彼女が利用した洗面所は、隣りのホテルと兼用のはずである。どんなに鈍いやつでも気づく構造だ。
「冴子、そろそろ出ようか」
「はい」
コーヒーのあと、グラスの底に残ったワインを飲み干し、私はいち早く伝票を手に立ち上がった。あえて彼女を支えて歩かなかった。向こうからしなだれかかるのなら別だが。
私はレジで会計を済ませた。冴子は後ろで大人しく待っていた。
「ごちそうさまでした」
丁寧に頭を下げ、冴子は私を見上げた。
「ぼくとセックスするか?」
遠まわしに言っても始まらない。相手の顔色を窺うのは、弱気な男のすることだ。
「するわ」
私は頷いた。私たちは店の出口へは向かわず、彼女が洗面所へ行くために通ったホテルへの渡り廊下を抜けた。