古今東西警察列伝 | 新労社 おりおりの記

古今東西警察列伝

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警察というと、国家の法を守る治安を守るため、軍隊と並んでヒトの拘束を行える現場機関です。歴史上種類としては・・・

 

◆保安や交通安全の「お巡りさん」や私服含む司法警察(犯人を捕まえる警察)

◆労働基準監督官やJRの車掌など、警察権を持つ行政警察(犯人を作らせない警察)

◆さらに大っぴらにはできない当局の弾圧のための秘密警察(犯人を勝手に作っていい警察)

◆法的バックアップのない人々がヒトの自由を束縛する私刑警察(犯人を無法にでっちあげる警察)

 

があります。それ以外現在過去、世界でどんな警察があったでしょうか?思いつくまま挙げてみました。

 

👮 警察庁と警視庁

 

今の日本の警察のシステムは、第2次大戦後の一連の改革でできたものです。それまでの大日本帝国は内務省のもと、もっと中央集権的でした。日本の警官は検事の下、行政的には内閣府の外局たる国家公安委員会(大臣がいる)の「特別の機関」として、警察庁があります。さらにその下に各都道府県警察があって、「東京都警察」だけは国の首都を守る、という意義から警視庁というのです。以前は大阪にも警視庁がありましたけどね。

 

警視庁は警視総監がトップで、他の道府県県警は警察本部長といいます。特に「政治的中立性」を強調し、検察庁の検事総長とも協力関係ということで上下はないことになっています。しかし防衛庁が省になったように、警察も省になりたいようです。

 

👮 ギリシャ・ローマの警察

 

古代社会の市民と奴隷という身分制度の中では、泥棒殺人強盗などの身分内の犯罪は内々に処断していたのです。それより市民にとっては奴隷の反乱が一番怖かったのです。そのために作られた「秘密警察」が警察の嚆矢です。スパルタの警察など、昼間は寝ていて夜中に出動し、出くわした奴隷を片っ端から打ち殺す、なんてことをやっていたようです。当時は警察というのは夜警で、お昼は居ないものだったのです。

 

ギリシャ人やローマ人ではなく、他の被征服民族が警察官をやっていたというところも注目すべきところです。

 

👮 検非違使(平安時代)

 

平安時代できた日本初の大々的な警察組織。桓武天皇の下法制化されました。奈良時代は司法を担当する刑部省、警察を担当していた弾正台、今の警視庁に当たる京職などがありましたが、検非違使はそれらを超えて大きな権力を持ちました。 平安時代末期になると院政の軍事組織である北面の武士に取って代わられ、更に鎌倉幕府が六波羅探題を設置すると次第に弱体化し、室町時代には幕府が京都に置かれ、侍所に権限を譲り渡しました。しかし一応明治維新まで組織は残り、別当(長官)もいました。捕縛や拷問を担当する警察官は放免といい、元罪人が当たるものでした。

 

👮 六波羅殿のかぶろ(平安末期)

 

六波羅殿というのは平清盛のことです。平家物語に出て、風体は「赤い服を着た少年=かぶろ」です。この連中に平家の、特に清盛の悪口を聞かれるとたちまちその家に乱入、資産を没収され、逮捕されて引き据えられるのです。平安時代は公式の警視庁のような司法警察として検非違使がいましたが、これは日本最初の政治権力が作った秘密警察でしょう。平家滅亡後、京都にいた源義経も兄頼朝へのスパイとして使った記録があります。

 

👮 町奉行所(江戸時代)

 

時代劇で派手に「御用だ!御用だっ!!」という捕り手たち、遠山の金さんや大岡越前で有名。江戸時代は大岡越前の町奉行が江戸大坂の警察権を担いました。幕府直轄領では勘定奉行、また地方では遠国奉行が警察権を担いました。

 

奉行の下には与力、同心と警察官の役目の人がいて、目明しや岡っ引といった手下を雇っていました。「御用だっ!」のヒトは主に同心です。目明しや岡っ引が犯罪組織に潜り込んで、大ごとになる前に隠密裏に火種を消し止めたことが、江戸時代の天下太平を支えていました。

 

ただ今でいう暴力団との癒着、権力を振り回すような弊害も多々ありました。必要に応じて鬼平犯科帳で有名な「火付盗賊改方」(凶悪犯専門警察)、「関東取締出役」(いわゆる八州廻り。地域の管轄を越えた特命係)などもできました。ただ専任の“警官”は少なく、実におカネのかからない“小さな政府”でした。だから権力との癒着や犯罪勢力との癒着もあったのです。

 

👮 錦衣衛(きんいえい)

 

