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文書作成日:2025/05/22

2025年度に注目したい雇用関連助成金

助成金制度は年度単位で予算が立てられているものが多く、年度初めに多くの助成金の創設・改廃が行われます。今回は、国が力を入れている賃上げ支援助成金パッケージと新設された両立支援等助成金の「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」を紹介します。

[ 1 ]

「賃上げ」支援助成金パッケージ

 「賃上げ」支援助成金パッケージとは、厚生労働省が企業の賃上げを支援するための支援をまとめたもので、業務改善助成金、キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)、働き方改革推進支援助成金、人材開発支援助成金、人材確保等支援助成金(雇用管理制度・ 雇用環境整備助成コース)、特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)、早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース、中途採用拡大コース)、産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)から構成されます。以下では、この中から特に注目されている2つの助成金をとり上げます。

(1)業務改善助成金
 業務改善助成金は、事業場内最低賃金を30円以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った場合に、その設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。この事業場内最低賃金とは、事業場で最も低い時間給を指します。
 対象となる企業は、中小企業・小規模事業者で、今年度より大企業と密接な関係を有する企業(みなし大企業)は対象外となりました。また、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であることが必要です。
 対象となる設備投資等には、生産性向上に資する設備投資等が助成の対象となり、例えば以下のようなものが挙げられています。

 経費区分 対象経費の例 
 機器・設備の導入 ・POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
・リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
 経営コンサルティング  国家資格者による、顧客回転率の向上を目的とした業務フロー見直し
 その他  顧客管理情報のシステム化

[支給額]
 支給額は、生産性向上に資する設備投資等にかかった費用に、助成率をかけた金額になります。助成率は、引き上げ前の事業場内最低賃金に応じて設定されており、1,000円未満の場合は5分の4、1,000円以上の場合は4分の3となっています。
 なお、この支給額については上限額が設けられており、事業場内最低賃金の引き上げ額と引き上げる労働者数によって定められています。また、事業場規模30人未満の企業については、それ以外の規模の企業よりも上限額が高く設定されています。

[注意点]
 2025年度からの変更点として、申請期間と賃金引き上げ期間について複数の期間が設定されました。第1期(2025年4月14日から6月13日まで)の賃金引き上げ期間は、2025年5月1日から6月30日までとなっています。
 賃金引き上げ時の注意点としては、申請日より後に行う必要があります。また、地域別最低賃金の発効に対応して事業場内最低賃金を引き上げる場合、申請後から発効日の前日までに引き上げる必要があります。

(2)キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)
 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用させた場合に助成されます。この対象となる労働者にはいくつかの要件が設けられており、例えば以下の項目があります。

  • 賃金規定等を増額改定した日の前日から起算して3ヶ月以上前の日から増額改定後6ヶ月以上の期間継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用労働者等
  • 就業規則または労働協約に定めるところにより、増額改定した賃金規定等を適用され、かつ、増額改定前の基本給に比べて3%以上昇給している者
  • 賃金規定等を増額改定した日の前日から起算して3ヶ月前の日から支給申請日までの間に、合理的な理由なく基本給および定額で支給されている諸手当を減額されていない者

 また、対象となる企業についても要件が設けられています。

[支給額]
 支給額(1人当たり)は以下のとおりです。

企業規模\賃金引き上げ率  3%以上
4%未満 
4%以上
5%未満 
 5%以上
6%未満
6%以上 
 中小企業  4万円  5万円  6.5万円  7万円
 大企業  2.6万円  3.3万円  4.3万円  4.6万円

 1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は100人です。また、有期雇用労働者等に適用される昇給制度を新たに規定した場合などには、金額が加算されます。

[注意点]
 キャリアアップ助成金の活用にあたっては、コースの実施日の前日までに「キャリアアップ計画」の提出が必要です。

[ 2 ]

両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)

