数時間前・・・
「ねえ、単刀直入に聞いちゃいますけど、ミニョさんってテギョンオッパのことが好きなんですか?」
仕事をしているとソユンがこそこそっとミニョの近くに来て聞いた。
「えっ?」
ソユンはハン・テギョンのことを言っているのだが、いきなりテギョンのことが好きかと聞かれミニョは韓国にいるテギョンのことを思い出す。
「えっと・・・あの・・・好きというか・・・何というか・・・」
― 確かにオッパのことは好きだけど、ここではっきりと恋人ですなんて言っちゃったらまずいわよね。
ミニョが顔を赤くしながら言いよどんでいると、ソユンはクスクスと笑いながら小声で話しかける。
「いいですよ、判ってます。私、協力しますね。」
完全に勘違いをしているソユンはニコニコしながらその場を去って行った。
「テギョンオッパ、ミニョさん帰るみたいですよ、送ってあげたらどうですか?」
夕方、仕事が終わりミニョが帰ろうとしている姿を見てソユンがハン・テギョンに話しかける。
「あれ?いつもと違う方向に行くみたいだけど・・・帰るんじゃないのかな?」
ソユンの言葉にミニョがどこへ行くか気になったハン・テギョンは荷物を手にすると、ミニョの後を追うように部屋から出て行った。
少し離れて後をついて歩いて行く。
久しぶりに雨の上がった空。湿った空気。赤い景色。
後ろから誰かがついて来ているとは全く気づかないミニョは、どんどん夕焼けの風景の中を歩いて行く。
辺りに建物は何もない。雨の滴に濡れた草原が広がるばかり。
「一体どこへ行くんだろう。」
ハン・テギョンは首を傾げながら後をついて行くとミニョは小高い丘の上で歩みを止めた。
何となく丘のふもとにあった大きな木の幹に身体を隠す。そのままじっとしているとミニョの歌う声が聞こえてきた。
木の陰からこっそりと丘の上で歌っているミニョを見る。
ハン・テギョンはミニョの歌自体は施設の建物の中で何度か聴いていた。部屋の中全体に広がる歌声は不思議と心に響いてくる。
今、聞こえてくる歌は・・・初めて聴く曲だった。
少し哀しげな旋律、柔らかな艶のある声。何処までも広がりながら天へ昇っていくような歌声。
歌のことはよく判らない。クラシックも特にこれが好きだという曲はなかった。ミニョの歌っている曲名も知らない。
ただ・・・
赤い景色の中、丘の上で一人立ち、想いを解き放つかのように歌っているミニョの姿は・・・とても美しく思えた。
普段施設の中で忙しそうに走り回っている姿とは全く別の姿。
・・・綺麗だ・・・
そう思うと、ドキドキと鼓動が速くなる。
ハン・テギョンは木の陰から歌うミニョを呆然と見つめ、その場から動けずにいた。
「ミニョ!」
ミニョを呼ぶ女性の声でハッと我に返ったハン・テギョンは木の陰から姿を現すと驚いたようなミニョの顔を見つめる。
「テギョンさん・・・どうしてここに?」
「いや・・・ミニョさんが帰る方向とは別の方へ歩いて行ったんで・・・何か人気が全くなくなって心配で・・・あ、いえ、別に何でもありません。じゃあ、また。」
ハン・テギョンはそう言うと走ってその場から去って行った。
「ミニョ、テギョンさんて?」
「ハン・テギョンさんです。新しいボランティアの人ですけど。」
「テギョン君と名前がそっくりね。」
「はい、私もびっくりしました。」
ミニョは去って行くハン・テギョンの後ろ姿を見ながらため息をつく。
「歌、聴かれちゃったんですね・・・どうしよう、オッパの前だけだって言われてたのに・・・」
眉根を寄せ困った顔をしているミニョ。練習室でテギョンの言った言葉はカトリーヌには冗談に聞こえていたのだが、ミニョは真剣に悩んでいるようだ。
カトリーヌは頬を赤くしてじっとミニョを見つめていたハン・テギョンを思い出し、軽くため息をついた。彼の心の内は定かではないが、あの様子だとミニョに好意を持っているように見える。
「まあとりあえず、テギョン君には黙っておいた方がいいかもね。近くにいたって焼きもち妬くんだもの、こんなに離れた所にいたらなおさら、夜も眠れなくなっちゃうかも。心配かけたくないでしょう。話すなら韓国に帰ってからにしたら?」
「そうですね・・・眠れないのは困ります。心配かけないようにしなくちゃ。」
カトリーヌの言葉にミニョは頷いた。
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