中国の“公安”は、目立たないカッコウだが目は鋭いコワいイメージです。その嚆矢は明の時代、初代洪武帝の権力基盤を固めた恐怖政治の尖兵になったこの秘密警察です。皇帝親衛隊として、宮中の儀礼的な護衛兵という建前でしたが、実際には特務機関として逮捕・処刑を公然行い、人々から恐れられました。深夜早朝に突然要人を捕まえて、秘密裏に2~3日のうちに処刑という乱暴さは、その後の中国の粛清の典型になりました。洋の東西今昔、格好は変わっても秘密警察のやることは変わりません。

 

👮 フーシェ警察(フランス)

 

昔の「お巡りさん」的な司法・行政警察は、18~19世紀のフランスで、革命を機に政治の秘密を握って秘密警察になることで、国家をも拘束できる権力を得ました。その嚆矢になったのがフランスの政治家・革命家でもあるジョセフ・フーシェです。王政から民主制、さらにナポレオンに政権が移る中で、抜群の政治能力で、政権の中枢の政治家の個人情報を握って、治安を維持するほか、警察の地位を高めました。近代警察=法治国家の役割を定着させ、弱い者いじめばかりでない、権力者でも掣肘できるようにしたのです。

 

👮 新選組(江戸時代)

 

カッコいい衣装を着た近藤勇、土方歳三、沖田総司のイメージがありますが、軍隊ではない刀を振るう警察です。ただ権力の裏付けが旧幕府、会津藩だったために、最後はその瓦解とともにバラバラになってしまいました。権力の最後には有能な独裁者、強烈な組織が出てくるものですが、この新選組も粛清した内部のヒトの方が、治安維持のため斬った人物より多いという、統制きつい組織でした。

 

👮 明治国家の警察

 

明治も含めて戦前の警察というと、立小便を見つけて「おい!こら!」議員の演説会に現れて「やめろ!弁士中止!」と弾圧するイメージがあるのですが、その原型はフランスのフーシェ警察です。川路利良という薩摩の西郷・大久保にも顔の効く権力者が創設したところに共通点があります。

 

👮 ゲシュタポ(秘密国家警察)

 

もともとは18世紀オーストリア帝国の秘密警察。ナチスがプロイセンの警察組織と併せ拡大してその名を引き継いだのです。警察が国家そのものになり「警察国家」になるとこうなる典型的な見本です。司法警察でない権力者の意のままに動く「政治警察」はコワいのです。ユダヤ人だというだけで、夜中に突然来て拘引し、それが永遠の別れになってしまうような横暴な国家体制は長続きせず、ナチス・ドイツは12年でなくなりました。

 

ただ、その人権無視の基本は戦後も消えていません。その根幹は民族差別と指導者論理で“劣等”民族は消せ、指導者の気に入らないヤツは消せ、という論理で、共通しているのです。末期は作った本人ヒトラーさえ恐れるほど肥大化しました。

 

👮 アインザッツグルッペン(特別行動部隊)

 

ナチス・ドイツは警察国家で、ゲシュタポはじめフツーの秩序警察以外にも数多くの警察ができましたが、その中で一番評判の悪いものです。第2次大戦で進撃するドイツ軍戦車隊の後ろから、治安維持のため付いてくる保安警察という名目です。治安維持の名のもとで、ユダヤ人を無差別虐殺したり、ドイツ人が殺された、という名目で通勤途中の市民を無差別にひっ捕らえて吊るしたりという暴虐を働いたので、ドイツ国内ですら悪名高く、戦後指揮官は多く処刑されました。

 

👮 アメリカ連邦警察(FBI) 

 

アメリカの日本流にいう「八州廻り」の連邦警察。CIAは範囲がもっと広くて国際警察。アメリカも州ごとに「州警察」がありますが、州をまたいでの犯罪だとこの連邦捜査局が出てアメリカ国内中追跡されます。20世紀初頭にシークレット・サービスから出た23人から始まって、トップによっては相当な権力を持つようになり、黒人差別やケネディ暗殺の陰謀論まで、さまざまな事件に登場しました。

 

特別捜査官となると、入るには司法試験よりむつかしい試験をパスすることが必要なようです。それだけ頭がよくないと務まらないのです。Gメンという言葉はFBIが発祥です。

 

👮 インターポール(ICPO)

 

国際刑事警察機構。組織力は国連に次ぐようです。ジェームス・ボンド、銭形警部のイメージがありますが、もともとはナチス親衛隊の下部組織で、戦後15か国が加盟して、犯罪捜査で各国の警察の連携を図ることにしたのです。

 

ただ目的はあくまでも警察の連携で、国際指名手配はあくまで各国のICPOの捜査への協力要請にすぎないため、国際指名手配者を各国警察がそれだけで逮捕はできません。相手国と犯罪人引渡し条約を結んでいたり、国内法に違反していない限り、言ってみればルパン3世のように、犯罪者なのに刑務所に入らず、普通に生活している者もいます。

 

👮 オフラーナ・チェーカー・KGB(ロシア)

