テギョン、ミナム、ギョンセ、キム記者以外ほとんど人のいなくなった広場で、ギョンセはキム記者を見ながらゆっくりと話しだした。
「キム記者、君は最初に発売された 『言葉もなく』 は、コ・ミニョさんが歌っているのではないかと疑った。そして今、コ・ミニョさんに 『言葉もなく』 を歌ってもらい、その声が同じかどうか私に判断して欲しいと言うんだね。」
ギョンセの言葉にキム記者は無言で頷くと、ギョンセは大きなため息をついた。
「はあ、全く、くだらない。ハッキリ言おう、彼女にはあの 『言葉もなく』 は歌えない。」
「どうしてそう言い切れるんですか、歌ってもらわないと判らないじゃないですか。」
「さっきの彼女の歌を聴いただろう。あれは完全にクラシックだ。呼吸も発声もポップスとはまるで違う。あの歌と同じようには歌えまい。」
「じゃあ・・・あの歌を出した後で、クラシックに転向したんですよ。それならどうです?」
「あの歌が出たのは一年くらい前なんだろう?その一年の間彼女は何をしていた?音大にでも通っていたか?優秀な指導者のレッスンを受けていたか?」
「妹ならアフリカへボランティアに行ってましたよ。あ、帰って来てからはここで仕事してますけど。」
のほほんとしたミナムの声に、キム記者は苦虫を噛み潰した様な顔をすると、余計なことを言うなという風にミナムをギロリと睨んだ。
「実はアフリカで音大に通っていたとか、個人レッスンを受けていたとか・・・」
「大学なんて行ってないですよ。一日中ボランティアやってたんだから。どうぞ、アフリカまで行って思う存分調べて来て下さい。誰かの個人レッスンを受けていたかどうか。まあ、いくら調べてもそんな事実出てこないでしょうけど。」
汗をかきながら必死で食い下がるキム記者にミナムは冷たく言い放つとフンと鼻で笑った。
「彼女にあの歌は歌えない。あの歌を歌っていたのはどちらもコ・ミナムであって、コ・ミニョではない。テギョンがクラシックに戻って来る可能性が無くなったのは残念だが、彼らにやましいことは何もない。もし君がこれ以上この件について騒ぐようなことがあれば、それは私を侮辱していることになるということを憶えておきなさい。」
きつい口調でギョンセに睨まれると、キム記者は唇を嚙み、悔しさで顔を歪め逃げるようにその場から走り去って行った。
キム記者の後ろ姿が完全に見えなくなるとギョンセが軽くため息をついた。
「それで、ボランティアをやっている間に彼女にクラシックを教えたのは誰かな?」
先程までの険しい表情が一変して穏和になり、優しい口調でミナムに話しかける。
「やっぱり、判ってらしたんですね。」
「当たり前だ。二つの歌を聴いてすぐに判った。だがあの歌はどちらも 『コ・ミナム』 として出した歌だろう。だからあの記者にはああ答えておいた。私がここまで来たのはコ・ミニョさんの歌が聴きたかったからだ。彼女の声に興味がある。君の歌ならいつでも聴けるが、コ・ミニョさんの歌はなかなか聴けないと思ってね。」
暗にA.N.JELLの歌ならいつでも聴けるように手元に置いてあると言っているギョンセの言葉にミナムはクスリと笑った。
「音大になど通わなくても活躍しているクラシック歌手は大勢いる。だが独学では不可能だ。素質、努力、そして優秀な指導者が必要だ。一体誰が教えたんだ?」
「・・・そろそろ出てきてもいいんじゃないですか?」
今まで黙っていたテギョンが口を開くと、少し離れた木の陰からカトリーヌが姿を現した。
「カトリーヌさん。」
「・・・キャサリン?」
それぞれ違う名前で呼び顔を見合わせるミナムとギョンセに、カトリーヌは自分の名前の説明をし、ギョンセとは何度か一緒に仕事をしたことがあるとテギョンに話した。
「キャサリンが教えてたのか、道理で完璧な 『アヴェ・マリア』 の筈だ。フレーズと歌詞わりを変えずにオリジナルの楽譜通りに歌える歌手は多くない。それにあそこまで見事に歌うとなると数人しか知らないぞ。」
素晴らしい歌だったと興奮気味に話すギョンセに笑みを浮かべるカトリーヌ。二人とは対照的にテギョンの表情は暗く不機嫌に見える。
「前にカトリーヌさんが言ってた言葉の意味が判りましたよ。確かにあの表情は気をつけた方がいい。俺のすぐ近くで聴いてた男なんか、完全に見惚れてましたよ。・・・シヌヒョンとジェルミが見に来てなくて良かったね、ヒョン。」
口の尖ったテギョンの顔を見ながらクックッと笑い出したミナム。
「カトリーヌさんの指示ですね、どうしてあの歌を・・・。他の歌でもよかったじゃないですか。」
「最初は何でもよかったのよ。元々、キム記者が何を言っても動じないミニョの見方が欲しくて人を集めてたんだから。大衆の力は大きいわ、きっとキム記者が何を言ってもここでミニョの歌を聴いた人達は誰も取りあってくれないでしょう。でもギョンセ氏が来るって聞いて、ミニョの凄さを知って欲しかった。『言葉もなく』 を歌ってたのがミニョだと気づいても、力になって欲しかった。その為にはあの歌が一番いいかなって。」
口を尖らせたままのテギョンに、ごめんねと謝るカトリーヌ、口に拳を当て笑うミナムを見てギョンセの顔が父親の顔へと変わっていく。
世界中を回っていてテギョンと一緒に過ごす時間があまりなかったギョンセ。
いつも父親の言うことに無表情で 『はい』 と返事をするだけだった小さなテギョン。
大きくなった息子が見せる拗ねた表情に思わず笑い出してしまったギョンセはテギョンの肩をポンと叩いた。
「いい人達に出会えて良かったな。テギョン、今度ゆっくりと食事でもしよう、コ・ミニョさんも一緒に。・・・私に紹介してくれるんだろう?」
顔を赤くするテギョンを見つめるギョンセの目はとても優しく、子を思う父親の顔をしていた。
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取り敢えず、キム記者は追っ払いました。
読んで下さってる皆さんに、こんな内容で納得して頂けるかは判りませんが・・・
カトリーヌの名前の件は 『69話 カトリーヌの正体』 に出てきます。
忘れちゃったという方は、よかったら読んでみて下さい。
結局昨日は忙しくてPCを開けず、こんな時間になってしまいました。
遅くなってごめんなさい。
下書きのストックが徐々に減りつつあります。
PCにUPし始めると途端に下書きが進まなくなるんですよね・・・
という訳で(どんな訳だ?)、更新がない時は、「ああ、下書き書いてるのね。」 と思って下さい。
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