施設での仕事を終え買い物も済ませたミニョがマンションへ入ろうとすると、建物の陰から突然不機嫌な顔をしたテギョンが現れた。
「えっ!?オッパ?」
「お前仕事が終わったら携帯の電源入れろ。」
テギョンはハァ~と息を吐き、手に持っていたバッグをミニョへ渡した。
「今朝、仕事用のバッグだけ持って、着替えの入ったバッグ忘れてっただろ。」
今朝、部屋を出ようとしたテギョンはミニョがバッグを忘れていったことに気づき、電話をしたが繋がらない。夕方事務所の車を借り、マンションまで来たがミニョはまだ帰っておらず、いくら部屋のカギを持っているとはいえ、カトリーヌも一緒に住んでいる部屋に勝手に入る訳にもいかず・・・。結局建物の外でじっとミニョの帰りを待つことになった。
「すみません。オッパ、ありがとうございます。・・・でも何だか得しちゃった気分です。またオッパの顔が見られて。」
嬉しそうに笑うミニョの一言で、ムスッとしていたテギョンの顔が綻んでいく。
部屋へ入って下さいと言うミニョに、テギョンはまだ仕事が残っているからと断り帰ろうとしていると、マンションの前の道路に一台の車がスッと停まった。
「あれ?ミニョちゃん、久しぶり。」
運転席の窓を開け大きく身を乗り出し、ニコニコ笑って手を振っているのはハン・テギョン。
「ミニョちゃんだと?」
テギョンは突然現れたミニョのことをちゃん付で呼ぶ男を思いっきり睨んでいる。
「あれ?そっちの人は、どこかで・・・」
ハン・テギョンはミニョの横にいたテギョンの顔を見て首を傾げた。
テギョンは胸ポケットに入れていたサングラスをかけ、ミニョはテギョンを隠すようにスッと一歩前へ出る。
咄嗟に顔を隠したテギョンだったが、これはもしかしたらチャンスでは、と思った。
テギョンの顔を見て男が騒ぐ → 集まって来た人々にミニョと一緒にいる所を見られる → 恋人か?とマスコミが騒ぐ → 正式に交際発表・・・・いや、婚約発表か?
半年間はミニョとのことを秘密にすると約束したアン社長には悪いが、これは一種の不可抗力ではないかと内心ニヤついたテギョン。
「ああ、ミニョちゃんのもう一人のお兄さん。」
「誰がお兄さんだ!」
予想もしない言葉に慌ててサングラスを外したテギョンの顔をじっと見て、何かを思い出すように眉根を寄せ目を瞑っていたハン・テギョンは目を開けると、あっと短い声を上げた。
「中山聖堂で道を教えてくれた人! いや~ミニョちゃんのお兄さんだったんですね、僕はハン・テギョンと言います。ファン・テギョンじゃないですよ、似てるでしょ、名前だけは。あ、ミニョちゃん、僕これからオーストラリアに出張なんだ。一ヶ月の予定なんだけど、帰って来てまたどこかで会えたら今度こそ携帯の番号教えてね、じゃあ。」
ちょっと待て!と言うテギョンの声は届かず、言いたいことだけ言ってあっという間に去って行ったハン・テギョンの車を呆然と見送るテギョンとミニョ。
「ハン・テギョンだと?・・・アフリカの!手紙に書いてあった奴か!」
「はい、帰って来てから何度か偶然お会いしました。」
「あいつは俺の顔を知らないのか、ファン・テギョンの顔を!」
「ずっと海外にいてA.N.JELLのことあまり知らないって言ってましたけど。」
「何で俺がミニョのお兄さんなんだ!?」
「さあ、何故でしょう?」
「それに 『ミニョちゃん』 って何だ、馴れ馴れしい!」
「あれ?そう言えばそうですね、最初はミニョさんだったのに、いつの間に・・・」
「ミニョ、あいつの携帯番号知ってるか?きちんと訂正してやる!」
「オッパが男の人には携帯の番号教えるな、メモ渡されても断れって言うから、ちゃんと全部お断りしてるんですよ。テギョンさんの番号だって知りません。」
「あいつが帰って来て偶然会うまで、あいつの中で俺はミニョのお兄さんのままか?・・・ん?ちょっと待て。」
ハン・テギョンの出現により感情的になっていたテギョンだが、ミニョの最後の言葉にふと疑問を持った。
「ミニョ、全部断ってるってどういう意味だ?あいつの他にも誰かに聞かれたことあるのか?」
「はい、最近は聖堂でよく聞かれるんで困ってます。」
何でもないことのようにサラッと答えるミニョにテギョンは頬を引きつらせながらミニョの目を覗き込んだ。
「まさかとは思うがアフリカでも・・・」
「アフリカではそんなに多くなかったですよ。それに携帯持ってませんって言えば済んでたんで、楽でした。」
あっけらかんと答えるミニョに言葉も出ないテギョンは、ミニョの手を摑みそのまま駐車場まで引っ張って行くと助手席に押し込んだ。
「ちょっと、オッパ待って下さい、どうしたんですか急に。何処に行くんですか。」
無言のまま車を走らせようとしているテギョンを阻止するように腕を摑むミニョ。
「アン社長と話をつける。半年なんて待てない、今すぐにでもお前とのことを公表したい。」
ミニョの瞳をじっと見つめる真剣なテギョンの目にたじろぐと、ミニョは摑んでいた手をそっと離した。
テギョンは前方を睨むように見ながらハンドルを強く握るとアクセルを踏み込み、車を走らせた。
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