 不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースは、2025年度に新設されたもので、中小企業が対象です。不妊治療、月経(PMS(月経前症候群)含む)、更年期といった女性の健康課題に対応するための両立支援制度を利用しやすい環境整備に取り組むとともに、不妊治療や女性の健康課題に関する労働者の相談に対応し、それぞれに関する制度を労働者に利用させた場合に助成されるものです。

[支給額]
 支給額は以下のとおりで、それぞれ1事業主当たり1回限りです。

 支給要件  支給額
 不妊治療のための両立支援制度を5日(回)利用  30万円
 月経に起因する症状への対応のための支援制度を5日(回)利用  30万円
 更年期に起因する症状への対応のための支援制度を5日(回)利用  30万円

[注意点]
 制度の利用対象者は、雇用保険被保険者以外の労働者も含める必要があります。 

 助成金には予算枠が設けられているため、いざ活用しようと考えたときに、受付が終了している可能性があります。活用にあたっては、最新情報を確認しましょう。

■参考リンク
厚生労働省「「賃上げ」支援助成金パッケージ
厚生労働省「業務改善助成金
厚生労働省「キャリアアップ助成金
厚生労働省「両立支援等助成金のご案内

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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少子高齢化による労働力人口の減少が進む中で、従業員の多様な働き方への支援は、企業の持続的な成長に不可欠です。両立支援のテーマとしては、育児や介護、病気治療など様々なものがありますが、近年、企業で対応が進められているのが、不妊治療と仕事の両立です。厚生労働省では、不妊治療と仕事の両立支援に関する企業向けマニュアルの策定や助成金制度の創設などの取組みをしています。以下では、これらの内容についてとり上げます。

[1]不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル
 厚生労働省では、企業向けに「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」を策定し、不妊治療と仕事との両立支援を導入する際のステップ(以下、「両立支援導入ステップ」という)や企業の事例などをとり上げています。ここで示されている両立支援導入ステップは、以下のとおりです。

 Step1 取組方針の明確化、取組体制の整備
 Step2 社員の不妊治療と仕事との両立に関する実態把握
 Step3 制度設計・取組の決定
 Step4 運用
 Step5 取組実績の確認、見直し

 このうち、Step2の実態把握は、従業員の不妊治療と仕事との両立支援の取組を進める上での出発点となります。その方法としては、社内の現状をチェックリストで把握したり、従業員の状況を把握するためにアンケートを実施したりすること等が挙げられますが、このマニュアルでは、この実態把握のために活用できるチェックリストやアンケート例が掲載されています。

 Step4の運用では、制度の周知やプライバシーの保護、社内の相談対応などがあります。社内の相談対応については、相談を受けた場合に、相談内容を誰にどの範囲まで共有してよいか、本人に確認しておくことが重要であり、電話で相談を受ける場合には相談を受ける担当者の性別が分かるようにしておくことの配慮が求められます。

[2]両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)
 両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)は、不妊治療と仕事との両立に資する職場環境の整備に取り組み、不妊治療のために利用可能な両立支援制度などを労働者に利用させた中小企業を支援するもので、2025年度に新設されました。女性の健康課題に対応するために利用可能な両立支援制度を設けたときにも対象になります。
 主な支給要件としては以下の4つが挙げられます。

  1. 両立支援制度として以下の6つの中から制度を導入し、制度利用の手続きや賃金の取扱い等を就業規則等に規定していること。

    休暇制度/所定外労働制限制度/時差出勤制度/短時間勤務制度/フレックスタイム制度/在宅勤務等

  2. 従業員からの相談に対応する両立支援担当者を選任していること。
  3. 対象従業員が導入した制度を合計5日(回)利用していること。
  4. 対象従業員について、制度利用開始日から申請日において、雇用保険被保険者として雇用していること。

 支給額は30万円で、1事業主あたり1回限りとなっています。

 また、不妊治療と仕事との両立がしやすい環境整備に取り組む企業を認定する「くるみんプラス」、「プラチナくるみんプラス」および「トライくるみんプラス」の制度も設けられています。厚生労働省では企業を支援する取組みを行っていますので、参考リンクを確認し取組み可能なところから進めるとよいでしょう。

