普段事務所でも合宿所でもあまり話したことがない。そのテギョンがいきなりミナムの部屋のドアを叩いた。
「あいつが姿を消したのは、俺のせいだ。俺があいつを傷つけた。」
すまないと言って頭を下げる。
ミナムは驚いた。
今まで噂で聞いていたファン・テギョン、いっしょにA.N.JELLとして活動して目の前で見てきたテギョンからは、想像もつかない姿だった。
テギョンは母親モ・ファランとミナム達の両親との間にあった出来事を話した。そして、しきりに俺の母親のせいで・・・といって謝る。
テギョンはミナムの憧れだった。
A.N.JELLの皇帝ファン・テギョン。
練習生になってからは、少しでも近づきたくて、毎日必死でレッスンを受けた。
A.N.JELLの四人目のメンバーに選ばれた時は、飛び上がって喜んだ。
ミナムがメンバーとしてA.N.JELLに入るまでに、思いもよらないアクシデントはあったが、無事メンバーとして受け入れられた。
間近で感じるテギョンの音楽。
身近にいると、より一層テギョンの凄さを感じる。
そのテギョンが母親の為に頭を下げている。
「テギョンさんが謝ることじゃない、テギョンさんのせいじゃない。」
「だが、しかし・・・」
テギョンの言葉にミナムが言葉を被せる。
「空港で会った時からずっと気になってた。俺を見る目が何か違うような。その訳がやっと判った。俺に悪いと思ってたんだね。」
「俺の母親がお前たちの両親にしたことは・・・・・・」
「もういいって、そのことは!」
苛立つように言葉を発する。
憎らしいくらい自信に満ち溢れていて、不敵な笑みを浮かべている。
そんなテギョンが好きだし、憧れでもあった。自分に許しを請う姿は、とても見ていられない。
「それに俺、とっくに母さんはもう死んだと思ってたから。俺にとっては、どこかで生きてて、いつか会える人じゃなくて、この世にいなくて、もう会えない人なんです、随分前から・・・。だから実際に亡くなったって聞いたって、何ともない。」
テギョンが驚いたように目を見開き、ミナムを見つめる。
「驚きました?ミニョとの反応の違いに。あいつはずっと母さんに会いたがってたからなぁ。きっと大泣きしたんじゃないですか?」
クスクスと笑うミナムにテギョンは何も言えずにいた。
確かに反応が全く違う。
母親の死を聞いて泣き崩れたミニョ。
母親の死を笑って話すミナム。
ミニョと同じ顔。
ミニョと同じ声。
「だからもう気にしないで下さい。それにミニョのことは二人の問題でしょ。俺には関係ない。」
そう言うと、部屋から出そうとテギョンの背中を押す。
「テギョンさんが気にしたままだと俺もA.N.JELLでやりづらいから、この話はこれで終わりにして下さい。じゃないと・・・・・・ヒョンニムって呼びますよ。この顔と、この声でヒョンニムって呼ばれるの嫌じゃないですか?ミニョを見てるみたいで。」
ミナムがニヤリと笑う。
テギョンは一瞬目を見開き、次いで顔を歪ませた。
「ジェルミから聞いてます。ミニョはテギョンさんのことをヒョンニムって呼んでたって。嫌でしょ、俺にヒョンニムって呼ばれるの。俺は母親の話をされるのは嫌だ。ね、お互い嫌なことするのはやめましょう。俺これからはテギョンさんのことヒョンって呼びますから。じゃ、そういうことで話は終わりですね。」
ミナムはテギョンの背中を押し、部屋から追い出すと、バタンとドアを閉めた。
○ ○ ○
あれからお互いに母親の話はしていないが、普通に会話はするようになった。
「あれでよかったんだよな。」
小声で呟きながら、少し緩む口にビールを流し込んでいると、ジェルミが横から顔を覗き込んできた。
「ミナムはいいの?兄としてミニョとテギョンヒョンのこと。」
「何?テギョンヒョンは、そんなにおすすめできない?」
「いや、そうじゃないけど、ほら、俺の妹は誰にも渡さんみたいな。」
「俺、シスコンじゃないよ~」
「じゃあ、認めてるんだ。」
「認めるも何も・・・。俺はミニョがテギョンヒョンと一緒にいるところ、昨日と今日の二日間しか見てないけど、ミニョが幸せそうなのはよく判ったから。テギョンヒョンもミニョのこと大切にしてるのがよく判った。さっきだって、ミニョを送ってくの判ってたから、アルコール一滴も飲んでないし。」
「え~、そうなの?」
テギョンはミニョにシャンパンの許可を出したが、自分は全く飲んでいなかった。
「そんなとこまで見てるなんて、やっぱり気になるんだな。」
シヌがミナムの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「それにしてもテギョンヒョン遅いね。ミナムの部屋に連れて行ったんだろう?」
「さぁ・・・どうだろうね・・・・・・」
クスクスと笑いながらビールに口をつける。
シヌはその様子をじっと見ていた。
* * * * * * *
― 次回予告 ― (次のお話のどこかで出てきます)
朝のワイドショーでのミナムの言葉がよみがえる。
『天下の皇帝ファン・テギョンに告白されて、すぐにボランティアで外国に行く女性がいると思います?』
― ・・・ここに、いるんだよな・・・・・・
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