数年前の水泳競技会を観ると、トラックスタートを使用する選手のほとんどが、重心を後ろに掛けていました。これは後ろ足に重心が乗せて構える方法で、両手をスタート台に掛け、両腕の引きも利用して飛ぶスタート方法です。
しかし、もしあなたが注意深い観察者であったなら、時間の経過と共に、しだいに重心を飛び込み台の中心や前方に掛ける選手が増えてきたことに気付いたことでしょう。
やがてバックプレートを使用するようになると、重心を後ろに掛ける選手は、ほとんど観られなくなってきました。
現在レベルの高い競技会を観ると、ほとんどの選手が重心を前に掛けていることに気付きます。

ここで、重心を後ろに掛ける場合と前に掛ける場合を比較してみましょう。
まずは利点から。
後ろ掛けの主な利点には以下があります。
1)最初に反応すべき後ろ足に重心があるので、初速を得られやすい。
2)両腕の力を利用できる。
3)フライングをしづらい。
前掛けの主な利点は以下になります。
1)重心が前方にあるので、重心の移動距離が少なくてすむ。
2)用意の姿勢でリラックスできる。
それでは後ろ掛けの欠点ですが、これはもう以下の一点に絞られるのではないでしょうか。
1)重心が後ろに引けているため、重心の移動距離が長くなる。前掛けにくらべ、二十センチ程度は後ろに移動していると考えられる。
次に前掛けの欠点です。
1)後ろ足の反応が遅れやすい。
2)後ろ掛けに比べてフライングしやすくなる。
上記のような内容を考えると、バックプレートがない状況なら、後ろ掛けと前掛けの比較は五分五分と云ったところでしょうか。
しかし、バックプレートがあるなら、これが明確な差を生み出すのです。
トラックスタートをおこなう場合、重要になるのは後ろ足の反応です。バックプレートのないスタート台だと、後ろ足の動作を確実にするため、後ろ荷重が有利になっています。しかし、もしバックプレートがあるなら、後ろ足が滑ったり、力が抜けたりする危険性はほとんどありません。そこで、数十センチ前に構えることのできる前荷重が、同じ飛び込みをする場合、より早い反応を引き出せるのです。
バックプレートのある飛び込み台でも、練習過程で後ろ掛けをトレーニングすることは有効です。そうすることで、後ろ足の力強い踏み切りを体感できるからです。
どちらにしてもなかなかバックプレートを利用したトレーニングを十分におこなうチャンスは少ないもの。
ぜひこのチャンスをお活かし下さい。
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*写真の飛び込みはバタフライの雄、柳澤晋平さん。