■参考リンク
厚生労働省「不妊治療と仕事との両立のために
厚生労働省「両立支援等助成金のご案内

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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カスタマーハラスメントについては4月に東京都の防止条例が施行され、また国会でも対策措置の義務化を定める法案の議論が行われています。カスタマーハラスメントの問題が大きくなる中、厚生労働省では企業の取組を支援するために企業マニュアルや研修動画等をホームページに公開しました。以下ではその内容をとり上げます。

[1]あかるい職場応援団
 厚生労働省では、人事労務に関して様々なテーマの総合情報サイトを公開していますが、ハラスメントに関しては、総合情報サイト「あかるい職場応援団」があり、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントのほかに、カスタマーハラスメント、就活ハラスメントの情報も発信されています。

[2]カスタマーハラスメント対策の各種ツール
 この「あかるい職場応援団」の情報サイトでは、カスタマーハラスメント対策に関して、以下の情報が掲載されています。

  • 業種別カスタマーハラスメント対策の取組支援(企業マニュアル・ポスター・研修動画、マニュアル策定手順例)
  • カスタマーハラスメント対策企業事例
  • カスタマーハラスメント対策企業マニュアル・リーフレット・ポスター

 このうち、業種別カスタマーハラスメント対策の取組支援では、スーパーマーケット業編が公開されています。これは、カスタマーハラスメント対策に関心を持つ業界団体等が業界内のカスタマーハラスメントの実態を踏まえ、業界共通の対応方針等を策定・発信するまでの支援をモデル事業として実施したもので、2024年度はスーパーマーケット業界で実施されました。そして今年3月に、業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(スーパーマーケット業編)、周知啓発ポスター、研修動画が公開されています。

 このほか、他の業界が同様に業種別の対策マニュアルを策定する際の参考となるように、業種別カスタマーハラスメント対策マニュアルの策定手順例が公開されています。

 すでにカスタマーハラスメント対策の取組を進め、消費者の目に入る場所にポスターを掲示しているような企業も見受けられます。今後、カスタマーハラスメント対策の取組を検討する際には、今回取り上げた情報なども活用されることをお勧めします。

■参考リンク
あかるい職場応援団「カスタマーハラスメントを知っていますか?
厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル (スーパーマーケット業編)等を作成しました。

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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文書作成日:2025/05/08

改めて確認したい無期転換申込権の発生と特例の取扱い

先日、木戸部長はパート従業員から無期転換に関する質問を受けた。これまで無期転換申込みの実績はないが、改めて無期転換制度について社労士に確認することにした。

 今日は、無期転換について復習させてください。

 どうされましたか?パートの方から、無期転換の申込みでもあったのですか?

 いいえ、申込みはありませんが、パートさんから無期転換について質問を受けました。無期転換制度が施行されたのは、かなり前になるので、改めて内容を理解しておきたいと思っています。

 なるほど。無期転換申込権は、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えると、無期労働契約に申込みができる権利(無期転換申込権)が発生するというものですね。そして、実際に従業員から申込みがあると、次の契約から無期労働契約に転換されます。

 この5年のカウントですが、従業員の事情で正社員(無期契約労働者)からパートタイマー(有期契約労働者)に変わった場合、正社員として入社してから5年が経過すると、無期転換への申込みができるのでしょうか?

 5年の対象は、「有期労働契約」の期間ですので、パートタイマーの期間だけですね。

 なるほど。そこは契約を分けて考えるのですね。ちなみに、当社では、正社員が60歳で定年退職し、その後、65歳まで1年更新の有期労働契約を締結しています。人材確保の観点から、65歳以降も引き続き契約更新をしたいと思っていますが、今のお話からすると、有期労働契約が通算5年を超える65歳超の契約を締結することで、無期転換申込権が発生するという理解でよいですか?

