「一体テギョンヒョンは何考えてるんだよ!」
ジェルミがリビングのソファーに座り、アイスにスプーンを突き刺しながら叫んでいた。
「もう今日で三日も帰って来てないよ!」
ブスブスと何度もスプーンでアイスを刺し、大きな口を開けてパクパクと食べる。
「事務所に来たって一日中部屋にこもってるだけなんだから、ここで仕事すればいいのに。」
「テギョンも色々あるんだろ。」
キッチンでお茶を飲んでいたシヌがジェルミを振り返る。
ミニョがシヌの背中で泣きながら眠ってしまった日。
シヌが事務所へ行くとテギョンはすでに部屋にこもっていた。
ミニョのことで一言テギョンに文句を言うつもりで部屋に入ったシヌは、テギョンの憔悴した姿に何も言えず、そのまま部屋を出てきた。
「色々ってなんだよ。あーもう、俺寝る。」
ブスブスとアイスを刺しながらもあっという間に食べてしまったジェルミは、すっくと立ち上がると階段を上っていった。
「あれ、明かりが・・・」
テギョンの部屋の前を通るとドアがほんの少しだけ開いているらしく、隙間から部屋の明かりが見える。
― 車はなかったけど、帰って来てたのかな・・・
「ヒョン・・・帰ってたの?」
ドアをゆっくりと開け、そ~っと中を覗いてみると、ベッドで丸くなって眠っているミニョの姿が・・・
「ミニョ・・・」
キョロキョロと辺りを見回してみるが、テギョンの姿はない。ベッドへ近づき、その頭へそっと手を伸ばすとミニョの瞼がパッチリと開いた。
「あれ?・・・ジェルミだったんですね・・・・・・」
ガバッと身体を起こしたミニョはジェルミの顔を見ると、少し寂しそうに微笑んだ。
― ミニョ・・・ヒョンだと思ったんだな・・・
「もしかして、あれから毎晩ここで寝てたの?」
「はい・・・あ、昼間はぬいぐるみ部屋使わせて貰ってますよ。夜だけここにきてます。」
テギョンのいないテギョンの部屋・・・
「ミニョ、ちゃんと寝てる?疲れとれてる?」
ジェルミが近づいただけで目を覚ましたミニョ・・・
「はい、このベッド凄く広くて、どれだけ寝相が悪くても落ちないんでぐっすりですよ。」
ニッコリと笑うミニョを見て、ジェルミは胸が痛くなる。無理に笑顔を作っているのがはっきりと判るから。
「・・・そうだミニョ。今度カレー食べに行こう、新しいお店見つけたんだ。また二人ですっごく辛いカレー一緒に食べよう。」
「あ、私、今あまり辛い物は食べないようにしてるんで・・・」
明るく笑うジェルミにミニョは申し訳なさそうに俯いた。
「いいよ、俺がミニョの分もすっごく辛いの食べてあげる。ミニョはちょっとだけ辛いの食べよう。」
「はい。」
「じゃあ、おやすみ、ミニョ。」
「はい、おやすみなさい、ジェルミ。」
パタンと閉まるドアを見つめ、ミニョはそっと微笑む。
― 皆さん私を気遣って下さって・・・私は幸せ者ですね。
布団の中に隠れていたテジトッキを引っ張り出すと、ギュッと抱きしめた。
「本当にこのベッドは大きいですね。一人で寝るには広すぎて何だか寂しい。・・・今日も一緒に寝よう、一人じゃ眠れそうにない・・・」
明るい部屋の中、ミニョはテジトッキを抱きしめたまま布団にもぐり丸くなって目を瞑った。
○ ○ ○
「ヒョン、どうして帰ってこないの?ミニョ、ヒョンの部屋で待ってるのに・・・」
事務所のロビーでテギョンを見つけたジェルミはテギョンに近づいていく。
「ミニョもうすぐまたアフリカ行っちゃうんだろ、何で傍にいてあげないの。」
何も言わないテギョンに詰め寄るジェルミ。
ちょうどそこへ外から帰って来たシヌとミナムが合流する。
「ミニョというのは、コ・ミナムさんの双子の妹さんのコ・ミニョさんのことですか?」
四人揃ってロビーにいると、不意に物陰から一人の男が姿を現した。
広い額に黒縁の眼鏡。首からカメラを提げた男は四人に近づくとニヤリと笑った。
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