事の起こりは数日前。
ハン・テギョンからミニョに電話がかかってきた。
自分一人ではちょっと行き辛い場所に一緒に付き合ってもらえないか、という。
ミニョとハン・テギョンが接触する。
テギョンは二人の前に姿を現し、自分とミニョの正しい関係をしっかり教えてやろうと、ミニョからハン・テギョンの言う一人では行き辛い場所とやらのことを詳しく聞き出した。
「あいつは何て言ってきたんだ?」
『ケーキです。』
「どこに行くって?」
『ムースです。』
「何のことだ?」
『スイーツです~』
電話の向こうではウキウキと楽しそうなミニョの声。
テギョンの質問に答えになってない言葉を繰り返す弾んだミニョの声に、テギョンはムッとすると思いっきり口を尖らせた。
ミニョの話では誘われた場所はホテルのスイーツバイキング。以前から行きたかったのだが、女性客ばかりで男一人では入り辛く、ミニョを誘ったという。
「そんなにあいつと出掛けるのが嬉しいのか?」
『いえ、ケーキが嬉しくて。』
「お前はケーキにつられたのか。」
『いえ、そういう訳では・・・・・・。でもオッパが言ったんですよ、変な誤解を解く為にも、一度ちゃんと会って話をした方がいいって。』
「それはそうだが・・・」
『テギョンさんには凄くお世話になりました。もしかしたらあの日私はずっとバス停に立ち続けていたかも知れません・・・。私がテギョンさんの言う場所に一緒に行くことがお礼になるのなら、行っても構わないと言ったのはオッパです。』
確かにハン・テギョンには世話になった。その相手にお礼がしたいと言うミニョに、何でもかんでも 『許可しない』 と言っていては、度量の狭い男だと思われそうでミニョが出掛けることをOKしたのだが。
ミニョがハン・テギョンの言う場所に付き合い、テギョンが姿を現して真実を話し、彼の目の前でミニョを連れ去るつもりだった。が、場所が女性客の多い店。テギョンが姿を表せば、A.N.JELLのファン・テギョンだとすぐにバレてしまうだろう。ミニョを一緒に連れて出れば大騒ぎになる。
『オッパ、テギョンさんには私からちゃんとお話します。お店には来なくて大丈夫です。』
テギョンに、アン社長とした約束を破らせる訳にはいかないと、ミニョはテギョンが店に姿を現すことに反対した。
「いや、俺から言う。お前は何も言わなくていい。」
いつも言いたいことだけ言って勝手に妙な解釈をするハン・テギョンに対し、ミニョが一人で説明したのではまた変な誤解をしてややこしくなってはと警戒したテギョンは、自分が話をすると言い張った。
「しかし一体どこで・・・あーもう面倒だ、ついて行く、いや、つけて行く。お前達の後をつけて適当な場所で俺が現れ、あいつに説明する。」
「でもよくテギョンヒョンがOKしたよね、ミニョが他の男と会うこと。」
「結局、後つけてるんだから、世話がないよ。」
何故、今日、ミニョが誰とどこへ行き、その後をテギョンがつけて行くことを皆が知っているのか・・・
ミナムが合宿所のソファーでうたた寝をしていると、ミニョが地下の練習室を使いに来た。
「あれ、お兄ちゃんこんなとこで寝てたら風邪ひいちゃうのに。」
ミニョはミナムを起こそうと体を揺するが起きる気配はない。仕方なく、ミナムがかけていたであろうソファーからずり落ちた毛布をミナムにかけたところで携帯が鳴った。
「もしもし、オッパ・・・はい・・・・・・ケーキです・・・ムースです・・・スイーツです~」
ミナムは目を瞑ったまま、ミニョの話をしっかりと聞いていた。
そしてこいつは面白そうだと早速ジェルミに話し、ジェルミはシヌに相談し、マ室長を巻き込んでA.N.JELL+ヘイの大移動となった。
「テギョン、怒るだろうなぁ・・・」
テギョンと会った時のことを考えると、マ室長は身震いをした。
「でもテギョンヒョン一人だったら目立ち過ぎて店の中には入れないだろう?俺達と一緒なら打ち合わせのフリして堂々と入って行けるし、どうせ苛々しながら店の前でウロウロしてるのが関の山なんだから、感謝してもらってもいいんじゃない?」
エレベーターを降り、シヌ、ジェルミ、ミナム、ヘイと、その後ろにこそこそと隠れるようにしてマ室長の五人が絨毯の上を歩いて行くと、店の前でコートの襟を立て、ウロウロと歩き回っている眼鏡をかけた一人の男の姿が。
「テギョンヒョン。」
「な、何だ!お前達、こんな所に皆で・・・」
ミナムがそっと声をかけると、振り向いたテギョンはその場にいる皆を見て飛び上がらんばかりに驚いた。
「やだな、ケーキ食べに来たに決まってるじゃん。ほら、こんなとこでウロウロしてたら余計目立っちゃうだろ。大丈夫、事情はだいたい知ってるから、ミニョには声をかけないよ。」
ニヤリと笑うミナムに背中を押されながら、テギョンは店の中へと入って行った。
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