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多くの企業で、従業員がメンタルヘルス疾患を発症し、欠勤や休職をするケースが増加しています。その中には、仕事による強いストレスがその原因となっている事例もあるようです。2024年6月に発表された厚生労働省の資料によると、精神障害を理由とした労災の請求件数、そして支給決定件数が大幅に増加しています。そこで以下では発表された資料の内容を確認した上で、企業に求められる対策について見ていきます。

[1]精神障害の労災補償状況
 精神障害の労災補償状況は図のとおりとなっています。2023年度の請求件数は3,575件で、前年度の2,683件から892件の大幅増加となりました。請求件数は過去最多となり、今回、3,000件を初めて超えています。
 また、支給決定件数については883件となり、前年の710件から173件の増加となり、こちらも過去最多となっています。そして、支給決定件数の中で、多い業種(中分類)の上位4つをみてみると、社会保険・社会福祉・介護事業112件、医療業105件、総合工事業57件、道路貨物運送業56件で、医療・福祉の業種で多いことが分かります。認定率については34.2%で、申請の3件に1件の割合で労災として認定されています。
※図はクリックで拡大されます。

[2]具体的な出来事
 支給の決定は、その傷病に繋がる具体的な出来事があったかを確認して判断されますが、支給決定の内容を具体的な出来事別に分類すると、その上位は以下の通りとなっています。

  1. 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた(157件)
  2. 業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした(111件)
  3. セクシュアルハラスメントを受けた(103件)
  4. 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった(100件)
  5. 特別な事情(71件)
  6. 同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた(59件)

 支給決定件数(883件)のうち、上司等からのパワーハラスメント(157件)がトップとなっています。近年は多くの企業でパワーハラスメント防止対策が進められていますが、この問題はまだまだ解決には至っていません。定期的に研修を開催したり、管理職同士で注意しあえる関係を作ったりするなど、継続的な防止対策が求められます。

■参考リンク
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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昨年12月25日に閣議決定された「こども未来戦略」では、共働き・共育ての推進として、「男性育休の取得促進」、「育児期を通じた柔軟な働き方の推進」および「多様な働き方と子育ての両立支援」の3つの方針が掲げられました。そこで今回は、これらの具体的な対応策として、2025年4月1日から始まる雇用保険の給付金をとり上げます。

[1]出生後休業支援給付金の創設
 育児休業を取得すると、従業員(雇用保険の被保険者)は所得の補てんとして育児休業給付を受け取ることができますが、育児休業を取得せずに給与を受け取ることと比較し、手取額が低くなります。このように手取額が低くなることが、男性の育児休業の取得が進まない理由の一つと言われています。
 その解消を目的として、子どもの出生直後の一定期間以内に、両親ともに14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額が「出生後休業支援給付金」として支給されることになります。この給付金に、出生時育児休業給付金または育児休業給付金をあわせると、給付率が80%となり、手取りとしては10割相当が支給される仕組みとなっています。なお、一定期間とは、男性が子どもの出生後8週間以内、女性が産後休業後8週間以内です。
 従業員の中には、配偶者が専業主婦(夫)であったり、ひとり親として育児をしていたりすることもあるため、配偶者が育児休業を取得していない場合であっても、出生後休業支援給付金が支給されます。

[2]育児時短就業給付金の創設
 育児休業中の支援の他に、2歳未満の子どもを養育するために、時短勤務をすることで給与額が下がる場合、時短勤務中に支払われた賃金額の10%を上限に「育児時短就業給付金」が支給されることになります。
 この給付金は、単に時短勤務を推奨するものではなく、育児休業よりも時短勤務を、さらには時短勤務よりも従前の所定労働時間で勤務することを推進する目的で創設されており、これを前提に10%という給付率が決められています。なお、時短後に支給される賃金と給付金の合計額が時短前の賃金を超えないように給付率を調整する仕組みです。

 出生後休業支援給付金の創設により、出生後育児休業(産後8週間以内に4週間を上限として2回に分けて取得できる休業)の申出の増加が予想されます。また、これまで育児の時短勤務は女性従業員の利用が中心でしたが、今後は男性従業員の活用が増えてくることも予想されます。今後の申請方法や、それに沿った社内の手続きの流れを確認していく必要があります。

■参考リンク
厚生労働省「令和6年雇用保険制度の改正内容について(子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律)
こども家庭庁「こども未来戦略(リーフレット等)

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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文書作成日:2024/07/11

最近注目が高まるカスタマーハラスメント対策

最近、カスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」という)という言葉をよく耳にするようになっており、会社として対応が必要なことについて、社労士に相談することにした。

 最近、マスコミの報道でカスハラという言葉を耳にすることが増えてきました。会社としてなにか対応が必要なのでしょうか?

