テギョンの胸で涙を流し続けるミニョ。
「私、あの子の為に祈ることはできても、泣くことができなかった。辛くて、苦しくて・・・でも、涙が出なかった。」
「・・・ネルソンのことか」
「どうしてそれを・・・」
「シスターメアリーからミナムに連絡が来た。大体の話は俺達も知っている。」
「・・・孤児院でも埋葬の時も、涙が出ないんです。ネルソンの為に歌ってあげたかったのに声が出ないんです。ネルソンの好きだった 『天使の糧』 聴かせてあげたかったのに・・・」
テギョンの胸が涙で濡れる。
「ミニョが泣けなかったのはたぶん・・・俺のせいだ。」
テギョンは顔を歪めると一つ呼吸を置き、辛そうにミニョに告げた。
「合宿所に帰って来た時、寝る直前に言った 『宿題だったのに』 って・・・憶えてるか?」
ミニョは、ふるふると首を横に振る。
「あの後考えたんだ、そして思い出した。ミニョがアフリカに行く日、俺が言ったんだ。 『俺以外の奴には涙は見せるな』 って。」
「憶えてません私。それに無理に我慢して泣かなかった訳じゃなくて、本当に涙が出てこなかったんです。」
ミニョが濡れた瞳でテギョンを見上げる。
「ミニョにその気はなくても、心のどこかで俺の言葉を憶えていたんだろう。だからアフリカでは泣けずに、帰って来て俺の前で泣いた。他の奴がいたから 『ごめんなさい』 って言いながら・・・」
優しくミニョの髪に触れるテギョン。
ミニョの泣く姿を誰にも見せたくない・・・。自分の嫉妬心から軽い気持ちで言った言葉だった。その言葉がこんなにもミニョの心を縛っていたなんて・・・
「違います、テギョンさんのせいじゃありません。私が勝手に泣けなかっただけです。」
ミニョが首を横に振って否定する。
「勝手に泣けないって・・・何だよそれ、絶対変だ。俺の言葉のせいで泣けなかったんだ。じゃなきゃ何故今泣くんだ。」
「それは・・・テギョンさんが泣かせるからです。私テギョンさんといると、泣き虫になるんです。」
「ほらやっぱり、おれのせいじゃないか。」
「・・・・・・」
ミニョは下唇を嚙み涙目でテギョンを見上げる。その間にも零れ落ちる大粒の涙。テギョンはミニョの頭を自分の胸に押しつけると優しく微笑んだ。
「俺のせいにしておけ、俺の言葉のせいでお前は泣けなかった。だからお前はどうしてなんて考えなくていい。」
「でも私、歌も歌ってあげられなかった・・・ネルソンの一番好きな歌だったのに・・・」
「歌のことも今は考えるな、今はとにかく泣けばいい。俺といると泣けると言うなら傍にいてやるから。ネルソンを想って、たくさん泣けばいい。泣くだけでも少しは心が楽になる。」
テギョンはミニョを抱きしめる腕に力を込め、ミニョはテギョンの胸で泣き続けながらネルソンのことを思い出す。
初めて会った時の暗く硬い表情。
ミニョの歌を聴いた時に見せた涙。
少しずつ笑うようになり、ミニョにくっついて歩いていた。
時々駄々をこねて困らせることもあった。
そしてミニョの歌う 『天使の糧』 を聴いて見せる、最高の笑顔。
― ネルソン、あなたに私の歌を聴いてもらいたかったのに・・・ごめんね、何故だか歌えないの・・・・・・」
ミニョはテギョンの腕に包まれながらネルソンを想い、ただただ涙を流し続けていた。
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