リビングのソファーに座りいくつもの新聞を広げているジェルミ。
「どの新聞もテギョンヒョンの怪我のこと載ってるね。こっちなんか、A.N.JELL活動休止か?って書いてあるよ。」
「アン社長が暫くはテギョンは表立った活動は控えると言ったからだろう。」
ステージから落ちたテギョンは、左肩脱臼、右足首捻挫、左手首から肘にかけて長さ十センチほどの切り傷はかなり深かった。
検査の結果、頭部に怪我は無く、脳への影響もないだろうということだったが、足を痛めており普通に歩くのも困難なため、大事をとって暫く休養をとるとアン社長から発表があった。
ミニョがアフリカへ出発してから二ヶ月。PV撮影やライブといった外での仕事が多く、CM、ドラマの主題歌等作曲の依頼が溜まっている。
「アン社長、これ以上作曲の仕事は受けないで下さい。自分で納得のいくものしか渡せません。」
休養中に新たに作曲の依頼を受けようかと思っていたアン社長は、テギョンの一言で断念した。
「あと三日もすればミニョ、帰って来るね。楽しみだな~」
ジェルミの明るい声を背中に聞きながら、シヌはキッチンでどのお茶にしようかと戸棚の前で考えていると、玄関からバタバタと慌てた様子の足音が近づいて来た。
「ミナム!勝手に俺のバイク」
乗るなよ、と言おうとしたが、あっという間にリビングの横を走り抜け、階段を駆け上がって行く後ろ姿。ジーンズにチェックのシャツといった格好だったが、いつものミナムより髪が長かったような・・・
「おーい、そんなに慌てなくても・・・」
左手にバッグを持ったミナムが外から入って来てキッチンにいたシヌに声をかける。
「シヌヒョン、俺にもお茶ちょーだい。」
シヌとジェルミはミナムを見た後、二人同時に二階へと顔を向けた。
「「ミニョ!?」」
階段を駆け上がりテギョンの部屋の前まで来たミニョはドアの前で立ち止まっていた。
ノックをしようと右手を上げるがドアを叩けず、その右手で胸元のネックレスをギュッと握りしめ、一度大きく深呼吸をした。口をキュッと結ぶと再び右手をドアへ運ぶ。
コン、コン・・・
恐る恐る叩いたドアの部屋の住人からは何も返事がない。
コン、コン・・・
もう一度ノックするがやはり返事はない。
「オッパ・・・」
呟くような声でテギョンを呼びながらドアをそーっと開け、顔だけ部屋の中に入れるともう一度呼んでみた。
「オッパ・・・」
部屋の中は静まり返っていた。
ゆっくりとドアを開け中に入るとミニョは部屋の中をぐるっと見回した。
きちんと整えられたベッド。以前自分が倒してしまったCDラック。机へ目を向けると、綺麗に削られた鉛筆が何本も入った鉛筆立て。端を揃えて重ねられた五線紙。ソファーの上にちょこんと座るテジトッキ。
ミナムとしてこの部屋で過ごしたのが凄く昔のように思えて。二ヶ月前に一緒のベッドで眠ったのが夢だったように思えて。
胸の奥から湧き上がる熱い想いにミニョの瞳が潤み始めた時、奥のドアが開く音が聞こえた。
「誰だ?勝手に。」
少し不機嫌に聞こえる低く響く懐かしい声。
ミニョが声のする方へ振り向くと、そこには白いバスローブに身を包み、俯きながら頭に被ったタオルで髪を拭くテギョンの姿があった。
走り出すミニョ。
人の近づく気配にテギョンが顔を上げた時には部屋への侵入者はすでに目の前まで迫って来ており・・・
ドンッという衝撃と共に包まれる身体。
一瞬何が起こったか判らなかったテギョンは自分の胸に顔を埋めるように抱きついている人物を見下ろした。
「・・・ミニョ?」
名前を呼ばれたミニョはすぐには返事もできずにテギョンの身体をギュッと抱きしめ顔を胸に押しつけたまま溢れてくる涙をぐっと堪えていた。
不安だった、心配だった。
怪我は大丈夫ですかと聞きたかった。なのに言葉が出てこない。
苦しくて・・・胸が痛くて・・・言葉を発したら涙が止まらなくなりそうで・・・
テギョンを抱きしめる腕に力を込めた。
テギョンの心臓の音が聞こえる。トクン、トクンと優しい音。ずっと聴きたかった音。
テギョンの体温が伝わる。ずっと感じたかった温もり。
自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。低く響く声。大好きな人の声。
帰って来た、韓国に。
帰って来た、テギョンの許に。
「ただいま・・・」
テギョンの胸に顔を埋めたままミニョは小さな声で呟いた。
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前回の記事にもたくさんのコメントありがとうございました。
一人PCの前で頬を緩めて読ませて頂いてます。
30・・・・・・これ何の数字か判ります?
ミニョが韓国にいないお話の数です。
88話中30話・・・約3分の1です。多い・・・
こんなに長い間、二人が離れ離れの状態で進んでいくお話も珍しいんじゃないかなぁと。
(自分で書いててなんですが、私は他に知らない・・・もし他の書き手さんのお話であったら教えて下さい。是非読ませて頂きたい。)
こんな状態の二人の話にお付き合い下さる皆様、ありがとうございます。
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