 原則はその通りです。ただ、正社員であった人が定年を迎えた場合については、特例が設けられています。

 思い出してきました。何か申請書がありましたね。

 そうです。申請書の名称は「第二種計画認定・変更申請書」です。この申請書を提出し、労働局の認定を受けることで、当社で定年を迎えた従業員がその後、有期労働契約を反復更新して通算5年を超えたとしても、無期転換申込権が発生しないという取り扱いになります。

 定年後も、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えると、無期転換申込権が発生すると思っていました。まずは、この認定を受けることで有期契約として続けることができますね。木戸部長、手続きをしていないようであれば、申請を進めてください。

 わかりました。

 2025年4月に「第二種計画認定・変更申請書」の様式が変更になりました。申請の際は、厚生労働省等のホームページから新しい様式をダウンロードして使ってください。また手続きに関して分からないことが出てきましたら、いつでもご連絡ください。  

>>次回に続く

 



 ここでは、定年後の継続雇用の特例に係る労働条件の明示について補足します。
 事業主は、対象となる従業員に対して、定年後、引き続き雇用されている期間が、無期転換申込権が発生しない期間であることを書面で明示する必要があります。以下は、厚生労働省のモデル労働条件通知書の該当部分で、今回のケースはⅡ(定年後の高齢者)になります。すでに認定を受け、対象者がいる場合は、労働条件通知書にこの内容が明示されているかを確認しましょう。

 【有期雇用特別措置法による特例の対象者の場合】
 無期転換申込権が発生しない期間:Ⅰ(高度専門)・Ⅱ(定年後の高齢者)
 Ⅰ 特定有期業務の開始から完了までの期間(●年●か月(上限●年))
 Ⅱ 定年後引き続いて雇用されている期間

 

■参考リンク
厚生労働省「無期転換ルールについて

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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熱中症による死傷者が増加する中、労働安全衛生規則が改正され、2025年6月より新たな熱中症対策が企業に義務化されます。以下では、熱中症による死傷災害の状況と今回義務化される事項をとり上げます。

[1]熱中症による死傷災害の状況
 厚生労働省から2023年の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」が公表されています。これによると、2023年の職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は、1,106人と前年比で279人増えています。過去10年間の推移は下表のようになります。業種別では、全体の約4割が建設業と製造業で発生しています。※図はクリックで拡大されます。

 死傷者(死亡・休業4日以上)1,106人のうち、熱中症による死亡者数は31人で、建設業(12人)や警備業(6人)で多く発生しています。死亡災害の状況を分析すると、多くの事例で暑さ指数(WBGT)を把握せず、熱中症予防のための労働衛生教育を行っていませんでした。また、糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有している事例も見られました。

[2]6月から義務付けとなる事項
 このような状況をうけ、熱中症対策として、2025年6月より以下の2つの事項が義務付けられます。

  1. 報告体制の整備

     熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、「熱中症の自覚症状がある作業者」および「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知することが必要になります。
     この熱中症を生ずるおそれのある作業とは、WBGT28度または気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるものとされています。

  2. 措置内容・実施手順周知

     熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、(1)作業からの離脱、(2)身体の冷却、(3)必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること、(4)事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知が必要になります。

 厚生労働省では、職場における熱中症予防対策を徹底するため、労働災害防止団体などと連携し、5月から9月まで、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しています。厚生労働省のポータルサイト「職場における熱中症予防情報」では、動画コンテンツや事業主、安全・衛生管理担当者、現場作業者向けの資料などが公開されていますので、対策を行う際にぜひご活用ください。

■参考リンク
厚生労働省「職場における熱中症予防情報
厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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熱中症による死傷者が増加する中、労働安全衛生規則が改正され、2025年6月より新たな熱中症対策が企業に義務化されます。以下では、熱中症による死傷災害の状況と今回義務化される事項をとり上げます。

[1]熱中症による死傷災害の状況
 厚生労働省から2023年の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」が公表されています。これによると、2023年の職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は、1,106人と前年比で279人増えています。過去10年間の推移は下表のようになります。業種別では、全体の約4割が建設業と製造業で発生しています。※図はクリックで拡大されます。

