テギョンが再びリビングのソファーに座ると、カトリーヌが待っていたかのように話し始めた。
「シスターメアリーから聞いたわ、ミニョのことを兄であるミナム君に話したって。」
「呼び捨てでいいですよ。俺達皆、確実に、あなたより年下でしょ。」
確実に、というところをわざと強調させ、ニヤリと笑うミナムにカトリーヌは冷ややかな微笑みでかえす。
「あなた達がどこまでミニョの事情を知ってるか判らないけど、私は今のミニョの状態を話すわ。」
皆がじっとカトリーヌを見つめる。
「ミニョは全く泣かなかったわ、無理に我慢してるのは判ってた、何故かは判らないけど。一週間くらいほとんど眠ってないのも心配だった。でもここに帰ってきて、涙を流して、眠ったミニョを見て少しだけ安心したわ。ここはミニョにとって心を開ける場所なんだって。」
カトリーヌはテギョンの方をじっと見ている。
「食事もあまりしてないわ。孤児院でも私が誘って一緒に食事に行った時もあまり食べなくて、体力もかなり落ちてるわ。眠って、食べて、まずは体力を回復することね。精神的な問題はその後でも十分だと思う。」
カトリーヌは立ち上がると荷物を手にした。
「ミニョには今まで通り接するのがいいと思うわ・・・さっきみたいにね。じゃあ私はホテルにいるから、何かあったら連絡して。ミニョのこと二週間よろしくね。」
立ち去ろうとするカトリーヌの背中にテギョンが声をかける。
「あなたは一体何者ですか。なぜそこまであいつのことを・・・」
「私?ミニョの友達よ。・・・それだけじゃ不満かしら?」
「不満なのはあなたの方じゃないんですか?」
テギョンが軽く睨むようにカトリーヌを見ると、彼女はため息をつくようにフッと息を吐き口元に微笑みを浮かべた。
「そうね、友達だけで終わらせるつもりはないわ、それ以上を望んでる・・・。でも最終的に決めるのはミニョよ。ミニョの為に、自分の為に、今は私に出来ることをするだけよ。」
カトリーヌはニッコリ笑って軽く手を振ると、合宿所を後にした。
○ ○ ○
「ねぇ、・・・テギョンヒョン・・・最後の会話・・・何・・・友達以上って?」
ジェルミが顔をひきつらせながら首を傾げる。
「・・・カトリーヌさんって、女の子が好きとか・・・そういう人?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ジェルミの言葉にシヌとミナムも言葉が出ない。
― まさかミニョが女の子同士で、あんなこととか、こんなこととか・・・・・・
ジェルミは自分の妄想に思わず顔が赤くなる。
― いやいや、そんなことダメだ・・・でも・・・ちょっと見てみたいかも・・・
軽く頭を振って赤くなった頬を両手でパチンと挟んでみるが、口元が緩んでしまう。
「俺・・・ミニョの恋人は・・・テギョンヒョンじゃなくてもいいから・・・できれば男がいいんだけど・・・」
「そうか・・・なら・・・俺でもいいって・・・ことだな。」
戸惑いがちのミナムの言葉に、いつもの微笑みでなく引きつった笑いのシヌが言葉を続ける。
「くだらないことを言ってないで、これからのことを考えるぞ。」
テギョンが冷ややかに皆を睨んだ。
○ ○ ○
夕食後、ミジャが帰った後も何となくそのままリビングにいた四人。
「ミニョかなり疲れてるみたいだから、自分から起きてくるまで起こさないでやってね。ジェルミ、覗きに行くなよ。」
「判ってるよ。あ~でもせっかくお帰りなさいのパーティーしようと思ったのに~」
「俺達は明日までオフだ、明日ゆっくりやればいい。」
「シヌヒョン・・・そうだね。」
ジェルミのがっかりしていた表情がパッと明るくなった。
「じゃあ、俺もう寝るね。明日は一日中ミニョと一緒にいられるんだから早起きしなくちゃ。おやすみ。」
「俺も部屋に行って休むよ。おやすみ。」
ジェルミとシヌが部屋へ向かった。
「シヌヒョンとジェルミはぬいぐるみ部屋で寝てると思ってるだろうけど、ミニョ、ヒョンの部屋にいるんだろ?」
「あの部屋の状態で他にどこに寝かせるって言うんだ。片付けたんじゃなかったのか?お前の部屋も、また後悔するんじゃないのか?」
「大丈夫、片付けやすいように、きちんと並べてあるから。」
真顔で答えるミナム。
「俺も寝るね、ヒョンも寝たら?あぁ、ミニョが気になって眠れないか。でも前はぐっすり寝てたよね。」
「本当にいいのか、ミナム」
ニヤニヤ笑うミナムにテギョンが真剣な目を向ける。
「ミニョはヒョンの傍が落ち着くんだよ。だから起こさないで、ゆっくり寝かせてやって。」
○ ○ ○
テギョンは自分の部屋へ入るとベッドの端に座り、気持ちよさそうに眠っているミニョの髪を撫でた。
「髪が伸びたな・・・肌も日に焼けて・・・少し痩せたか?」
半年ぶりに見るミニョは、髪が伸び、身体つきもどことなく女性らしさが増したように思え、ミナムとそっくりだと思っていた顔も、それ程でもないような気がする。
アイボリーのタックワンピースに少し太めのベルトがミニョの細いウエストを強調しているように見えた。
胸元には星のネックレス。
「ちゃんと着けてるんだな。」
テギョンは自分が贈った星のネックレスをミニョが着けていたことが嬉しかった。
「・・・ごめんね・・・ネルソン・・・・・・」
眠っているミニョの口から漏れる言葉と、目尻から零れる涙。
テギョンはその涙を親指で拭い布団を捲ると、そっと身体をミニョに寄せる。
ミニョの頭を自分の左腕の上に乗せ、正面から向かい合うように自分の方へと向かせると右腕をそっと背中に回し、優しく包み込むように抱きしめた。
身体全体に伝わるミニョの温もりに、テギョンの胸は熱くなる。
「ミニョ・・・」
名前を呼び額に唇を寄せ、そっと触れるだけのキスをする。瞼、頬と順に唇で触れる度に優しく名前を呼ぶ。
「コ・ミニョ・・・サランヘ・・・」
ミニョの唇に自分の唇を重ねる。徐々に深くなる口づけに必死で自分を押さえると、今まで離れていた時を取り戻すかのように背中に回した腕に力を込め、ギュッと抱きしめた。ミニョの髪に顔をうずめると、鼻の奥をくすぐるような甘い香り。
テギョンの胸で規則正しい呼吸を繰り返すミニョの寝息を聞きながら、いつしかテギョンも眠りについた。
○ ○ ○
朝、テギョンが目を覚ました時には、ミニョはまだ眠っていた。
昼、テギョンが部屋で五線紙とにらめっこしている間も、ミニョは眠っていた。
夜、涙目になったジェルミがミニョを起こしに行こうとして、ミナムに叱られた。
「ミニョ~、今日は一日中一緒にいられると思ったのに~」
ジェルミの声が空しく響く。
ミニョはずっと眠り続けたまま、A.N.JELLのオフは終わった。
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