空一面に雲が広がっている。厚い雲に陽の光は遮られ、昼間だというのに辺りは薄暗く、今にも雨が降り出しそうだった。
冷たい風に吹かれ木の葉がひらひらと宙を舞いながらゆっくりと地面へと落ちていく。赤や黄、茶色の落ち葉達は人々に踏まれるとカサッと乾いた音を立てた。
明洞聖堂を訪れた人々は、赤色と灰色の煉瓦で建てられた聖堂と、移りゆく景色を楽しみながらも、どんよりとした空に雨が降るのではないかと気にしながら広い敷地内を散策していた。
グレーのフルジップセーターにダークグリーンのカーゴパンツ姿のミナムと、グリーンチェックのカジュアルシャツにダークブラウンのジャケットをはおり、ベージュのチノパンツをはいたテギョンの二人はそれぞれ帽子を目深に被り、広場の奥の大きな木の前にいた。
「今日のこと、ミニョには話してあるの?」
「いや、緊張すると思ってキム記者の事も俺の父親の事も俺がここに来る事も話していない。詳しい話はカトリーヌさんにした。」
「ふーん、ま、俺達の運命はミニョの歌にかかってるんだからヒョンの思うようにしてよ。・・・それにしてもバカデカイ聖堂だなぁ。中山聖堂とは大違いだ。」
ミナムは空を見上げるように背の高い時計塔を見上げた。
「休日になれば韓国中のカトリック信者が集まるとも言われているからな。」
「そうだね、ミニョもカトリックだしね。」
ニヤニヤと意味ありげにテギョンの顔を見るミナムにフンと顔を背けるとテギョンは口を歪ませた。
「ミナムが何を言いたいのかは判っている。だから何度もカトリックを強調するな。」
不機嫌な声でミナムに背を向け、更に帽子を深く被るテギョンにミナムはクスクスと笑いを堪えている。
広場には徐々に人が集まり始めていた。
テギョンとミナムは周りの人間に自分達のことが気づかれない様に俯きながら立っていると、二人の男が目の前で立ち止まった。
「そういう格好をしていると、A.N.JELLのファン・テギョンさんとコ・ミナムさんだとは誰も気づきませんね。電話で詳しい場所を教えてもらって良かったです、ありがとうございます、コ・ミナムさん。・・・それにしても肝心のコ・ミニョさんの姿が見えませんが、まさかドタキャンなんてこと、ありませんよね。」
ニヤニヤと笑うキム記者をうんざりする様な目つきで見ながら、ミナムはキム記者の後ろにいる男性へと目を向けた。
テギョンよりも幾分背の低い黒髪の男性は、目元に少し皺があるが眼光が鋭いところはテギョンとよく似ていた。
「初めまして、コ・ミナムです。」
「ファン・ギョンセです。」
ミナムと笑顔で握手を交わしたギョンセは厳しい顔をするとテギョンの方を見た。
「久しぶりだな・・・テギョン。」
「・・・お元気そうで何よりです。」
とても親子とは思えない挨拶の後、二人は黙ったままで重い空気が辺りに立ち込める。
ミニョを捜してキョロキョロと辺りを見回すキム記者に、ミナムは妹ならもうすぐ来るからじっとしてろと言った。
「キム記者のご希望の歌とはちょっと違うけど、折角だから聴いていきな。ほら、始まる、静かに。」
ミナムが人差し指を口の前に立て静かにするように言うと、聖堂の方から一人の女性が姿を現した。
ヒールの高い靴でちょこちょこと歩く姿がコミカルに見えるのか、周りからクスクスと笑う声が微かに聞こえる。
ミニョは定位置に着くと、お辞儀をしていつものように胸元の星を握りしめ深呼吸をした。
パイプオルガンの音が辺りに広がる。
「あの、バカ・・・」
前奏を聴いたテギョンの口から出た呟きに、すぐ隣にいたギョンセがチラリとテギョンの方を見た。
真っ直ぐに前を見据えるテギョンの顔は、眉根を寄せ困った顔をしている様にも見える。下唇を嚙み、何やら落ち着きのない様子を見てギョンセが訝しんでいると、ミニョの歌声が聴こえてきた。
Ave Maria Ave Maria ・・・
カッチーニの 『アヴェ・マリア』
高く澄んだ声に少し哀しげな旋律。柔らかな声は以前より一段と艶を増している。
マンションに住むようになってからのミニョは、合宿所の練習室でカトリーヌと時々この歌も練習していた。
しかし聖堂で歌うのは初めて。数多くの聖歌を歌い、シューベルトの 『アヴェ・マリア』 も何度か歌っていたが、テギョンから 『俺の前以外では歌うな』 と言われていた為、カッチーニの 『アヴェ・マリア』 は歌っていなかった。
切なげで哀しげな表情。時折目を瞑っては眉根を寄せ、うっすらと開いた瞳で前方を見つめる。
切なく、悩ましく、その旋律ゆえ、妖艶にさえ見えるミニョの姿と歌に、その場にいた人々は息を呑んだ。
長く続くビブラート。
優しさと哀しさが入り混じった伸びやかな声・・・
いつの間にか空を覆っていた厚い雲から暖かな陽の光が一筋降りて来て、まるでスポットライトのようにミニョの身体を照らしている。
それは、まさに聖母マリアに祈りを捧げる乙女の姿として人々の目に映った。
ミナムは何歩か前へ歩いて行き、ミニョの顔がハッキリと見える所へ移動している。
キム記者は微動だにせずその場でポカンと口を開けたまま。
ギョンセは腕組みをして目を瞑り、ミニョの歌声にじっと耳を傾けている。
テギョンは俯き奥歯を噛みしめると、両手の拳を身体の横でギュッと握った。
歌い終わり大きくお辞儀をするミニョに、大きな拍手が湧き起こる。賞賛の拍手はいつまでも鳴り止むことはなかった。
「彼女がコ・ミニョさんだね。」
ミニョが聖堂の奥へと姿を消し、広場に集まっていた人々も帰り始めた頃、ギョンセがミナムの方を見ながらゆっくりと言った。
「えっ!!」
ギョンセの言葉に驚き大声を上げるキム記者を鼻で笑うと、ミナムはギョンセの目をじっと見ながら大きく頷いた。
「何を驚いているんだ。彼らがわざわざ私達をここへ来させた理由はコ・ミニョさんの歌を聴かせる為だろう。」
「そ、そうでした・・・。コ・ミナムさん、コ・ミニョさんを早くここへ連れて来て下さい。 『言葉もなく』 を聴いてもらう為にファン・ギョンセ氏に来て頂いたんです。」
「その必要はない。」
慌てふためくキム記者を咎めるようにギョンセは語尾を強めた。
「私の答えは既に出ている。」
キム記者と会話をしながらも、ギョンセの目はテギョンの目を睨むようにじっと見ていた。
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ピグ。たまたま自分の部屋にいたらお客さんがみえました。吃驚!
あたふたと慌ててしまって、上手くおしゃべりできなくて・・・ごめんね~
その方のお部屋にお邪魔して、何とかご挨拶だけは出来ました。
あぁ、緊張した。
午前中、上の子の学校に行ってきました。図書館のお手伝いです。
窓の飾りを 『お正月』 から 『節分』 に貼り換えて。
コーヒー飲んでおしゃべりして、気づいたら1時。
慌てて帰ってきてお昼ご飯を食べ、ごそごそしていたら下の子を迎えに行く時間。
ちょっと更新時間が遅くなっちゃいました。
明日は一周忌&四十九日の為出かけるので、更新できるか判りません。
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