 法令では、セクシュアルハラスメント対策、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策、パワーハラスメント対策を行うことが義務付けられています。顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスハラ)については法令での義務付けはありませんが、カスハラを受けたという事案が増加している状況から、企業が対策を立てたり、東京都ではカスハラ防止条例を制定するような動きがあります。

 そのような動きがあるのですね。

 はい、急速に対策が進められています。今年5月、厚生労働省が令和5年度に行った「職場のハラスメントに関する実態調査」の報告書が公表されました。この報告書をみてみると、過去3年間に勤務先でカスハラを一度以上経験した割合は27.9%でした。各ハラスメントの相談件数の推移を見てみると、カスハラだけが「件数が増加している」の割合が「件数は減少している」より高く、それ以外(セクシュアルハラスメント・パワーハラスメント・就活等セクハラ)では「件数が減少している」の割合が「増加している」より高くなっていました。

 カスハラの事案は増加傾向にあることから、会社としても対策が求められているということですね。

 この機会に、厚生労働省から発行されているリーフレット「カスタマーハラスメント対策に取り組みましょう!」を見てみましょう。ここでは、以下のようなものをカスハラであるとしています。

「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

 内容は理解できますが、個別の事案でカスハラに該当するかどうかの判断は難しいと感じますね。

 おっしゃるとおり、顧客等からのクレームが業務改善や新たな商品・サービス開発につながることもありますので、判断が難しいですね。リーフレットの中で「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例としては、企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合、要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合が挙げられています。また、「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例としては、身体的な攻撃(暴行、傷害)、精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)、土下座の要求などが挙げられています。

 当社ではいままでカスハラの問題はありませんでしたが、会社の考え方を示したり、発生したときの対応方針を決め、従業員にその内容を教育しておくことが重要ですね。

 そうですね。カスハラを想定した事前の準備としては、以下の4つが挙げられています。

1.事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
2.従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
3.対応方法、手順の策定
4.社内対応ルールの従業員等への教育・研修

 その上で、カスハラが起こった際の対応としては以下の対応が示されています。

5.事実関係の正確な確認と事案への対応
6.従業員への配慮の措置
7.再発防止のための取組
8.1~7までの措置と併せて講ずべき措置(相談者のプライバシー保護のための必要な措置と従業員への周知、相談したこと等を理由として不利益取扱いを行ってはならない旨の定めと従業員への周知)

 なるほど。社内で考えてみたいと思います。

 会社の基本方針をホームページ等で公開しているような事例も出てきていますので、参考事例としてチェックしてもよいですね。また質問など出てきましたら、ご連絡ください。

>>次回に続く

 



 政府が2024年6月21日に策定した「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)の中で、カスハラを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れて、対策を強化することが示されました。今後の動きを注視しておきましょう。

■参考リンク
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策に取り組みましょう!
厚生労働省「「職場のハラスメントに関する実態調査」の報告書を公表します
内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2024

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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2023年の職場における熱中症の発生状況を見ると、4日以上休業した死傷者数は1,106人、そのうち死亡者数は31人となり、前年を上回る結果となりました。厚生労働省の「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」(以下、「キャンペーン」という)も7月1日から7月31日までを重点取組期間としており、今夏についても積極的に熱中症の予防対策が求められます。

[1]熱中症の定義
 熱中症とは、高温多湿な環境下において、体内の水分と塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻するなどしたりして発症する障害の総称で、めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感、意識障害・痙攣・手足の運動障害、高体温などの症状が現れるとことです。それぞれの症状によって、熱失神、熱けいれん、熱疲労および熱射病といった病名がつけられています。