 死傷者(死亡・休業4日以上)1,106人のうち、熱中症による死亡者数は31人で、建設業(12人)や警備業(6人)で多く発生しています。死亡災害の状況を分析すると、多くの事例で暑さ指数(WBGT)を把握せず、熱中症予防のための労働衛生教育を行っていませんでした。また、糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有している事例も見られました。

[2]6月から義務付けとなる事項
 このような状況をうけ、熱中症対策として、2025年6月より以下の2つの事項が義務付けられます。

  1. 報告体制の整備

     熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、「熱中症の自覚症状がある作業者」および「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知することが必要になります。
     この熱中症を生ずるおそれのある作業とは、WBGT28度または気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるものとされています。

  2. 措置内容・実施手順周知

     熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、(1)作業からの離脱、(2)身体の冷却、(3)必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること、(4)事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知が必要になります。

 厚生労働省では、職場における熱中症予防対策を徹底するため、労働災害防止団体などと連携し、5月から9月まで、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しています。厚生労働省のポータルサイト「職場における熱中症予防情報」では、動画コンテンツや事業主、安全・衛生管理担当者、現場作業者向けの資料などが公開されていますので、対策を行う際にぜひご活用ください。

■参考リンク
厚生労働省「職場における熱中症予防情報
厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)

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2025年4月4日に、〇〇payといったデジタル払いで受け取れる「賃金のデジタル払い(給与のデジタル払い)」が認められる資金移動業者として、4つ目の業者が厚生労働省の指定を受けました。これで、以前から厚生労働省に対し申請を行っていたすべての業者が指定を受けたことになります。これにより今後、賃金のデジタル払いの普及が予想されますので、その概要についてとり上げます。

[1]賃金のデジタル払いとは
 会社が従業員に支払う給与は「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と労働基準法で規定されています。その例外として、従業員から個別に同意を得て、従業員が指定する本人名義の預貯金口座や証券総合口座に振り込むことが認められています。
 2023年4月よりこれに加えて、会社が従業員の同意を得た場合に、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金の支払い(賃金のデジタル払い)が可能となりました。2025年4月4日時点で、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者は、PayPay株式会社(PayPay給与受取)、株式会社リクルートMUFGビジネス(COIN+(スタンダード))、楽天Edy株式会社(楽天ペイ給与受取)、auペイメント株式会社(au PAY 給与受取)の4社です。

[2]必要な手続き
 賃金のデジタル払いを行うためには、以下の6つの手続きがあります。

  1. 指定資金移動業者の確認
  2. 導入する指定資金移動業者のサービスの検討
  3. 労使協定の締結等
  4. 従業員への説明
  5. 従業員の個別の同意取得
  6. 賃金支払いの事務処理の確認・実施

 4.と5.については、賃金のデジタル払いを希望する従業員に対して、賃金のデジタル払いに関する必要事項を説明した上で、個別に同意を取ります。説明の際には、賃金の支払い方法に関する他の選択肢(現金、預貯金口座への振り込みまたは証券総合口座への払い込み)もあわせて提示することになっています。従業員の同意取得については、同意を得る際に、賃金のデジタル払いを行う口座に賃金を振り込むために必要な情報、受け取り希望額、指定代替口座等の情報も取得することになっています。

 厚生労働省はホームページ上の専用ページ「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」をリニューアルし、使用者、労働者、資金移動業者の3つに分けて、それぞれに向けた情報を発信しています。今後、賃金のデジタル払いを検討される際は、まずはこの専用ページを見てみるとよいでしょう。

■参考リンク
厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)における資金移動業者の指定

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賃金の支払いにあたっては、法令により様々なルールが定められており、それに沿った支払いが求められます。そこで今回は、割増賃金を計算するときに基礎となる賃金と、最低賃金の対象となる賃金の範囲について確認していきましょう。

