母の病❾
元に居た施設に電話をかけると、
部屋の空きが無いと言われてしまったと、
病院の相談員から、ガチギレしながら電話がかかって来た。
女性の相談員さんの声は震えていた。
「なんなんですか一体!これからどうするんですか!」
いきなり頭ごなしに言われたものだから、唖然としてしまい、
「仰っている意味がよく分からないんですが」とだけ返した。
施設側からしたら、退院がいつになるか分からない方のために一部屋を空けておけなかったらしい。
ただ、施設とは、退院したら戻れるという約束を交わした筈だった。
なので母は行き場を失い、新たな施設が見つかるまで退院は延期となってしまった。
そのまま、病院で年を越し、何度か相談員さんと電話でやり取りをして、ようやく一つ施設が見つかった。
最後の方は相談員さんとも打ち解けており、
「あまりにも酷い仕打ちでしたね。でもようやく見つかってほんと良かった」と言ってくれた。
病院側からしたら、体調が回復した患者をいつまでもおいてはおけないというプレッシャーもあったのだろう。
そして母は一ヶ月の入院生活を終え、新たな施設に移る日がやって来た。
今度こそ、数時間でいいから家に帰してあげたい。
俺の希望を叶えるべく、兄貴が珍しく力を貸してくれた。
車で母を迎えに行くと、母の目つきが鋭かった。
もう誰も信用出来ない。そんな顔つきだった。
「あたしは次どこに連れていかれるの?」
「あたしはどこにも行かないから、家まで送りなさい!」
いきなり罵声を息子二人に浴びせて来た。
なので最初に兄貴が叱った。
更に俺がそれに乗っかる形で大声を出した。
母はシュンとなり、車は走り出した。
道路の混み具合もあり、どうやら帰宅する時間が無くなりそうになった。
途中、いつもの母に戻って俺に話をかけて来たけど、それに気づく余裕もなく、
「うるさいなー」などと、冷たくあしらってしまった。
新しく向かう施設に電話をして、少しだけ時間をもらう事にした。
これによってなんとか帰宅する事が出来た。
何が食べたいか?と聞けば、昔から「寿司」と答えた。
今回もやはりそうだったので、たまたま信号で引っかかった時にあった小僧寿しで寿司織を買った。
お行儀がよろしく、とても厳しかった母が、がっついて車の中でそれを食べた。
そのまま帰宅して、施設に行く支度をした。
↑※今日施設に持って行ったセンスのない弁当の一部