[2]実施期間の取り組み
 キャンペーンの実施期間は5月1日から9月30日までとされていますが、この期間、以下の3点について重点的な対策の徹底が求められています。

  1. 暑さ指数(WBGT)の把握とその値に応じた熱中症予防対策を実施すること
  2. 作業を管理する人および労働者に対してあらかじめ労働衛生教育を行うこと
  3. 糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有する人に対して、医師等の意見を踏まえた配慮を行うことなど

[3]重点取組期間の取り組み
 7月1日から7月31日までの重点取組期間中においては、実施すべき事項として、以下の内容が挙げられています。これらの項目を確実に実施しましょう。

  • 暑さ指数の低減効果を再確認し、必要に応じ対策を追加
  • 暑さ指数に応じた作業の中断等を徹底
  • 水分、塩分を積極的に取らせ、その確認を徹底
  • 作業開始前の健康状態の確認を徹底、巡視頻度を増加
  • 熱中症のリスクが高まっていることを含め教育を実施
  • 体調不良の人に異常を認めたときは、躊躇することなく救急隊を要請

 参考リンクにある厚生労働省「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報」では、「働く人の今すぐ使える熱中症ガイト」が公開され、予防法として3つの注意点や暑熱順化などの情報が掲載されています。これらの内容も活用しながら、予防対策を徹底していきましょう。

■参考リンク
厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)
厚生労働省「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報

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7月1日から7日までは全国安全週間とされており、厚生労働省・都道府県労働局から各事業場に対して、積極的な労働災害防止活動の実施が働きかけられることになっています。これに関連して、先日、厚生労働省より昨年(令和5年)の労働災害発生状況が公表されました。以下では、労働災害による死傷者数と厚生労働省の取組みについてとり上げます。

[1]労働災害による死傷者数
 2023年1月から12月までの労働災害(新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く)による休業4日以上の死傷者数(以下、「死傷者数」という)は135,371人で、前年より3,016人の増加となり、3年連続で増加となりました。
 業種別でみてみると、製造業の27,194人(対前年比500人増)が一番多く、小売業を含む商業が21,673人(同29人減)、社会福祉施設を含む保健衛生業が18,786人(同1,549人増)、陸上貨物運送事業が16,215人(同365人減)と続いています。
 業種別に事故の型別をみると、製造業では機械等による「はさまれ・巻き込まれ」が最多で、「動作の反動・無理な動作」が続いています。小売業では「転倒」が最も多く、「動作の反動・無理な動作」「墜落・転倒」が続いています。社会福祉施設では「動作の反動・無理な動作」が最も多く、「転倒」が続いています。

[2]厚生労働省の取組
 労働災害による死傷者数における状況を受け、厚生労働省では、小売業、社会福祉施設で多発している「転倒」や「動作の反動・無理な動作」等の減少を図るため、第14次労働災害防止計画に基づき、「労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策」として、以下の事項を中心に取り組むとしています。

  • 中高年齢の女性労働者に多い転倒災害の発生状況の周知を行うとともに、転倒災害防止のための基本的事項(チェックリスト)の周知指導を行う。
  • エイジフレンドリー補助金等により、転倒災害防止等に資する装備や設備の導入のほか、理学療法士や健康運動指導士等の専門家による労働者の身体機能の維持改善のため取組みの支援を行う。
  • アプリ、動画等を活用した効率的・効果的な安全衛生教育(転倒防止教育を含む)の手法の普及啓発を行う。
  • 事業者による自発的な転倒災害防止対策の取組みの促進のため、転倒災害等による損失額の「見える化」及びその周知啓発を進めるほか、ナッジによる転倒災害防止対策等の行動経済学的アプローチについて引き続き研究を進める。

 労働災害を防止するためには、各事業場の安全衛生管理体制を確認し、不十分な場合は早めに整えていくことが求められます。また、安全作業マニュアルの整備・見直しを実施し、労働災害の防止につなげていきましょう。

