「あ~、今頃ミニョ何してるのかなぁ。」
アジアツアーを無事に終え、韓国に戻って来たA.N.JELL。
相変わらず毎日忙しく、今日もテレビ局で音楽番組の収録を終えると、午後十時を過ぎていた。
控室の中。マ室長とワン・コーディという、ミニョのことを知っている人間だけがいる空間で、ジェルミが大きなため息とともに呟いた。
「今頃は・・・まだボランティアの仕事か、そろそろ終る頃だな。」
時計の針に目をやりながら、大きな鏡の前に座りメイクを落としながらシヌがジェルミの方を見る。
「ねぇ、ボランティアって男のスタッフもいるんだろう。仕事の後で、食事でもって誘われたりしてないかなぁ。」
ジェルミが右手の爪を嚙みながら、ウロウロと歩き回る。
メイクを落とし着替えを済ませたテギョンが、部屋の中央の椅子に座り、水の入ったペットボトルに口をつけていると、隣にミナムが腰を下ろした。
「ん~、平日はたぶん家で食べてると思うけど、土、日はどうかな~」
意味ありげにチラッとテギョンを見るミナム。
今までに何通か来たミニョからの手紙で、アフリカでどう過ごしているか大体判っている。
「土曜日の午前中は英語の勉強で、午後からミサとバイトだろ。日曜日は一日バイトだし。バイト先の客とかに、声かけられてるかもな。ミニョって案外モテるみたいだし。」
テギョン、シヌ、ジェルミの動きが一瞬止まった。一斉にミナムの方を見る。
ミナムは三人に順番に目をやり、ニヤリと笑って左手で持っていたスプーンでアイスを口に運ぶ。
「高校ん時も結構声かけられてたし、俺の友達の中にも気にしてる奴いたなぁ。昼になると、ミニョに弁当の卵焼きやる奴とか。」
アイスを口に運ぶため動き続けるミナムの左手。対照的にペットボトルを持ったまま動かないテギョンの右手。
― 卵焼き・・・あいつか・・・
テギョンは 『言葉もなく』 のPV撮影の時のキム・ドンジュンを思い出す。
ミニョがミナムのフリをしていたのに気づかず、抱きつき、頭をすり寄せ、ミニョのことが初恋だと言った男。気づいた後も別れ際にミニョを抱きしめて・・・・・・
― 思い出すだけで・・・・・・腹が立つ。
テギョンはミナムから顔を背けると口を歪ませ、再び水に口をつける。
「あ~心配だなぁ。いくらテギョンヒョンがいるからって、ミニョが合宿所にいた時よりも、アフリカにいる時間の方がず~っと長いんだし。あっちでいい男が現れて、もう韓国には帰らないとか、帰ってもまたすぐ行っちゃうとか・・・・・・」
「あいつなら・・・心配ない。心配なのは・・・あいつのドジで周りに迷惑をかけていないか・・・それだけだ・・・」
キュッとペットボトルに詮をしてテーブルに置くと、テギョンは部屋を出て行った。
「ちょっと、テギョンの不安を煽るのはやめなさい。」
ワン・コーディが衣装にブラシをかけながらミナムとジェルミを軽く睨む。
「テギョンヒョンが不安?」
「そうよ、あの二人って一度別れてるみたいじゃない。コンサートでテギョンが告白した後だって、二日後にはミニョはアフリカに行っちゃったし。・・・ん?別れる前ってどれくらい付き合ってたのかしら?」
ワン・コーディの言葉に皆で ? という顔をしている中、マ室長だけがフフンと笑い、丸い眼鏡の奥の小さな瞳を光らせた。
「俺が思うにあの二人、一週間も付き合ってないぞ。」
「一週間!?」
「俺はてっきり、ミニョさんはシヌのことが好きだと思ってたから、釜山で二人っきりにしてあげようと思ったんだ。だけどいきなり二人だけで泊まりでなんて、断られると思ったから、ジェルミと俺も一緒ってことにして。で、空港で急にジェルミに仕事が入ったように見せかけて、シヌとミニョさんを置いて帰って来たんだけど・・・。何故かテギョンがミニョさんを連れて戻ってきて、俺の前で 『よく見てろ』 って、こう・・・」
マ室長は、ワン・コーディの前へ行き両腕を摑んで自分の方を向かせ、いきなり抱きしめる。
「で、ミニョさんもテギョンが好きな様子で・・・・・・」
ワン・コーディはマ室長に抱きつかれ、一瞬恥ずかしさから顔を赤くしたが、すぐにそれは怒りの色へと変わり。
「ぐえっ・・・ぃてっ・・・」
マ室長のみぞおちに肘鉄がきれいに決まった。
「再現しなくていいっ!」
はい、と小さな返事をし、いてて、とお腹を押さえながら話を続ける。
「その後沖縄に行ったときは、もう何かちょっと変だったろ。サイン会の後、テギョンは一人で先に帰っちゃうし、本物のミナムと合流してからは、ミニョさん姿消しちゃうし・・・。ずいぶん経ってソウルの街中で偶然会って、ミナムの代わりを頼んだ時だって、テギョンはミニョさんだって気づいたのに、俺に聖堂まで送らせて・・・」
更衣室のカーテンの向こうで、じっとマ室長の話を聞いているシヌ。
シヌは沖縄に行く前に、テギョンとミニョの間に何かがあったことは知っていた。
事務所の階段でミニョの手を振り払ったテギョン。
泣き崩れるミニョに手を差し伸べていたら、自分の手を取ってくれただろうか。
そっと肩を抱いたら、自分の胸で泣いてくれただろうか。
沖縄の砂浜で見たミニョの寂しそうな後ろ姿。
そのまま海へ消えてしまうのではないかと、思わず摑んだ腕。
教会でテギョンに見せつけるように抱きしめた身体。
どの場面でもミニョはテギョンを想っていた。
判ってはいても、いつか自分に振り向いてくれるのではないかと思い、ずるずると引きずっていたミニョへの想い。
ミニョがずっと前から、テギョンのことを想っていたことをシヌは知っている。
テギョンがずっと前から、ミニョのことを気にしていたこともシヌは知っている。
想いが通じ合い、その後一度離れた二人。
再び手を取り合ったのもつかの間、また離れてしまった二人。
だが、ミニョは笑顔でテギョンの許に帰って来るだろう。ミニョの心がテギョンから離れることはない。
確信にも似た思い・・・
ミニョをずっと見守って来たシヌだから判るミニョの心。
目の前でテギョンと幸せそうにしている姿を見れば諦められるだろうか。
― 諦めなきゃいけないよな。
自分の想いはミニョに負担になる。ミニョの困った顔は見たくない。
― ミニョが帰って来るまでもう少し。その間に気持ちの整理が出来るか・・・・・・
* * * * * * *
タイトル話数だけだと、自分でもどこで何を書いたか判らない・・・
とりあえず今回から、サブタイトルつけてみました。
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