Ave Maria Jungfrau mild ・・・
ミニョの歌ったシューベルトの 『アヴェ・マリア』 がテギョンの耳に残っている・・・
少しゆっくり目で歌われた歌は穏やかな雰囲気をかもし出し、美しい声に包み込まれているようだった。
柔らかく、艶やかで透き通る歌声は、たとえミニョが本気で歌っていなかったとしても、こんな狭い部屋で聴くのは勿体ないくらい素晴らしいものだった。
「ミニョ・・・彼女はお前のカッチーニを何度聴いてシューベルトを勧めてきたんだ?シューベルトの 『アヴェ・マリア』 は宗教曲ではないだろう。」
感情を押し殺したような低い声でテギョンがミニョに聞く。
「・・・え~と、二度だったと思います。二度目にカトリーヌさんの前で歌った時に 『アヴェ・マリア』 を変えてみないかと、言われました。私の声にはシューベルトの方が合ってるからって。宗教曲ではありませんが、よく歌われているからって・・・」
確かに両方聴き比べてみると、高く澄んだ声はシューベルトの方が合っているように思える。
しかし、二度・・・たった二度聴いただけで、しかも比較もせずシューベルトの方が合っていると言い切ったカトリーヌ・・・。
テギョンは自分だったら二度聴いただけでは・・・しかも比較対象のない状態で断言することは無理だろうと思うと嫉妬を覚えた。
「お前は一体アフリカで何をしていたんだ?」
「え?」
テギョンの問いがミニョにはよく判らない。
「彼女はお前のヴォイストレーナーか?」
歌の合間のミニョへの発声のアドバイス、ストレッチ、筋トレの指示・・・そうとしか思えない・・・
初めてミニョの歌を聴いた時、高くて澄んだ声だと思った。
元々修道院で歌っていた為か発声はわりとしっかりしていた。ミナムが帰って来るまでの間なら、メインボーカルでないミニョがA.N.JELLとしてやっていくことは何とかなった。発売されたソロの 『言葉もなく』 も、ミナムとミニョの声がかなり似ていた為、誤魔化すことができた。
しかし今のミニョは・・・普段の声は似ているが、発声の仕方、伸び、艶やかさ、広がり方全てにおいて、ミナムとは違う。専門のトレーナーでもついていない限り、ここまで変わるとは思えない。
そして、ミニョを変えたのはカトリーヌ・・・
「俺の知らない間に何をしようとしているんだ?クラシックか?彼女はお前にオペラでもやらせるつもりか?」
テギョンは自分の知らないところで、ミニョが何かをしようとしていることが気になって仕方がない。
「えっと・・・そういう訳ではないんですけど・・・」
歯切れの悪いミニョの返事に苛立つテギョン。
「じゃあ何だ、言ってみろ。あの歌は、あの声は、どう聴いてもプロになる為にトレーニングを積んでいる者の声にしか聴こえないぞ!」
テギョンにも、何故こんなにも苛立っているのか判らなかった。
ただ、カトリーヌを見て微笑んでいるミニョを見ていると、胸が苦しくなった。
同じ部屋の中に三人でいるのに自分だけ取り残されたような感じがする。
やっと手に入れた筈の温もりが指の間から零れ落ちていくようで・・・
音楽に対するカトリーヌへの嫉妬。
友達以上を望んでいるというカトリーヌの言葉も、そのカトリーヌと二人で何かをしようとしているミニョも、何もかも気に入らない。
「ごめんなさい・・・今はまだ、話せません・・・カトリーヌさんとの約束なので・・・」
テギョンが何故怒っているのか判らないが、答えられないミニョは小さな声で呟く。
テギョンはミニョの口から出たカトリーヌの名前にカッとなり、ミニョの腕を摑むと壁に肩を押さえつけた。
ミニョを見下ろし強引に唇を合わせるテギョン。
突然テギョンに唇を塞がれたミニョは一瞬何が起こったか判らず身体を硬直させる。
「・・・んっ・・・」
乱暴なテギョンの口づけにミニョが逃れようと顔を動かすが、テギョンは角度を変え執拗にミニョの唇を追い求める。
「んっ・・・んっ!」
摑まれた肩が痛い。でもそれより心が痛い・・・
テギョンの胸を叩き必死でテギョンを突き放したミニョの瞳から涙が零れる。
口から漏れる荒い息。
テギョンは辛そうに顔を歪めると、ギュッと唇を結び部屋から出て行った。
残されたミニョは息の整わない口から漏れるおえつを手で押さえ、頬を涙で濡らしながらズルズルとその場に崩れ落ちた。
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