[1]割増賃金
 割増賃金の基礎となる賃金から除外できるものとして、以下の7つが定められています。割増賃金を計算するにあたっては、この除外賃金以外の賃金を基礎となる賃金として含める必要があります。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

 また、1~5については、手当の名称ではなく、その内容によって割増賃金の基礎となる賃金から除外できるかを判断します。判断にあたっては厚生労働省が示している具体的な範囲を参考にするとよいでしょう。例えば住宅手当の場合、「住宅に要する費用に応じて算定される手当」は除外できるとし、除外できない例も含め、以下の具体例が示されています。

【除外できる例
 住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するもので、例えば、賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持家居住者にはローン月額の一定割合を支給する場合。
【除外できない例】
 住宅の形態ごとに一律で支給するもので、例えば賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給する場合。

[2]最低賃金
 最低賃金の対象となる賃金については、毎月支払われる基本的な賃金とされており、具体的には実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。

  1. 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  2. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  3. 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(所定外割増賃金など)
  4. 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
  5. 午後10時から午前5時までの労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
  6. 精勤手当、通勤手当および家族手当  

[3]間違えやすい手当
 間違えやすい手当の一つとして、精皆勤手当があります。精皆勤手当は、割増賃金計算においては対象となりますが、最低賃金のチェックにおいては除外することになります。

 割増賃金の計算方法を誤っていた、最低賃金を下回っていたということがないように、改めて各手当の取り扱いを確認し、問題があれば早急に是正しましょう。

■参考リンク
厚生労働省「割増賃金を計算する際の基礎とは?
厚生労働省「対象となる賃金は?

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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従業員が会社を退職し、収入が得られなくなったときに頼りにするものの一つが、雇用保険の基本手当です。基本手当は、退職理由や退職時の年齢、被保険者であった期間等により、受給できるまでの期間や受給できる額(所定給付日数)に違いが出てきます。以下では、受給できるまでの期間である給付制限期間について確認します。

[1]給付制限期間
 雇用保険の基本手当を受給にあたっては、退職理由に関わらず、受給資格が決定した日から7日間の「待期期間」が設けられています。その後、正当な理由がなく自己の都合により退職した人には、給付制限期間として、1~3ヶ月間の基本手当が支給されない期間が設定されます。
 この給付制限は、離職日が2020年10月1日以降の人について3ヶ月から2ヶ月に短縮されており、さらに、退職日が2025年4月1日以降の人については1ヶ月に短縮されました。ただし、退職日から遡って5年間のうちに2回以上、正当な理由なく自己の都合により都合退職し受給資格決定を受けた場合には、給付制限は3ヶ月となります。また、自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇(重責解雇)された場合にも、給付制限は3ヶ月間となります。

[2]教育訓練受講による解除
 2025年4月以降は、リ・スキリングのために教育訓練等を受けている場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できるようになりました。
 対象となる教育訓練等とは、2025年4月1日以降に受講を開始したものであり、教育訓練給付金の対象となる教育訓練や、公共職業訓練等の一定範囲内のものに限ります。退職日以後に教育訓練等を受ける場合には、受講開始日以降給付制限を受けないほか、退職前1年以内に教育訓練等を受けたことがある場合には、給付制限が解除され、待期期間満了後からすぐに基本手当の支給対象となります。なお、退職理由が重責解雇の場合は、この給付制限の解除の対象外となります。

[3]解除の手続き
 給付制限の解除のためには、受講開始以降、受給資格決定日や受給資格決定後の初回認定日(初回認定日以降に受講を開始した場合は、その受講開始日の直後の認定日)までに、ハローワークの窓口で申し出る必要があります。
 給付制限期間が2ヵ月以上で、初回認定日以降かつ給付制限期間中に教育訓練等の受講を開始する場合には、申し出の期限に注意が必要で、次のようになります。

