ミニョは練習室の床にペタンと座り、壁にもたれながら胸の星を握りしめ涙を流していた。
止めようと思っても溢れてくる涙。
唇を離した時の辛そうなテギョンの顔が頭から離れない・・・
何が起こったか判らない。
テギョンに歌えと言われた 『アヴェ・マリア』・・・。まだ未完成のシューベルトも歌った。
テギョンの笑顔が見たかった。まあまあだなと、皮肉っぽい言葉でも構わなかった。
カッチーニの 『アヴェ・マリア』 を歌った時の驚いた表情のテギョン。それが徐々に悲しみの色へと変わっていくのをミニョは見ていた。
― どうしてそんなに悲しい顔をするんですか?私の歌が下手だったから?テギョンさんを失望させてしまったんですか?
テギョンの悲しそうな表情。
『彼女はお前のヴォイストレーナーか?』
テギョンの言葉が冷たく感じる。
確かにカトリーヌはミニョにとってトレーナーだったかもしれない。肺を鍛え、筋トレをし、ストレッチ、発声練習、歌の指導。
全てカトリーヌの指示に従った。でもそれはミニョが望んだこと。
『どう聴いてもプロになる為にトレーニングを積んでいる者の声にしか聴こえないぞ!』
「違います・・・そんなつもりじゃありません。・・・でも、そう思われても仕方がないことを私はしてるんですよね・・・」
目的は違う、そんなつもりはない。でも結果として、もしかしたらそうなってしまうかもしれないと心のどこかで思うと、否定の言葉も小さくなる。
全てを話してしまいたい。そうすればきっとテギョンは判ってくれる。いやそれ以上にミニョの為に何かをしようとするだろう。でもそれは避けたい・・・
元々テギョンの傍にいて守られてばかりの自分にはなりたくないという思いを抱いてアフリカへ行った。助けられてばかりの自分が、誰かの役に立ちたいという思い・・・。
そしてネルソンと出会った。
彼と出会い、自分の歌が人々に喜んでもらえるということを知り、嬉しかった。
カトリーヌと出会い、今のままだとA.N.JELLにひどい傷をつけることになるかもしれないということを偶然知った。そうなればきっとテギョンは何らかの責任をとると言い出すだろう。そしてその原因を作ったのは自分・・・。
しかし自分が変われば、自分の歌が、声が変われば助けられるかもしれない・・・
― せめてあと少し、シューベルトの 『アヴェ・マリア』 を完璧に歌いこなし、 『天使の糧』 をもう一度歌えるようになるまでは・・・でも・・・
先程のテギョンの顔を思い出すと胸が痛む。
自分の声がテギョンを怒らせ、自分の歌がテギョンを悲しませているとしたら・・・
今朝、自分が抱いていた想いが空しく感じる。
テギョンに触れたい・・・
テギョンに触れて欲しい・・・
願いは叶った筈なのに、悲しみだけが心に残る。
― こんなのを望んだわけじゃない・・・
テギョンに摑まれた肩が痛い。でもそれ以上に心が痛い・・・
『プロになる為にトレーニングを積んでいる者の声にしか聴こえないぞ!』
怒っていると思っていたテギョンのキスから伝わって来たのは悲しみ。だがそれ以上にミニョを求める気持ちが激しく伝わってくる。
甘さのない激しいだけのキス・・・
ミニョにはその激しさが・・・少し怖かった。
テギョンを怖いと思った瞬間、受け入れられないと思った。腕に力を入れテギョンを突き放した。
その時見たテギョンの辛そうな顔・・・
あんな辛そうな顔をさせるつもりはなかった。
テギョンを苦しめている原因が自分の歌にあるとしたら・・・
どうしたらいい?
どうすればいい・・・?
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