立つレッサーパンダが人気だった10年ほど前。
動物園には一目見ようと「立つレッサーパンダファン」が足を運び、企業はグッズ化による収益を獲得し、一大ブームが巻き起こりました。
そもそもレッサーパンダが立つ理由。
それは『威嚇』と言われています。
猫が危険を感じたときにしっぽをピンッと張るように動物にはできるだけ自分を大きくみせることで危機を回避しようとする習性があるようです。
その事実を知ったときに「あぁ見た目ですべてを理解することは到底できないのだろうなぁ」と察しました。
2021年5月。
あまりにも早い夏の訪れにフロンタウンのかき氷機の稼働も増えてきました。
とある、小学生になったか、なっていないかくらいの男の子に声をかけられたことがあります。
「‥‥。かき氷ください…。」
聞こえるか、聞こえないかの声で声をかけてくれました。
なに味にするか聞くと、
「‥‥‥‥。」
答えが返ってきません。
あたりを見回しても親御さんはいないようです。
手には200円。親御さんに渡されたのでしょう。
その時、彼が口を開いたのです。
「…。いちご…。」
勇気がいる発言だったでしょう。
この文章を書いている私は身長180cm。対して男の子は膝くらいの背です。60cmくらいなのでしょうか。3倍です。とてつもない差です。私の3倍の身長ならば540cmです。デカすぎる。マンションの2階くらいでしょうか。さすがに私もマンションの2階からなに味にするか急に聞かれたら困ると思います。でも、でもよく考えるとそりゃいちごだよなと。思い返せば私がまだ60cmくらいだったころもかき氷といえばいちごで間違いありませんでした。そんな過去の思い出を振り返りながらかき氷機は動きます。
『ありがとう!いちごです!』
身長差を感じさせないトーンと笑顔で男の子にかき氷を渡します。
「…。青いのがよかった…。」
久しぶりにうろたえました。青いイチゴの存在を知らないからです。青いイチゴ。ノットイコールなその存在が「良かった」。良かったらしいのです。それはもう現実的であるとかないとかそういうことではないのです。据え置き腕時計。飛べない飛行機。果汁100%粉ミルク。無理といえばそこまでの課題がスコールのように降りかかってきました。
釈然としている男の子と呆然とたたずむマンション(男の子比)
5月の夕暮れはその状況を見守ることしかできませんでした。
後日、こんな話を聞きました。
かき氷のシロップは、すべて同じ味らしい。
理論上、青いイチゴのかき氷はいけるようです。その瞬間、こう思うしかなかったのです。
「あぁ見た目ですべてを理解することは到底できないのだろうなぁ」
よい週末を。
フロンタウンさぎぬま 田代楽