本道のほかに、まばらに木の生えた築山の横を通り抜ける小道や、池のほとりに出るわき道があったりするが、私は気の向くままに進んだ。彼女は私からは見えない一歩下がった位置を控えめに歩いていた。
水に惹かれて池の前にさしかかると、夜目にも水はきれいではなさそうだが、水面が外灯を受けてきらきらと光り、カエルの乗っていそうな葉がいくつも浮いていた。
「こんなところでも暑い季節には水連が咲くのかもしれないね」
「ええ。見てみたいわ。水連の花って可憐なようで華麗よね。朝に咲いて昼にはしぼんじゃうのがはっきりしているし」
「マイペースでわがままな花なんだな」
「潔くて気高い花なの。わたし池が見たかったのよ。こっちに来てくれてよかった」
「水には不思議な魅力があるからね。ちがう道を辿るやつがいるのかな」
「いると思うわ。きっと好奇心のないつまらない人だわ」
そう言う彼女は手をうしろに組んで、ゆったりゆったりと歩いている。社内を満足げに視察する部長のようだ。休みなく周りの景色に目を配っていた。
公園の中心部ともなると灯りは極端に減少し、暗がりに目が慣れればいるいる、そこの東屋の柱の影にも、向こうの木の下にも、あっちもこっちもアベックだらけだ。一様に顔を寄せ合ったり、無言で抱き合ったりしている。どなたも熱心である。
さらに足を進めるとこじんまりとした広場が開け、チューリップの咲く花壇を取り囲むようにベンチが並んでいる。暗闇に目を凝らせばそのほとんどが埋まっており、異様な雰囲気ではあるが、そこを通り抜けなければ今来た道を戻るはめになる。
多少ひやかしの気持ちもあり、彼女のようすを気にかけながら、ぐるりと花壇を回った。それがまるで暗黙のルールか礼儀でもあるように、ベンチはひとつおきに埋まっている。誰もがてんでに好き勝手なことをやっている。黒装束の男が一人で歩いていれば、まちがいなくのぞき屋だ。私もそのひとりに含まれる。
この寒気の中、どなたもご執心である。こんなところでいちゃいちゃしているひまがあったら、ホテルにでもなんでも行けばいいのだ。デートの日の夕食に牛丼屋へ入り、お茶をおかわりして喫茶店代わりにするような真似はやめろと言いたい。我ながら支離滅裂だ。
私は彼女とのこれからの時間を考えると有頂天になっていた。ものめずらしそうにきょろきょろしていた彼女に私は耳打ちした。
「他のことを考えられないのかな。寒いのに。こういうのを見ているとなんだか悲しくならないか?」
「そうかしら。幸せそうだわ」
彼女は振り返り、改めて恋人たちを見守った。現実的で合理的な男との見解の相違かもしれない。
「家でテレビを観ていた方がましだけどな」
色とりどりのチューリップと彼女の白いコートだけが闇に浮き上がっていた。アハハハと彼女は笑った。
「これだから男の人ってかわいくないわ。でもそういうところがかわいい」
かわいいと言われた男が、どんな顔をしてよいのかわからない。