ミニョのバイト先、カフェに着くとミニョはテーブルに突っ伏した。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・マスター・・・お水・・・下さい・・・・・・」
汗だくのミニョを見て、マスターと呼ばれた恰幅がよく、無精ひげが少し伸びたようなあごひげを生やした顔の男が、笑いながら水を運んできた。
「どうしたミニョ、今日は早いじゃないか、そんなに慌てなくてもよかったのに。」
「慌てた…訳じゃ・・・ないんですけど・・・成り行き上・・・走ってくることに・・・」
息の整わないミニョは何とかそう言うと、コップの水を一気に飲み干した。
ミニョのカバンを持った女性が、向かい合わせに椅子に座る。
「あ、お客さん連れて来てくれたの?いらっしゃい、ミニョの友達?」
「いえ、友達ではなくて・・・こちらの方は・・・あれ?お名前伺ってませんでした。」
クスッと笑うと、女性は立ち上がってミニョへ右手を差し出す。
「はじめまして、カトリーヌ・ジョーンズです。」
「はじめまして、コ・ミニョです。」
何とか呼吸が落ち着いたミニョは、立ち上がるとニッコリ笑って握手をする。
二人の様子を首を傾げて見ていたマスターは、まだ時間があるからもうちょっと休憩してからでいいよとミニョに言葉をかけ、カウンターの奥へと姿を消した。
「時間は大丈夫みたいね、聞いてもいいかしら?」
「はい、何でしょう。」
カトリーヌの微笑みにミニョも笑顔でかえす。
カトリーヌはミニョのことを色々と聞いてきた。どこに住んでいて、何をしているのか。一日の予定など普段の生活を。
ミニョはボランティアの為、韓国から来ていること、ホストファミリー宅から孤児院へ行き、土曜日の午後は教会で手伝いをした後歌を歌い、その後この店でバイトしていることなど、聞かれることに素直に答えていた。
「ミニョさん、あなた・・・」
カトリーヌは額に手をやり、はぁ~とため息をつく。
「初対面の人間に、そんなに何でも答えるものじゃないわ。もし私が何か悪い事を考えていたらどうするつもり?」
「えっ・・・でもカトリーヌさんは悪い人には見えませんよ。」
ミニョの台詞を聞いたら、テギョンはきっと 『お前が見たら悪人は一人もいないだろう』 と言ったかもしれない。
真剣な顔で言うミニョの丸いクリッとした瞳を見ながら、カトリーヌはクスッと笑った。
「それもあなたの魅力なのかしら・・・。あなたといると楽しいわ。ねぇ、私と友達になってくれないかしら。」
「えっ?」
「ダメかしら?」
「いいえ。」
ぶんぶんと首を横に振るミニョ。
「私、友達と呼べる人は少ないんで・・・凄く嬉しいです。」
「そう、よかった。じゃあ・・・友達から始めましょうね。」
― 友達から始める?
ミニョはカトリーヌの言葉に疑問を感じたが・・・
「はい、これはサービスね。ミニョ、そろそろ仕事始めてくれ。」
マスターがテーブルにコーヒーを置きながら、時間だよと言うので何も聞けずにカウンターの奥へと入って行った。
○ ○ ○
土曜日の午後、いつものように歌を歌ったミニョ。バイトへ向かう準備をしているとカトリーヌが現れた。
「こんにちは、ミニョ。」
「あ、カトリーヌさん、こんにちは。」
「今日は、 『アウ゛ェ・マリア』 だったのね、よかったわよ。」
「聴いて下さったんですか?ありがとうございます。」
「今からバイトかしら?」
「はい、そうですけど。」
「そう・・・それじゃあ・・・」
ミニョのカバンを持つカトリーヌ。ミニョは一瞬顔が引きつった。
「カトリーヌさん・・・もしかして・・・今日も?」
何となく嫌な予感が・・・・・・
「じゃあ、行きましょうか。」
心なしかはずんでいるように聞こえるカトリーヌの声。カトリーヌはミニョのカバンを持って走り出した。
「今日も走るんですか~」
カトリーヌを追って、ミニョも走り出した。
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