 

16世紀、ロシア帝国のイワン雷帝が専制のために作ったオプリチニナが起源。帝政警察のオフラーナ、首相府第3課、20世紀のソビエト、レーニンの個人警察、チェ―カーからGPU(ゲペウ)を経てソビエト国家保安委員会KGBという近代ロシアの秘密警察の系譜は、帝政から共産主義に代わっても共通して続き、そのまま国家による抑圧、粛清につながるものでした。

 

人材も豊富で、ものの見事にレーニンをだましたスパイ、マリノフスキー、スターリンの粛清を手伝い、死刑判決を乱発し、自らも処刑されたたヤゴダ、エジョフ、ベリヤといった「警察の英雄」まで出ました。秘密警察は「情報部」でもあり、国家機密をどうこうした、ということで国家意思を法律の名のもとに行使する機能をロシアは今も昔も活用しているのです。今は連邦防諜局を経て、連邦保安局という名です。

 

👮 シュタージ(東ドイツ国家保安省)

 

独自の軍隊まで持っていた、旧ソ連のKGBやアメリカのCIAをもしのぐ規模の“旧東側”の国家警察です。ゲシュタポ以上の秘密主義で、西側のエージェント(情報部員)は捕まったら帰ってこれないという事態でした。冷戦崩壊、ドイツ統合後も、その残忍さから、ここの出身者は忌み嫌われる場合も多かったようです。

 

👮 特別高等警察(昭和初期)

 

日本のゲシュタポ。なぜ高等かというと、ゲシュタポ同様「政治警察」だからです。大逆事件が源流で、ヒトを殺してもいない殺人未遂で死刑を求められる、ヒトを勝手に殺せる権力がありました。大正デモクラシーのアンチテーゼとしての治安維持法に基づいて設置され、怪しいと思う一般市民を拘束し、小説家の小林多喜二や社会主義者を拷問にかけたり、殺してもうやむやにするようなことをしました。

 

👮 憲兵隊(日本)

 

軍隊内の警察は独特です。戦争という非常時に、暴力を用いても手っ取り早く秩序を維持する必要があるからです。関東大震災で大杉栄を殺した甘粕大尉は有名です。戦場では軍法会議で士官複数名が合議して一致すれば命を奪うこともできます。三審制も何もあったものではないのですが、生命の危機で一刻を争う戦場では致し方ないでしょう。戦時中は陸相も兼ねた首相直属の治安機関として、憲兵隊の権力も頂点に達しました。

 

👮 自警団(大正時代)

 

関東大震災時の治安悪化の際、街のいいおっさんたちが団結して自分で治安維持を行うようになりました。朝鮮人とみると、なぶり殺していた「私設警察」。「ガギグゲゴを言ってみろ!」というような基準で「悪者」と決めつけ、ただちに執行するその刑罰はいうところのところ払い、死刑でした。法に基づかない「感情警察」の走りだったでしょうね。福田村事件のように、朝鮮人ばかりでなく、間違われた日本人も殺されました。当局は復興に忙しく、この件をうやむやにしたために、後世いろいろ言われることになりました。

 

👮 自粛警察・マスク警察・帰省警察(令和初期)

 

これはもう自警団以来の、現在の私設警察です。法的な根拠もなしにヒトに刑罰を加えることをリンチ(私刑)と言いますが、ちゃんとした国家の警官であっても、法に基づかず自分の思想信条だけでヒトを傷つけるとリンチになるのです。リンチは罰する方でなく、罰される傷害罪です。いわんや一般市民ならなおさらです。むかしの自警団との違いは直接手を下さず、ネットで間接的に匿名で無法な暴力を加えることもある点です。

 

 

これらを見ると、警察というのは法を守ってそれを執行する反面、それが秘密で、なおかつ政治的なものが加わると、感情が混じって市民に身近なだけに、非常時の軍隊より狂暴になります。その上警察権力を振るうコトを正義感にかられた無法な一市民がやると、ますます悪いコトになる、だから警察は、原則しっかり制服を着て、サイレン付きのパトカーに乗り、国家試験を経て訓練と能力を備えた公務員がなるのです。

 

法を守るのは良いのですが、法を守らせる側に立つならば、相当な倫理とそれを支える人格の信頼、その信頼を担保する権威としての国法、制服など外見が必要なことが分かります。さらに法とは何か?を自覚し、自分勝手に作った法は法ではなく単なる暴力になりかねないよ、ということも、法律学以前に学んだ人がなるものです。

 

警察という切り口で考えると、絶対専制主義、国家社会主義、共産主義国家の警察に比べると民主主義の方が手続きは遅くとも、不平等さがあっても、残忍にならない分、だいぶマシのような気がします。刃物も使いよう、ヒトを傷つけるか、料理の能率を上げるか、というのと同じことです。