助成金、不正の「構造」 | 新労社 おりおりの記

助成金、不正の「構造」

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雇用関係助成金はどんな理由で申請するでしょうか?現実にはやっぱり「現金が得られる」というところから入るようです。かつては(今もあるが)以下のような助成金キャッチフレーズもありました。

 

・払った雇用保険を取り返そう!

・助成金で取り返す就業規則作成料。

・〇〇〇を買えば、助成金出まっせ―

 

確かに助成金の原資は、ほとんど雇用保険から出るものだし、就業規則の改定で、また設備投資で出る助成金もあります。しかし、このフレーズ、助成金の不正を招くモトになるのです。なぜでしょうか?

 

・おカネを得るために一生懸命頑張るから

 

なのです。もう助成金というよりおカネを得るためなら、お上の言うことなら何でも聞こう、はイイのですが、おカネを得るために本来あった書類やデータまで何でもしよう、というところに問題があるのです。不正は個人、組織の心理的には以下の通りですが、構造的にはおカネにとらわれるから不正が起こるのです。

 

なぜ助成金の不正をやるのか

 

「労務は心理学」と言いますが、構造的にとらえることも良いようです。労務管理には、仕事や人間そのものへの理解のほかに、概念(コンセプチャル・スキル:その管理すべき仕事の方向性を正しく構築する能力)への理解も要求されるからです。

 

先日社労士が助成金不正で懲役実刑判決を受けるニュースがありました。ちょっとしたテレビ番組になってました。身内の恥をさらすようで気がひけるのですが、この事件「おカネを得るために一生懸命頑張るから」という方向性のために起きた事件なのです。件数が多かったから起訴されたのですが、そのやり方が当局を激怒させたのです。

 

 

その社労士の扱ったキャリアアップ助成金は、こりゃ出ないよ、という要件があります。例えば正規非正規のお給料が3%上がっていなければ、いくら非正規社員を正社員に上げても助成金は出ません。それが「上がったことにする」というものです。具体的にはお給料が上がってもいないのに、3%上がった賃金台帳を偽造する、助成金の不正の中では特に悪質と判断される2重帳簿というヤツです。

 

ただこういうことは周囲のヒトの当局への申告以外にも、他の書類を調べれば意外にバレるものなのです。税務署に出す総勘定元帳や税務書類の他に、経産省など他の補助金、派遣の報告書などの意外な分野の申請書などを調べる場合もあります。

 

そこで各制度で共通する人件費の額や割合など、データを比べれば「ここでこれだけ人件費を遣うのはおかしいぞ」などとウソがあぶりだされるのです。あらゆる方面に矛盾なきようにウソをつき続けるというのはできることではありません。当局が助成金の要件について複数の証拠書類を求め、その矛盾を追求するのはそのためです。

 

 

昨今の自動車業界の不正も構造的に同じです。自動車の安全性そのものより、国の基準に何とか合わせようということが先に立っているのです。真のデータよりもウソのデータで基準を満たそうというのは「型式指定」という国の指定が早く欲しいばかりに、やったということです。本来は国の基準に合わせるのではなく、どうすれば安全な自動車になるのか?ユーザーのことを考えて開発すると、いつの間にか国の基準を満たしていた、というのが望ましい状態です。

 

 

おカネおカネという意識にならないためには、助成金の趣旨を理解することです。単なるおカネのバラマキをするために作られた雇用関係の助成金はありません(結果としてバラマキになってしまった例はあっても)大雑把に言えば、従業員に対する福利につながる制度作りです。つまり経営者の思いやりにごほうびが与えられるというスタンスで、なおかつ政府や地方公共団体の政策意図に合えば、助成金が出るということを理解する必要があります。

 

助成金への心構えー社労士と企業

 

助成金の小さな引っ掛け改正、厳格化改正、緩和改正など、なぜやるのか?すべて政策のためです。助成金を使うヒトがいい気にならないように、幸せになるように計らう当局の考えなのです。

 

賃上げの風潮になったから助成金に加算するとか、それがないと助成金が出ない要件にしてしまうとか、若者の雇用難が緩和されたから、その優遇をやめようとか、高齢者の雇用継続がムツカシイなら出向でも助成金あげようとか、当局もあの手この手で税金を投じる“効果の期待できる”政策の実現に知恵を絞っているのです。

 

その知恵の絞り具合はしばしば、当局の窓口で、問い合わせの電話で、途方もない嫌がらせ、人民いじめに聞こえることがあります。ただ問い合わせに冷然と答える彼らもオッサンをボコボコにして喜ぼうというほどヒマではなく、政策を遠回しに語っているだけなのです。

 

現在は定額減税が、事務が増えると税理士社労士に評判が悪いのです。ただなぜ事務が厭われるかは、政治的な理由(政権の人気取り)以外に、最善のおカネのバラマキ方(助成金や税務処理)に当局が知恵を絞って頑張った結果ともいえるかと思います。だから私自身は事務が増えて睡眠時間が減っても、当局やキッシー首相を非難する気にはならないのです。

 

助成金のイジワルな要件や、税務上の事務手続きがないバラマキならば、社労士も省庁も不要でしょう。キッシー首相が市区町村に直接おカネを送って、戸籍台帳に基づいて配らせればいいのです。ただそんなことをしても、真に世の中がよくなる方向に貢献しないでしょ、真に必要なヒトに恩恵がいきわたらないでしょ、ということです。

 

助成金のイジワル要件も、定額減税の事務も要は政策なんですね。そう考えるとそれを裏手に取る助成金不正は、ラクをしたいがための当局の政治構造そのものに対する挑戦、要はテロリズム(暴力による脅迫)と言えなくもないのです。