テギョンが合宿所に帰って来たのは夜遅くなってからだった。
「テギョンヒョンお帰り、遅かったね。」
リビングにはニヤリと笑うミナム、無言のシヌそしてジェルミがソファーに座っていた。
「テギョンヒョン・・・今夜からミニョがテギョンヒョンの部屋で寝るって・・・」
「・・・ああ、ミナムが言ったのか。・・・そのことなんだが・・・」
「ミニョが、 『ごめんなさい』 って・・・」
― 当然だな。ミニョは俺の部屋には来ないだろう、俺がミニョを傷つけた・・・
「 『せっかく部屋を用意してもらってベッドまで入れてくれたのに・・・でも部屋は使わせてもらいますねジェルミ』 って言ってた。何か顔色が悪かったみたいだから、早く部屋に行ってあげて。」
「ミニョが俺の部屋に?」
― 信じられない。あんなことをした俺の部屋にいるのか?
急いで階段を上る。
テギョンは自分の部屋の前で一度大きく息を吸うと、ゆっくりとドアを開けた。
部屋の中には椅子に座り、机に伏せた状態で眠っているミニョの姿。机の上にはテジトッキ。
「ミニョ・・・」
テギョンの遠慮がちな呼びかけに、身体をピクンと動かすとゆっくりと顔を上げ、テギョンを見るミニョ。
「あ、テギョンさんお帰りなさい。遅かったんですね、私寝ちゃってました?御飯は食べました?私先に皆さんと頂いちゃったんで、もしまだならテギョンさんの分ちゃんとありますから、すぐに用意しますよ。それとも外で食べてきましたか?そうですよね、こんな時間ですからきっと食べてますよね。ハハハ、ごめんなさい、変なこと聞いちゃって。そういえばさっき・・・」
「ミニョ。」
矢継ぎ早にミニョの口から紡ぎ出される言葉をテギョンが遮る。
「なんでここにいる、どうして俺の部屋にいるんだ?」
「えっと・・・私テギョンさんの部屋で寝ることになったんで・・・あれ?一緒にって、ぬいぐるみ部屋ですか?でもあのベッド狭いですよ。」
「どうして俺と一緒に寝れるんだ?」
― あんなことをした俺と・・・
「・・・テギョンさん一人じゃ眠れないって言ってたじゃないですか。寝不足じゃあお仕事にも差し障りますよね。」
「あれは・・・嘘だ。・・・俺はお前を抱こうとしてあの部屋に入った・・・」
「・・・・・・」
テギョンの低く静かな声。無言のミニョ・・・
「俺は一人でも眠れる、お前はぬいぐるみ部屋へ戻って鍵でもかけて寝ろ。・・・じゃないと、また俺が行くかもしれないぞ。」
「ハハハ・・・何言ってるんですか、テギョンさん酔ってます?疲れてるんですよね、早く寝た方がいいですよ。明日も早起きして、また一緒に走りましょう。私早くテギョンさんのいつものコース完走できるように頑張りますね。」
胸の前で拳を作り、ニッコリ笑うミニョ。
「・・・肺を鍛えてるつもりか?そうやってアフリカでも毎日彼女と一緒に走って、歌う為に肺を鍛えてたのか?」
テギョンの目の奥に苛立ちが見える。
― どうしてそんなに彼女に従う?何故俺には話せない?
ミニョに友達ができたことを単純に喜んでいた。カトリーヌの言葉は気になっていたが、修道院という狭い世界で生活してきたミニョに、一緒にジョギングができるような友達ができたことを喜んでいた。
それなのにミニョの生活の中に本格的に歌を歌う為の行動が潜んでいると思うと、胸が締めつけられるように苦しい。
カトリーヌと一緒にいることに腹が立つのか、自分に黙って何かをしようとしていることに腹が立つのか判らない。
男とか女とかそんなものは関係ない。
カトリーヌに対する嫉妬。
ミニョが自分の知らないうちに変わってしまったという焦燥感。
やっと手に入れた温もりを奪われるかもしれないという恐怖。
ミニョを誰にも渡したくないという独占欲・・・
ミニョを傷つけたことをひどく後悔したが、目の前のミニョを見るとどうにも自分が抑えられなくなる。
― 誰にも渡したくない・・・
テギョンはミニョに近寄ると、手首を摑みベッドへと引っ張っていく。
ミニョを引き倒しその身体に跨るように自分の身体を乗せると、両手首を頭の横に押さえつけた。
「この部屋から出て行くか?今ならまだ間に合う」
低く響くテギョンの声。
― 出て行くと言って欲しい。これ以上自分を抑えられない・・・
ミニョを上から見下ろし悲しげな目でテギョンが聞く。
「いいえ、私はこの部屋で寝ると決めましたから。」
理由は判らないがミニョは自分の歌のせいでテギョンが怒り悲しんでいることは判った。歌うことをやめればそれで済むことなのかも知れない。でも今はやめる訳にはいかない・・・
公園で見た寂しそうな顔。
練習室で見た辛そうな顔。
そして今の悲しそうな顔。
どれも自分のせいでそんな顔をさせていると思うと胸が苦しくなったが、そんな顔をさせたままでテギョンに背を向けることはしたくない。
テギョンを下から見上げ、ミニョの凛とした瞳はテギョンの目をじっと見据える。
練習室でのキスを思い出す。テギョンの激しさが怖かった。思わず突き放してしまった時のテギョンの辛そうな顔。
テギョンを受け入れられなかった自分に後悔した。
大好きなテギョンに上手く気持ちを伝えることもできない自分に後悔した。
― もう後悔したくない
― テギョンさんから逃げたくない・・・
ミニョの瞳が涙で潤む。
自分の気持ちを伝えたい。
― 私はあなたが好きです。
― あなたが好きです。
― ・・・だから私はここにいます・・・・・・
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