■参考リンク
厚生労働省「令和5年の労働災害発生状況を公表
厚生労働省「令和6年度「全国安全週間」を7月に実施

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多くの会社では、年次有給休暇のほかにも従業員に慶弔が生じた際などに休暇を与える「特別休暇」を設けています。特別休暇は任意の制度であることから、安定的な運用を行うには、細かな取扱いのルールを決めておくことが重要です。以下では、その取扱いルールを規定する上でのポイントと最近注目を浴びる孫休暇をとり上げます。

[1]特別休暇の種類
 厚生労働省作成のパンフレット「特別休暇制度導入事例集2023」では、特別休暇を以下の3つに分けています。

  1. 年次有給休暇の取得促進に資する特別休暇
     例:病気休暇(有給)
  2. 予測できない事情に備えた特別休暇
     例:裁判員休暇・犯罪被害者等の被害回復のための休暇・災害休暇
  3. 従業員の多様な活動を支援する特別休暇
     例:ボランティア休暇・ドナー休暇・自己啓発休暇

[2]特別休暇を設ける際のポイント
 休暇は就業規則への必要記載事項になることから、特別休暇を設ける場合、就業規則等へ規定する必要があります。その際に検討するポイントとして、以下の項目が挙げられます。

  1. 特別休暇を取得できる従業員の範囲
     特別休暇はその趣旨に基づき、対象者を決定することが必要です。例えば、勤続1年以上の従業員や試用期間満了後の従業員など、対象者を限定することが可能です。
  2. 特別休暇の対象となる事由と休暇日数
     従業員の結婚や配偶者の出産、身内の不幸など、特別休暇の対象とする事由(取得目的)は様々です。会社において特別休暇を設ける事由や、そのときの休暇日数を検討します。
  3. 特別休暇取得時の賃金の取扱い
     年次有給休暇を取得したときには、その名称の通り、有給休暇として「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」等の支払いが会社に求められます。一方で、特別休暇を取得したときの賃金の取扱いについては、会社が自由に定めることができます。一般的に慶弔に関する特別休暇は、祝福やお悔やみの意味から有給とする会社が多いことを前提に取扱いを検討するとよいでしょう。

[3]注目を浴びる孫休暇
 最近、自治体等で、孫休暇を設ける動きが見られます。これは、祖父母である従業員が孫の世話や看病のために取得できる休暇です。子育て世代を支援し、子育てを社会全体で行う機運を醸成する目的として、創設を検討する動きが見られます。
 育児・介護休業法では規定されていない休暇であるものの、育児の支援策の一環として創設が期待される休暇でもあります。

 特別休暇の運用において、複数日取得できる休暇を分割して取得する申出があったり、事由が発生した日から相当程度の期間をおいて取得する申出があったりと、会社が対応に困ったというケースもあるでしょう。この機会に、過去の事例を振り返り、規定を見直してもよいかもしれません。

■参考リンク
働き方・休み方改善ポータルサイト「特別な休暇制度-資料

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2024年の通常国会で改正育児・介護休業法が成立し、同年5月31日に公布されました。2025年4月1日から段階的に施行されるため、その概要を確認しましょう。

[1]子どもの年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充

  1. 柔軟な働き方を実現するための措置等(公布後1年6ヶ月以内の政令で定める日に施行)
     3歳から小学校就学前の子どもを養育する従業員について、始業時刻等の変更、テレワーク等、保育施設の設置運営等、新たな休暇の付与および短時間勤務制度の5つの選択肢の中から、会社が2つ以上の制度を選択して導入し、従業員はその中から1つを利用できるようすることが義務づけられます。
  2. 残業免除の対象者の拡大(2025年4月1日施行)
     現行、3歳に満たない子どもを養育する従業員は、請求することで所定外労働の制限(残業免除)の制度を利用できますが、この制度の対象となる従業員の範囲が、小学校就学前の子を養育する従業員にまで拡大されます。
  3. 子の看護休暇の見直し(2025年4月1日施行)
     現行の「子の看護休暇」は、子どもの病気やけが、予防接種・健康診断の際に取得できるものですが、これらの取得事由の他に、感染症に伴う学級閉鎖等や入園(入学)式、卒園式が追加されます。これに合わせて休暇の名称も「子の看護等休暇」に変更となります。
     また、対象となる子どもの範囲が、現行の小学校就学の始期に達するまでから、小学校3年生修了までに延長されます。さらに、労使協定の締結により除外できる従業員について「引き続き雇用された期間が6ヶ月未満」という要件が廃止されます。
  4. 個別の意向聴取・配慮の義務化(公布後1年6ヶ月以内の政令で定める日に施行)
     妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、従業員の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が会社の義務となります。

