母の病❻
母から、夜中に何度も電話がかかってくる様になった。
誰かに監禁されている。
誰かが外でナイフを持って待っている。
毎晩電気を体中に流されて甚振られている。
今、中国の山奥にいる。
明日あたしは殺されます。
今日は隣の人がやられました。
こんな内容ばかりが続いた。
当然、「何訳のわからんことを言ってんの!?」と返すのだが、
「じゃああたしがどうなってもいいのね!」といつも怒る。
これの繰り返しだった。
ただ、この返答は一番悪い例なんだそうで、
「あー、それは大変だったね」などと、
母の気持ちに寄り添って、決して否定をしないというのが一番なんだそうだ。
だけど、わかっていてもそれがなかなか出来ない。
母は、強い薬の副作用で鬱を併発してしまい、統合失調症との診断を受けた。
あまりにも変わり果てた母の言動。
そして数ヶ月振りにソーシャルディスタンスを守った面会で見た母の変わり果てた姿。
体重は30キロしか無かった。
激痩せが、更に母を老けさせてしまった。
医師に「うちの母は戻りますか?」と聞いた。
「大丈夫です。想定内ですから。」
俄かには信じられない言葉ではあったが、それに救われたのもまた事実である。