まだ夜の明けきらない早朝。辺りは暗く静まり返っている。
合宿所に青い車が停まる。中から男が降りると今まで夜空に輝いていた丸い月がスッと雲に隠れた。
「ふっ、今の俺には月を見る資格さえないな・・・」
男は呟くと玄関へと足を運ぶ。中庭の見える廊下を通り、キッチンとリビングの間を通り抜け階段を上る。
一つの部屋の前に立ち止まると音をたてないようにドアを開けた。
部屋の中は照明が点いていて明るい。そっと中へ入ると机の上に置いてあるぬいぐるみへと向かった。
「お前が持っていろ。」
男は自分の首にかかっていたネックレスを外すと、そのぬいぐるみの首へかけた。
ベッドへと目を向ける。
ベッドには胎児のように丸くなって眠っている女性の姿。
男は女性へ近寄るとベッドの端に腰を下ろし、女性の目尻に残る涙をそっと指で拭い取る。
「すまない、また俺が泣かせたな。・・・ミニョ・・・俺にはもうサランヘという言葉さえ言う資格はないな・・・」
男は頬にそっとキスをすると部屋から出て行った。
○ ○ ○
「はぁ、こんな時でも早く目が覚めちゃうものなのね・・・」
大きなため息。
夜明けとともに目が覚めたミニョ。一日中でも眠っていたい気分なのに、早起きが習慣になってしまった自分を恨めしく思う。辺りを見回すがミニョのほかに人影はない。
昨日のことを思い出すと、じんわりと目に涙が浮かんでくる。
「顔でも洗ってこよう・・・」
ふるふるっと頭を振ると、ベッドから下り洗面所へ向かって歩き出した。
途中で机の上のテジトッキの首に光るものが見えた。
ミニョは慌ててテジトッキを抱き上げるとテラスへと走り出す。テラスから下を覗くがテギョンの青い車は見当たらない。
ギュッとテジトッキを抱きしめる・・・
部屋へ戻るとテジトッキの首から月のネックレスを外し、自分の首へとかけた。
「私が預かっているのはちょっとの間だけですよ、テギョンさん・・・」
ミニョは着替えをすると黒いキャップを被りジョギングへと出かけた。
明るくなった街を走り続けるミニョ。
― テギョンさん、私テギョンさんのコースまだ公園までしか知りませんよ。・・・一緒に走ってくれないと道が判らないじゃないですか。
走りながらミニョの頬を涙が伝う。
― いくら走っても涙が止まりません。今までは走っている間は何も考えずにいられたのに・・・。走りながらテギョンさんを捜してしまいます。
手の甲で涙を拭う。それでも次から次へと溢れる涙はミニョの頬を濡らし続ける。
― 走っていると私のすぐ前を走っていたテギョンさんの後ろ姿を思い出します。
ミニョを気遣いながら走っていたせいか、何度も振り返りながら走っていたテギョン。
深く被ったフードの下から覗くテギョンの心配そうな顔が頭から離れない。
― どうしてテギョンさんはあんな辛そうな顔をしたんですか?
― どうしてテギョンさんは月のネックレスを置いていったんですか?
― どうして私の気持ちは伝わらないの?
― ・・・どうして・・・?
胸が苦しい。走りながら泣いているせいか呼吸が上手くできない。でもそれよりも、テギョンのことを思うだけで胸が締めつけられるように苦しい。
― 私がテギョンさんの傍にいるのは迷惑ですか?
ミニョの足が止まる。ミニョはその場にうずくまるように膝を抱えて大粒の涙を流していた。
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