目が覚めてベッドから身体を起こし辺りを見回すと、そこは見覚えのある部屋だった。
― テギョンさんの部屋?
ボーっとした瞳で視線を動かしていると、椅子に座っているテギョンの背中が見えた。
「テギョン・・・さん?」
ミニョの声にテギョンが振り向いた。
「やっと起きたか。」
ベッドへ近づくテギョン。
ミニョは寝起きの顔を見られたのが恥ずかしいのか、顔を赤くして俯いた。
「顔が赤いぞ、熱でもあるのか?」
スッとミニョの額に手を当てると覗き込むように近づくテギョンの顔。ミニョの顔が更に赤くなる。
「熱はないみたいだが・・・」
「だ、大丈夫です。」
「そうか。」
テギョンの手が額から離れる。
ミニョはドキドキと激しく脈打つ心臓を静めるように、胸元のネックレスを服の上から握りしめ、ふーっと息を吐く。
途端にミニョの身体が 『お腹がすいた』 と主張した。
「クックッ・・・」
口元に拳を当て、笑いを堪えるテギョン。顔の赤いミニョの頬にそっと触れると、優しく笑った。
「ミニョ、昼には少し早いがメシにしよう。お前の荷物はそこに置いてある。シャワーを浴びて着替えをしたら下りてこい、俺は下で待ってるから。」
テギョンはミニョにタオルを渡すと部屋から出て行った。
○ ○ ○
ミジャが用意してくれておいたおかゆを二人で食べた。
「ごちそうさまでした。はぁ~、おいしかったです。」
「ミニョ、大丈夫か?いきなりそんなに食べて。最近あまり食べてなかったんだろ、そう思っておかゆにしてもらったんだが。」
「私、胃は丈夫なんです。アフリカでも食べ物でお腹をこわしたことはありません。他のボランティアの方は時々お腹が痛いって言ってましたけど。」
拳を握って力説するミニョにあきれ顔のテギョン。食べ終わった食器を運んで洗い始めた。
「あ、テギョンさん、私やりますから。」
「いいからミニョは向こうで待ってろ。」
リビングのソファーを指差す。
何故かドキドキと鼓動を速くする胸を不思議に思いながらも、ミニョが素直に座って待っていると暫くしてテギョンが隣に座った。
「お兄ちゃん達はいないんですか?」
「ああ、ミナムはドラマの顔合わせ、シヌはラジオ局、ジェルミはバラエティー番組の収録だ。」
「テギョンさんもこれからお仕事ですか?」
フッと寂しそうな顔をしたミニョにテギョンはそっと微笑む。
「俺は家で作曲作業だ。」
口の両端を上げてニンマリ笑うテギョンに、ミニョは少し顔を赤くして慌てて俯いた。
「ミニョ、どうした具合でも悪いか?やっぱり食べすぎか?」
からかうように下から覗き込むテギョンの顔が目の前にある。ミニョは星のネックレスを握りしめると、ゆっくりと息を吐いた。
「何だか変なんです、起きた時から・・・ううん、眠ってるときから?夢の中でテギョンさんが私の名前を呼んでいて・・・今まで 『ミニョ』 って呼ばれたことなかったからすごく嬉しくてドキドキして。目が覚めて、夢だったんだなって思ってたらテギョンさんが 『ミニョ』 って呼ぶんです。名前を呼ばれただけなのに、凄くどきどきして・・・・・・変ですよね。」
夢の中で聞いた、甘く優しく囁くような声。目の前で聞く、低くからかうような声。
どちらも名前を呼ばれただけなのに、胸の奥をキュッと摑まれたように息苦しくて、でもその息苦しさは全く嫌なものじゃなくて。嬉しくて、自然と顔に笑みが浮かんで・・・・・・
「私、知らなかったんです。名前を呼ばれただけでこんなにも嬉しい気持ちになるなんて。」
ミニョは星を握ったまま隣に座るテギョンへ顔を向ける。
テギョンは今まで気恥ずかしさから、何となく名前を呼べずにいた。
おい、お前、こいつ、あいつ。それがミニョを表す言葉の全てだった。ミニョが帰って来るまでは・・・
ベッドの中で少し痩せたミニョの身体を抱きしめた時、無性に名前が呼びたくなった。
「ミニョ・・・俺も知らなかった。名前を呼んだだけで、こんなにも胸が熱くなるということを。」
テギョンは左手でミニョの肩を抱き寄せ、右手をそっとおとがいにかけ自分の方を向かせる。近づく唇・・・
ミニョはテギョンの胸に手を当てると近づく身体を離すように、その腕に力を込めた。
「ミニョ?」
突然離された身体に納得のいかないといった顔のテギョン。
「私、今すごく幸せなんです。でもそれっていいのかなって・・・。私あの子の為に泣いてあげることができなかった・・・なのに、何で今頃・・・・・・」
ミニョの瞳からポロポロと零れ落ちる大粒の涙。あっという間に膝を濡らしていく。
テギョンはミニョの身体を抱きしめた。
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