スカートの下から手を入れ、パンティストッキングを脱がせた。


 「シャワーを浴びようか?」


 冴子は首を振った。


 「石けんの匂いがいやなの。味気なくて。そのままでいて」


 自分本位だとも一方的だとも不潔だとも思わなかった。望むところだ。街で拾った女ならともかく、多少なりとも好意を寄せた女だ。それに本来なら女の方からシャワーを強要する場合が多い。


 スカートのサイドファスナーを下ろして手を離すと、柔らかな布が床に円を描いて落ちる。靴を脱いで裸足になっていた彼女が、輪っかの外に出た。


 純白の下着を、これほど眩しいと感じたことはない。彼女は紛れもない子持ちだったが、清楚で穢れのない姿かたちをしていた。細くくびれたウェスト、すんなりとした肉づきの脚、真っ白い体。出産の直後に痩せられない女は生涯そのままだ。


 半裸の女を抱き、再び唇を重ねた。冴子は背伸びをした。むき出しの背中は、服を着ていた時よりもずっと温かい。冴子の手が私のネクタイの結び目をほどこうとした。


 「ネクタイをはずすのが苦手なの」


 「得意であっても困るよ」


 私は片手でさっとネクタイを取った。冴子がぎこちない手つきでワイシャツのボタンをはずし、私はカフスを受け持った。上半身が露わになると、冴子が私の肩と胸にキスをした。


 「男の人のズボンはボタンやフックがいっぱい付いていて複雑だから、あとで自分で脱いでね」


 「そうするよ」


 言いざま冴子を肩に抱え、ベッドへ運んだ。いきなり体が宙に浮いた彼女は、キャッキャッと騒いで暴れた。ベッドに転がすと、サイドテーブルのシェードランプを点けた。

 ホテルの一室は、重厚感ある匂いにあふれていた。カビの匂いというか郷愁といおうか。


 色褪せた絨毯、小机に椅子に飾り戸棚、それに古めかしいベッド。窓から入る夜の明かりに、落ち着いたムードをかもし出している。彼女のためにもここにして正解だ。


 照明のスイッチを入れる前に、彼女が窓に歩み寄った。こじんまりとしたホテルの部屋は、最上階でも公園の木立より少し高い程度だった。影絵のような木々の先に、オレンジ色に輝く巨大な東京タワーがそびえ立っていた。


 冴子は出窓に手をつき、束の間目を送ってカーテンを閉めた。部屋の中が暗くなり、カーテンを通した光だけがうっすらと照らした。


 背後から近寄って肩に触れると、彼女はすっと身を交わした。私がゆっくり追いかけると、冴子が首に抱きついてきた。


 「ねぇ先生、わたし怖い」


 ちょっと聞けば馬鹿馬鹿しい台詞だ。私は彼女を押し離して顔を見つめた。恐ろしく真剣で怯えた目をしていた。


 「大丈夫だよ。ぼくがついている」


 本心で言ったのか気休めに言ったのかわからなかった。だがその時の引きつったような、安堵したような冴子の笑顔が、深く私の心に焼きついた。


 そっと抱き寄せ、唇を重ねた。冴子がそれに応じた。ぽってりとした唇はやわらかく、しっとりと潤っていた。二人の口づけに激しさが増した。


 私は唇を離すと、彼女に万歳をさせ黒いニットを脱がせた。豊満な乳房がぶるんと震えた。静電気で頬に張りついた髪を指で直してやった。私はブラジャーからはみ出たふくらみに顔を埋めた。冴子の匂いがした。

 ホテルのロビーは暗く、青白いスタンドライトにのみ照らされていた。ロビーと呼べるほどのものでもない。観葉植物がちらほらと、低いテーブルにソファがひとつあるだけだ。


 無人のフロントは眠っているようだった。ベルを押して人を呼ばなければいけなかった。私が手続きをしている間、冴子はフロントからは死角のソファに腰掛け、何も見えない真っ暗な庭に見入っていた。何も見い出せはしないのに。


 ほの暗い光に照らし出された白い横顔は、蝋のように無機質で繊細に見えた。



 私はキーを受け取った。用がすむとフロント係はそそくさと奥へ引っ込んだ。


 「行こうか、冴子」


 女を促し立ち上がらせた。寄り添うように肩を抱き、私はエレベーターの昇降ボタンを押した。