[2]育児休業の取得状況の公表義務の拡大(2025年4月1日施行)
 現行、従業員数1,000人超の企業に公表が義務づけられている育児休業取得状況の公表について、従業員数300人超の企業に拡大されます。

[3]介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等(2025年4月1日施行)

  1. 個別周知・意向確認の措置、情報提供の義務化
     介護に直面した旨の申出をした従業員に対し、介護両立支援制度等について個別の周知・意向確認を実施することが会社に義務づけられます。また、会社は、介護に直面する前の早い段階(40歳等)の従業員に対して、介護両立支援制度等に関する情報提供を行うことが必要になります。
  2. 雇用環境の整備の義務化
     仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備として、介護休業に係る研修の実施や介護休業に係る相談窓口設置等の複数ある制度の中から1つ以上を選択して実施することが会社の義務となります。
  3. 介護休暇の対象者の変更
     労使協定の締結により除外できる従業員について「引き続き雇用された期間が6ヶ月未満」が廃止されます。この廃止の内容は子の看護休暇と同様のものです。

 このほかにも、3歳に満たない子どもを養育する従業員や、要介護状態の対象家族を介護する従業員がテレワークを選択できるような制度とすることが会社の努力義務となります。詳細は政省令の公布を待って、今後、厚生労働省から周知されると思われます。

■参考リンク
厚生労働省「育児・介護休業法について

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現在、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上引き続き雇用されることが見込まれる従業員については、雇用保険の被保険者となります。2024年の通常国会で改正雇用保険法が成立し、この被保険者となる従業員の範囲が拡大することになりました。施行日は2028年10月1日とまだ先ですが、どのように変わるのかを確認しておきましょう。

[1]雇用保険の適用拡大
 雇用保険の被保険者でなければ、基本手当(いわゆる失業手当)や、育児休業取得時の育児休業給付等は受給できません。働き方や生計維持のあり方の多様化が進展している中で、週の所定労働時間が短い労働者が増えています。そのような背景から、雇用保険の被保険者の範囲を拡大する必要があると判断され、「1週間の所定労働時間が20時間以上」という要件が「1週間の所定労働時間が10時間以上」に変更されることになりました。

[2]被保険者期間の算定基準
 基本手当を受給するには、退職日前2年間に、雇用保険の被保険者であった期間が12ヶ月以上(倒産・解雇等の理由により退職した場合は退職日前1年間に6ヶ月以上)必要になります。ここでの「1ヶ月」とは、賃金の支払の基礎となった日数が11日以上ある月または賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上である月を指します。
 適用拡大に伴い、被保険者の賃金の支払の基礎となった日数が6日以上ある月または賃金の支払の基礎となった時間数が40時間以上である月を「1ヶ月」とすることに変わります。

[3]給付制限の見直し
 現在は、自己都合で退職した者が基本手当を受給しようとすると、原則として2ヶ月間の給付制限期間(基本手当が支給されない期間)が設けられています。
 今回の改正で、退職した後や、退職日前1年以内に、一定の教育訓練を受講した場合には、この給付制限が解除されることになりました。また、2ヶ月間の給付制限期間を1ヶ月に短縮する通達改正が行われる予定です。なお、現状、5年間で3回以上、自己都合で離職した場合には給付制限期間が3ヶ月となりますが、この点は改正されない予定です。
 この給付制限の見直しは、適用拡大に先立ち、2025年4月1日に施行されます。

 今回の適用拡大により、被保険者となる従業員が増えることで、雇用保険料の会社負担の増加、そして、各種手続き数の増加による事務負担が生じます。適用拡大が施行されるまでにはまだ時間がありますが、特に短時間のパートタイマー・アルバイトが多い企業では、施行後の影響を事前に確認しておきましょう。

■参考リンク
厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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文書作成日:2024/06/13

 

