撮影スタジオへ向かう車の中でテギョンは首からスルリと月のネックレスを外し、ポケットの中から小さな木箱を取り出すと蓋を開け月を中へしまった。
「終わるまでミニョが持っててくれ。」
木箱をミニョへと手渡す。
「憶えていて下さったんですか?」
「当たり前だ、俺はちゃんと約束を守ってるぞ。」
ミニョから貰った月のネックレス。ミニョとの関係を知られない為に仕事中は外すと約束した。だが、未だにこれを着けたままにできないでいる二人の関係に、テギョンは歯がゆい思いをしていた。
「ドラマの撮影スタジオって初めてです。何だか私の方が緊張しちゃいます。」
ワクワクと瞳を輝かせているミニョを見て、たとえ今はまだ公にできなくても二人で外を歩ける機会ができたことに、テギョンは頬を緩めるとミニョの手を握った。
車から降りるとミニョはオッパではなくテギョンさんと呼びだした。
「いつ何処に人の目があるか判りません。」
マ室長と一緒にスタジオへ入って行く。目立たないように隅にいろと言われ、ミニョは壁際に立っていた。
衣装に着替えメイクをしたテギョンがセットに入り、テギョンの出演するシーンの撮影が始まる。
一人でのシーンは難なく終わったが、女優とのシーンになるとNGが連発した。NGを出しているのは女優の方らしく、監督に呼ばれ何度も頭を下げている。
テギョンの役名は 『ヒョヌ』 、女優の役名は 『ミンソ』 。
監督がテギョンを呼び何やら指示を出すと、テギョンの顔が曇った。マ室長が呼ばれミニョの方へ小走りでやって来た。
「ミニョさん、下の喫茶店で待ってて下さい。」
「え?見学してちゃダメなんですか?」
「いや、ちょっと・・・。相手の女優と上手くいかないんでちょっと時間がかかりそうで・・・。テギョンが下で待っててくれって。」
マ室長はミニョの返事も聞かず、背中をぐいぐいと押すと重い扉を開けミニョをスタジオの外へ押し出した。
「監督・・・どうしても必要ですか?」
ミニョの姿がスタジオの中から消えたのを確認してからテギョンは監督へと顔を向けた。
「ああ、その方がミンソの心の動きがより表情に出やすいからな。」
「・・・判りました、早く始めましょう。」
テギョンは顔をしかめるとセットの中へ入って行き、撮影が再開された。
ミニョが喫茶店の椅子に座ってから二時間ほど経った頃、マ室長の肩を借りテギョンがふらつく足で戻って来た。
「オッパ・・・テギョンさん!どうしたんですか!」
ミニョが慌てて近寄りマ室長と反対側の肩を担ぐ。
「あの監督めちゃくちゃだよ、いくらテギョンが酒に強いからってあんなにNGが出てるシーンで何も本物のウイスキーいっきに飲ませなくても・・・一体何杯飲んだんだ?テギョンもよく何も言わずにやってたよな、絶対途中でキレると思ったんだが。」
二人でテギョンを車まで運ぶと、マ室長は急いで車を走らせた。
「この後何も仕事入れてなくて良かったよ、こんな状態じゃあ何も出来ない。」
ミニョは後部座席で横になっているテギョンの頭を太腿の上に乗せ、額にかかる黒髪をそっと指で掻き分ける。
「オッパ、大丈夫でしょうか・・・」
眠っているのだろうか、赤い顔で時折苦しそうに眉間にしわを寄せるテギョンは、呼びかけても返事がない。
「急性アルコール中毒にはなってないと思うが、明日の朝は二日酔いがひどいかもな。」
心配そうにテギョンを見つめるミニョは今にも泣き出しそうな顔をしている。
「あの、どうして私は途中でスタジオから出されちゃったんですか?」
「監督が指示の追加をしたんだよ、テギョンに相手の女優を抱きしめろって。テギョンのそんな姿、ミニョさんに見せたくなかったんじゃないかな。」
「オッパ・・・」
「テギョン頑張ってるよ、アン社長と約束したからって嫌いなドラマの仕事も、文句一つ言わずにやってる。」
「・・・・・・」
「ミニョさん、マンションに帰るならこのまま送ってくけど。」
「いえ、合宿所に行ってください。オッパを置いて帰るなんて出来ません。」
車が合宿所に着くと、また二人でテギョンを支えながら中へ入って行く。
テギョンの部屋まで行きベッドに寝かせると、マ室長はふうっと息を吐いてテギョンを担いでいた方の肩をほぐすようにグルグルと回した。
「皆、今日も帰りは遅いから、テギョンのことよろしく。」
マ室長はミニョを残し、部屋から出て行った。
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