二人で手を繫いで早朝の街を歩く。車は数台走っているが、人通りはほとんどない。
それでもミニョは手を繫いで歩くのが恥ずかしく、離して下さいとテギョンにお願いをする。
「い・や・だ。」
即答だった。
ミニョの手に繫がれたテギョンの大きな手。ミニョは歩きながらその手をじっと見つめる。
不安な時、辛い時、悲しい時いつもこの手が自分を優しく包んでくれた。きっと色々と聞きたいことがあると思うのに、何も聞かずに抱きしめてくれた。
その手から伝わる温もりは、自分に元気と勇気を与えてくれる。
― 泣いているだけじゃいけない、少しずつでも前に進まなくちゃ・・・。また辛い思いをするかも知れない。でもこの手があればきっと大丈夫。だってこの手は・・・私の大好きな、テギョンさんの手なんですから。
ミニョが繫いだ手にギュッと力を入れると、テギョンは満足そうに微笑んだ。
○ ○ ○
「本当に一緒に入るんですか?」
「こんな時間だ、ほとんど客はいない。」
「バレたら大変な事になりませんか?」
「大丈夫だ。それに俺はバレても一向に構わない。」
「・・・・・・」
コンビニのドアの前で二人揃って一度立ち止まり、テギョンは繋いでいるミニョの手をしっかりと握りしめると、一気にドアを開けた。
「いらっしゃいませ。」
店内はレジに従業員が一人、客はサラリーマンらしき男性が二人いるだけだった。
パーカーのフードを目の下まで下げたテギョンと、キャップを目深に被ったミニョ。
水のペットボトルを一本手に取ると、レジでお金を払う。
一瞬顔を上げた従業員と目が合いそうになり、とっさにテギョンの背中に隠れたミニョ。ミニョを庇うように手を動かしたテギョン。二人の不審な様子に首をひねる従業員。
テギョンはレジを済ませると、再びミニョの手を握り店を出た。
足早に店から遠ざかる。暫く無言で歩いていたが、段々と笑いが込み上げてきた。
「プックック・・・」
「クスクス・・・」
「たかがコンビニで水一本買うだけなのに、俺達挙動不審者だな。」
「はい、でも楽しかったです。」
歩きながら笑い出す二人。
恋人と手を繫いでコンビニへ買い物に行く。こんな世間では当たり前のことが二人はとても幸せに感じられた。
合宿所に帰って来ると、キッチンではミジャが朝食の準備をしていた。
「ミニョ、久しぶり、元気だった?」
「はい、ミジャおばさんもお元気そうで。」
半年ぶりの再開を喜び合う二人。
テギョンはミニョに先にシャワーを浴びさせ、その後自分もシャワーを浴びた。
テギョンがバスローブ姿でシャワールームから出てくると、部屋ではミニョがトランクを開けて何やら探していた。
「あった。」
ミニョはトランクから出したそれをテギョンに見せないよう、とっさに自分の身体の後ろへ隠す。
「何だそれは。」
テギョンはミニョに近寄ると、後ろ手に隠したそれをスッと奪い取った。
「えっと、テギョンさんに・・・プレゼント・・なんですけど・・・」
テギョンが小さな木箱の蓋を開けると、中に入っていたのはシルバーチェーンの先に直径一センチ程の乳白色の丸い石のついたネックレス。三日月状のシルバーが丸い石を包んでいるデザインだった。
「テギョンさんの誕生石にしようかと思ったんですけど、お店の人がムーンストーンは恋人達の石だと教えて下さったんで。」
ミニョが少し頬を赤くして答える。
「シルバーの三日月に、丸いムーンストーン・・・満月。・・・これは、ミニョだな。」
「えっ?」
「以前自分で言ってただろ、自分は星の力を借りる月のような存在だと。」
コ・ジェヒョンの墓参りの夜。二人で夜空を見上げながらミニョが言った言葉。
「憶えていて下さったんですか?」
「当たり前だ。あの時は驚いたぞ。俺はスターだから自分のことを星だと言っても問題ないが、お前はいきなり自分のことを月に例えるんだからな。」
意地悪そうに笑うテギョン。
「ほら着けてくれ。」
テギョンはチェーンをつまむと箱の中からネックレスを取り出した。
「あ、でも後で知ったんですけど、ムーンストーンは女性が持っているといいそうなんです。ですからテギョンさんにプレゼントするのはどうしようかと・・・」
「クックックッ・・・お前らしいな。でもこれは月なんだろ。ミニョは俺(星)を持ってるんだから、俺がミニョ(月)を持っていて何が悪い。ほら、早く着けてくれ。」
テギョンが持っていたネックレスを差し出すと、ミニョは手で包むように受け取る。
「テギョンさん、後ろを向いて下さい。」
「このままがいい。」
テギョンとミニョは向かい合ったまま。
ミニョは暫くの間考えるように動きを止めたままでいたが、はいと返事をするとおずおずとネックレスを持った手を、テギョンの首の後ろへ回した。
「テギョンさん、もう少しかがんで下さい。」
なかなかうまく着けられず、ミニョも背伸びをする。少し時間はかかったが、何とかテギョンの首にネックレスを掛けることができた。ちょうどその時。
コン、コン。
「ヒョン、朝早くゴメン。あのさぁ・・・」
ノックの音とほぼ同時に、ジェルミがいきなり部屋のドアを開けた。
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