坂本工業は従業員数40名以上のため、6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があり、7月15日までに提出することになっている。そこで、報告に当たって障害者の把握・確認するときにどのような確認方法を採ればよいか、社労士に相談することにした。

 障害者雇用状況報告を7月15日までに提出する必要があるので、そろそろ書類の作成にとりかかろうと思っています。従業員の中から、障害者を把握・確認する際には、当然、プライバシーに配慮する必要があるかとは思いますが、具体的にどのようなことに注意すべきなのでしょうか。

 ご質問については、厚生労働省から「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」が出ていますので、この内容を解説しましょう。障害者を把握・確認する方法としては、原則として雇用している従業員全員に対して申告を呼びかけることとされており、例外的に個人を特定して照会を行うことができる場合が定められています。

 原則、従業員全員に向けて呼びかけることが必要なのですね。具体的にはどのような方法があるのでしょうか?

 メールや書類の配布など、画一的な手段で従業員からの申告を呼びかけることになります。適切な事例としては、例えば以下のものがあります。

  • 従業員全員が社内LANを使用できる環境を整備し、社内LANの掲示板に掲載する、または従業員全員に対して一斉にメールを配信する。
  • 従業員全員に対して、チラシ、社内報等を配布する。
  • 従業員全員に対する回覧板に記載する。

 不適切な事例としては、休憩室にのみチラシを置いておくことや障害者と思われる従業員のいる部署に対してのみチラシを配布すること等があります。

 なるほど。意図せず偏った呼びかけにならないように注意が必要ですね。

 そのほか、例外はあるのですが、会社が他の目的で入手した情報を根拠に照会を行うことも不適切になります。例えば、所得税の障害者控除を行うために提出された書類を根拠にしたり、病欠・休職の際に提出された医師の診断書を根拠にしたりすることです。

 会社としては、会社に報告した情報として扱ってしまいそうですが、やはり問題なのですね。

 そうですね。さて、申告を呼びかけるに話を戻すと、呼びかけの際に明示する事項として以下の8つがあります。

  1. 業務命令として、この呼びかけに対する回答を求めているものではないこと
  2. 障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金または報奨金の申請のために用いるという利用目的
  3. 2の報告等に必要な個人情報の内容
  4. 取得した個人情報は、原則として毎年度利用するものであること
  5. 利用目的の達成に必要な範囲内で、障害等級の変更や精神障害者保健福祉手帳の有効期限等について確認を行う場合があること
  6. 障害者手帳を返却した場合や、障害等級の変更があった場合は、その旨会社に申し出てほしいこと
  7. 特例子会社又は関係会社の場合、取得した情報を親事業主に提供すること
  8. 障害者本人に対する公的支援策や企業の支援策についても、あわせて伝えることが望ましい

 1の「業務命令として、この呼びかけに対する回答を求めているものではないこと」はどのような意味ですか?

 業務命令となると、呼びかけに必ず対応しなければならないと感じる従業員も出てくるかと思います。自らの障害に関する情報が、障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金または報奨金の申請のために用いるという利用目的に同意する場合だけ、呼びかけに対して回答すればよいということを、しっかりと伝える必要があります。

 従業員が知られたくない障害の情報を、会社が強制して出させることはできないということですね。

 そうですね。4について補足すると、障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金・報奨金の申請は、毎年度1回行うことから、把握・確認した情報を毎年度用いることを、あらかじめ本人の同意を得ておくと、個人情報の利用について確認作業の負担が減ります。注意点として、精神障害者保健福祉手帳の場合は、有効期限が2年間となっていますので、更新されたか否かの確認が必要です。

 なるほど。情報に変更がないか確認し、会社側で把握している情報を更新しておく必要があるということですね。

 この把握している情報の更新については、必要最小限に行うことが求められています。例えば、さきほどの精神障害者保健福祉手帳については、前回確認した有効期限を過ぎた最初の障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金・報奨金の申請のいずれかを行う際に、手帳の更新の有無や更新後の手帳の有効期限について確認を行うこととされています。

 障害者の把握・確認、そして情報の更新の際には、注意すべき点がたくさんありますね。また分からないことが出てきましたら、質問したいと思います。

>>次回に続く

 