  1. 受講開始日が「初回認定日」以降かつ「認定日の相当日」前の場合、受講開始日直後の「失業認定日に相当する日」までに申し出。
  2. 受講開始日が「認定日の相当日」以降かつ「給付制限期間満了後の失業認定日」前の場合、「給付制限期間満了後の失業認定日」までに申し出。

 申し出の際、訓練開始日が記載された領収書または訓練実施施設による訓練開始日の証明書といった添付書類の用意が必要になります。

 基本手当の受給については、従業員の退職後の対応になるため、本来であれば従業員自身で確認し、対応が必要なことにはなりますが、退職予定者からの質問も多い内容ですので、制度の概要は押さえておきたいものです。

■参考リンク
厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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文書作成日:2025/04/10

出張旅費規程を見直す際のポイント

従業員から、首都圏を中心にホテルの宿泊費が高騰しており、出張旅費規程で定められた宿泊費では手配することが難しいという相談を受けた。そこで、その対応について社労士に相談することにした。

 先日、従業員から、出張でビジネスホテルを手配する際、出張旅費規程で定められた宿泊費の範囲で手配することが難しく、上限内の交通の便の悪い場所にあるホテルか、上限との差額が持ち出しになるホテルかを手配しているという相談がありました。インバウンドの増加等の影響から、宿泊費が高騰している影響が出ているようです。

 そうですね。首都圏や観光地を中心に宿泊費の相場が高くなっており、宿泊費の見直しをする企業が増加しています。

 当社ではしばらく出張旅費規程を見直していなかったため、この機会に見直しをしたいと思っています。

 まず、宿泊費について、今月(2025年4月)から国家公務員の出張時に支給される宿泊費の上限が変更され、課長級以下の場合は、下表のようになりました。

表 課長級以下の都道府県別の上限金額

上限金額 都道府県
8,000円  福島、鳥取、山口
9,000円  岩手、石川、静岡、三重、島根
10,000円  宮城、山形、栃木、群馬、福井、岡山、徳島、愛媛
11,000円  青森、秋田、茨城、富山、長野、愛知、滋賀、奈良、和歌山、高知、佐賀、長崎、大分、沖縄
12,000円  山梨、兵庫、宮崎、鹿児島
13,000円  北海道、岐阜、大阪、広島
14,000円  熊本
15,000円   香川
16,000円   神奈川、新潟
17,000円   千葉
18,000円   福岡
19,000円   埼玉、東京、京都

 かなり細かく分かれており、最高額は19,000円なのですね。

 あくまで国家公務員の例になりますが、上限金額やエリアの設定などにおいて参考になると思います。

 そうですね。エリアについては、首都圏、大阪、それ以外の3つに分けていましたので、どうするかも含めて考えたいと思います。

 日当についても、どうしたらよいか、いつも悩んでいるところです。

 この点についてはなぜ日当を支払うのか、その目的を整理するが必要でしょう。

 日当を支払う目的ですか。例えば、出張に行った際の昼食代であったり、宿泊した場合の夕食代であったり、いろいろな費用がかかりその補填のためと考えています。

 この点、国家公務員の日当は、昼食代を除くものにして、宿泊を伴う場合のみに支給する宿泊手当に変更されました。宿泊手当は2,400円です。

 国家公務員についても、支給する目的を整理して検討し、金額の見直しを行ったということですね。主に出張の対象となる営業の部長も交えて、社内で検討したいと思います。

 議論の中で、困ったことが出てきましたら、ご相談ください。

>>次回に続く

 



 今回は、出張旅費規程をとり上げましたが、就業規則(本則)についても、法改正の対応だけでなく、定期的に見直しを行うことが望まれます。主なポイントは以下のとおりです。

  • 規定と実態が合っているか。合っていない場合は、合わせる。
  • 時流に合っているか。例えば服務規律に定めている内容は、昨今の社会情勢にあった内容になっているか。
  • 就業規則(正社員就業規則、パートタイム就業規則等)は、すべての従業員を網羅しているか。

■参考リンク
e-Gov「国家公務員等の旅費支給規程

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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