「きょ、今日!?ほんとに、げほっ!ごほん!」
素っ頓狂な声を上げた途端に香りのよいお茶が勢いよく気管に入り、ウンスはひどくむせた。
王妃とチェ尚宮が「まあ」と声を上げて同時にウンスの背に手を伸ばし、叩いたり擦ったりするので、ウンスの背中は大渋滞だった。
「ちょっと変なところに入っちゃって。…本当に今日なんですか?」
呼吸を整え、目じりの涙を拭いながらウンスはチェ尚宮を見上げた。
「と言っても何をしてやるわけでもないのですが…まあ、はい」
王妃の誕生日が来月なので、女三人、儀式用の衣装や化粧の話に花を咲かせていた。
たまたま、本当にたまたまウンスがふと「そういえばあの人の誕生日っていつなのかしら」と首を傾げたところ、「今日です」とチェ尚宮が答えたのだった。
「私、あの人のこと何ひとつ知らないんです。好きな食べ物とか、得意なこととか」
青磁の茶杯を両手で包み込み、ウンスは苦く笑った。
四年前ここにいた時は生きるだけで精一杯で、自分の誕生日すら忘れていた。
普通の恋人がするようなたわいもない会話も、数えるほどしか交わしていない。
こうして恋仲になれたのが不思議なくらいだ。
「それでも、甥の心の根をご存知です」
親しみのこもった言葉に、ウンスは顔を上げた。
包み込むような慈愛深い眼差しが、ウンスに向けられていた。
今度は王妃が、ウンスの手に自らの手をそっと重ね押し包んだ。
「それが一番大切なことでは?…他の誰も知らないことを、知っている人が傍にいてくれる。チェ・ヨンにとって、それほど心強いことはないでしょう」
王妃の言葉がウンスの胸をじんわりと温めた。
「後のことはゆっくりと知ってゆけばよいのです」
「そうね、そうですよね。私、これからずっとここにいるんだもの」
二人を見つめて頷くと、ウンスはほどけるような笑顔を見せた。
「コモニム、あの人のほしいものって何でしょうか。何かあげたいけど、私が読めないのに本を贈るのも変だし、あの人剣や鎧にしか興味がなさそうで。あ!お酒はどうかしら。焼酎徒って言い伝えはあるけど…」
表情を忙しなく変えながら、ウンスはあれこれと贈り物についての考えを巡らせているようだった。
王妃とチェ尚宮は顔を見合わせてそっと口の端を上げた。
ヨンがほしいものなど、決まりきっているのに。
欲のないヨンが、生涯をかけて唯ひとつ望んだもの。
「甥に直接訊いてみられるのがよいかと」
期待に小躍りしたくなるのを押し隠し、チェ尚宮は平静さを装った口調でそう言った。
つづく
ヤアヤア!
2023年がやってまいりました~!
本年もどうぞよろしくお願いいたします♡
ヨンの誕生日っていつなんだろうねぇ…という疑問から生まれたこちらのお話。
結局のところいつかはわからないので、それぞれの読み手様が思う「今日」で解釈していただければ嬉しいです。
つづきはゆっくりとお待ちくださいませ😌
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