 ここでは、上記の障害者を把握・確認する方法としてとり上げた、例外的に個人を特定して照会を行うことができる場合について補足しましょう。これは、障害者である従業員本人が、職場において障害者の雇用を支援するための公的制度や社内制度の活用を求めて、会社に対し自発的に提供した情報を根拠とする場合は、その個人を特定して障害者手帳等の所持を照会することができるとしているものです。参考リンクにあるリーフレット「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要」に、個人を特定して照会を行う根拠として適切な例や照会を行う際の注意点等もとり上げられています。併せて確認しておくとよいでしょう。

■参考リンク
厚生労働省「事業主の方へ
厚生労働省「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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今年は歴史に残る賃上げの春となりました。中小企業では、賃上げの原資となる業績の改善が見られない中でも、人材の確保・採用、物価上昇への対応などから賃上げを実施したところもあれば、今後、賃上げを検討しているところもあるでしょう。賃上げを行う企業に対しては、いくつかの公的支援が設けられていることから、今回はその内容をとり上げます。

[1]業務改善助成金
 業務改善助成金とは、事業場内で最も低い賃金を30円以上引き上げ、設備投資等を行った中小企業・小規模事業者等に、設備投資等の費用の一部を助成する制度です。
 本制度は、事業場内の最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内の事業場が対象となります。例えば地域別最低賃金が950円で、事業場内の最低賃金が985円の場合、差額が50円以内であることから対象となります。
 賃金引上げの際の注意点としては、地域別最低賃金の発効に対応して事業場内の最低賃金を引き上げる場合、発効日の前日までに引き上げる必要があります。また、今年度より、複数回に分けての事業場内の最低賃金引上げが認められなくなり、同一事業場の申請は年1回までとなりました。
 費用の助成率は、下表のとおりです。なお、引き上げる労働者の数と引上げ額の区分に応じて、助成上限額が設けられています。

表 費用の助成率

事業場内最低賃金 助成率
900円未満 9/10
900円以上950円未満 4/5(9/10)
950円以上 3/4(4/5)

※( )は生産性要件を満たした事業場の場合

[2]キャリアアップ助成金
 キャリアアップ助成金に設けられている「賃金規定等改定コース」は、有期雇用労働者等の基本給を定める賃金規定等を3%以上増額する形で改定し、その規定を適用させた場合に助成されるものです。要件としては、以下のすべてに当てはまる必要があります。

  1. キャリアアップ計画の作成・提出
    賃金規定等を増額改定する前日までにキャリアアップ計画を作成し、都道府県労働局へ提出していること。
  2. 賃金規定等の適用
    有期雇用労働者等の基本給を賃金規定等に定めていること。
  3. 賃金アップ
    2.の賃金規定等を3%以上増額改定し、改定後の規定に基づき6ヶ月分の賃金を支給していること。

 3%以上5%未満増額改定した場合に、1人当たり5万円(大企業3.3万円)、5%以上増額改定した場合に6.5万円(大企業4.3万円)が助成されます。なお、1年度1事業所あたりの支給申請上限人数は100人までです。

[3]事業再構築補助金
 事業再構築補助金には、成長分野進出枠(通常類型)、成長分野進出枠(GX進出類型)、コロナ回復加速化枠(通常類型)、コロナ回復加速化枠(最低賃金類型)、サプライチェーン強靱化枠の5つがあります。この中で、短期的に大規模な賃上げを行う場合に補助率が引き上げられているものや、継続的な賃金引上げと従業員の増加に取り組む場合に補助上限の上乗せが設けられているものがあります。
 なお、この補助金は、期間を区切って公募されているため、最新情報を確認ください。

 上記の他、賃上げ促進税制という、中小企業の場合、全雇用者の給与等支給額の増加額の最大45%、大・中堅企業の場合、全雇用者の給与等支給額の増加額の最大35%を税額控除するものがあります。活用を検討される場合は、参考リンク先より詳細をご確認ください。

■参考リンク
厚生労働省「業務改善助成金
厚生労働省「キャリアアップ助成金
経済産業省「事業再構築補助金
経済産業省「賃上げ促進税制

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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