと手に持ち続けたままのミニョを見ていると、顔が険しくなる。
「今日はずいぶんと楽しそうだったな。ケーキもたくさん食べられて・・・良かったじゃないか。」
「はい、凄くおいしかったです。あんなにたくさんの種類のケーキを食べたのは初めてです。」
あの男と一緒にいて楽しそうだったなと嫌味で言ったつもりがミニョには伝わっていないらしい。今日食べた色とりどりのスイーツを思い出しているのかニコニコと楽しそうに笑みを浮かべている。
『ミニョ、案外楽しそうじゃん・・・テギョンヒョンじゃ絶対こんなとこ連れて来てくれそうもないから無理ないかもね。』
ミナムの言葉がテギョンの頭をよぎり、口が尖りだす。
いくらハン・テギョンへの礼のつもりで付き合っただけだとしても、他の男と一緒にいて楽しそうにしているミニョを見ると腹が立つ。
「どうせ俺はあんな店には一緒には行けそうにないからな。俺はケーキなんてたくさん食べられないし・・・良かったじゃないか、あの男に誘われて。」
拗ねたようにプイッと横を向くテギョンの姿が何だか子供っぽく見えて、ミニョはクスッと小さく笑った。
「でも、やっぱりオッパが時々買ってきて下さるケーキが一番おいしいです。オッパは半分しか食べられなくても、オッパとお話しながら食べるケーキは最高においしいです。ケーキじゃなくても、ご飯でも、お茶でも何でもいいんです。お店じゃなくたって、家でも、車の中でも、場所なんて関係ありません。オッパと一緒なら、どこで何を食べても最高においしいです。」
少しはにかみながら自分の方を見て力説しているミニョの姿に、尖っていたテギョンの口の両端が徐々に上がっていった。
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食べ物ってやっぱり賞味期限があるんですね・・・
ピグ・・・テーブルの上にケーキが置いてあったのに・・・
消えちゃってたぁ~~~!
ショック・・・
早めに食べればよかった。
きっとミニョならすぐに食べちゃうんだろうな・・・テギョンに内緒で?
*:.。。.:゜ *:.。。.:゜ *:.。。.:゜
「ミニョ、ここに置いてあったケーキ知らないか?」
「えっ!・・・し、知りません!」
テギョンがテーブルの上を指差すと、わざとらしくテギョンから視線を逸らしたミニョの瞳が左右に泳ぎだす。
ミニョ・・・お前まさか一人で・・・
「あっ、口の横にクリームが!」
「えっ!?ど、どこですか!?」
慌てて口を押さえるミニョ。
あまりにも思い通りの反応にプッと噴き出すテギョン。
「せっかく一緒に食べようと思ったのに・・・仕方ない、味見だけさせろ。」
テギョンはミニョの腰をしっかりと抱き寄せると、もう一方の手を頭の後ろに回し深く唇を合わせる。
何度も角度を変えミニョの舌をゆっくりと味わい、唇の隙間から微かに漏れるミニョの甘い息を耳にすると、満足気に唇を離した。
「俺にはこのくらいの甘さが丁度いいな。」
*:.。。.:゜ *:.。。.:゜ *:.。。.:゜
ああ、一体何書いてるんだか・・・
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