テギョンは前回の手紙に書かれていたビル・アーリスという人物がマフィアだとジェルミから聞き、そんな人物と知り合いになってミニョの身に危険はないのかとずっと心配していた。
アフリカへ行こうと何度も思ったが、今のスケジュールではとても無理。もうすぐライブツアーも始まる。
そうこうしているうちに、ミニョから次の手紙が届いた。読んだ後でピアノを弾く気にはなれず、自分の部屋へ入るとそのまま椅子に座り、ペーパーナイフで封を開けると急いで中身を取り出した。
とりあえずミニョの身に危険はなさそうで、いつものようにアフリカでの生活の楽しそうな情景が伝わってくる。ホッと出るため息。
『オッパ、テギョンさんです。』
そして唐突に現れた文章。
「何だ?俺がどうかしたのか?」
テギョンという文字に首を傾げながらも読み進めていくと段々と眉間にしわが寄ってくる。
「ハン・テギョン?何だその名前は、俺にそっくりじゃないか。・・・また男か?一生懸命働く姿が素敵だと?ミニョ、お前わざと俺に心配かけてるんじゃないだろうな。」
もちろんミニョにはそんなつもりはない。その日にあったことをそのまま、思ったことをそのまま書いているだけで、特に他意などありはしない。それはテギョンも判ってはいるが、ついつい愚痴りたくもなってくる。
虫除けを頼んだカトリーヌはまだイギリスにいるようだ。
机の上にちょこんと座ってこっちを見ているテジトッキを睨みつけながら、頬をぴくぴくと引きつらせる。
最後まで読めばその頬は徐々に緩んでくるのだが。
テレビ局でA.N.JELLが控室に入ろうとすると、隣の部屋のドアが開き、中からヘイが現れた。
ヘイはテギョンの顔を見ると、プッと噴き出した。
「ハン・テギョンですって。」
ヘイの言葉にシヌ、ジェルミ、ミナムの三人はクスクスと笑い出した。
ミニョはヘイにも手紙を出している。そしてハン・テギョンの話は皆への手紙にも書いてあったようで、その名前を読んだ時、思わず皆笑ってしまっていた。
「アフリカではずいぶん人気があるみたいね。テギョンオッパって呼ばれてるらしいじゃない?ハン・テギョンという人は。」
テギョンへの手紙にはそれ程詳しく書かれてはいなかったが、ヘイへの手紙にはハン・テギョンに関することが色々と書かれてあったらしい。
「ミニョはなんて呼んでるんでしょうね、テギョンさんかしら、それともテギョンオッパかしら?」
ヘイは意味あり気に微笑むと、チラリとテギョンの顔色を窺った。
テギョンは無言でヘイを睨みつけると部屋の中へ入っていく。
「ヘイさんあんまりテギョンヒョン刺激しないでよ。とばっちりくうの俺達なんだから。」
テギョンは手紙を読んでから一段と厳しくなった。練習中いつもならOKの出る演奏にも厳しく目を光らせ、ダメ出しが出る。
― 一生懸命な姿が素敵だと?俺だって仕事の手を抜いたことは一度もないぞ・・・くそっ。
「おい、今日の演奏少しでもミスしたら、合宿所に帰ってから二時間でも三時間でも練習するからな!」
テギョンは三人を睨みつけると首から月のネックレスを外し、小さな箱へとしまった。
番組の収録が終わったのは午後十一時を過ぎていた。
テギョンからダメ出しは出ず、ホッと胸をなでおろす三人。
「よかった~、帰ったら休める~」
ジェルミは控室の椅子に崩れるように座ると大きく息を吐いた。
ジェルミの様子を横目で見ながらシヌとミナムも同じことを思う。
テギョンは着替えを済ませると椅子に座り小さな箱を手に取った。
ミニョがアフリカから一時帰国した時にテギョンへプレゼントしたネックレスの入っていた小さな箱。
蓋を開けるとチェーンをつまみ中から丸い石を取り出す。目の前でぶら下げると月をじっと見つめた。
「こんなところにいたら俺達の素晴らしい演奏が聴けないじゃないか・・・早くお前を一緒にステージに連れて行きたい。お前を皆に見せびらかしてやりたいよ。」
首の後ろへ手を回し留め金を嵌める。
服の中へ月を隠すとシャツのボタンを一番上まで嵌めた。
シャツの上から月をギュッと握り立ち上がると誰にも聞こえないように小さな声で言う。
「ミニョ、帰るぞ。」
合宿所へ帰る為テギョンは部屋のドアを開けた。
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