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料理の記憶 30 「焼鳥編」 慰安旅行その2

札幌市民に温泉と言えば?

そう質問すると「定山渓温泉」「洞爺湖温泉」「登別温泉」と回答する人が多い。

もちろん「ニセコ」「函館」などにも様々な温泉宿があるが、前者に共通するのは「温泉街」であり、つまり浴衣を着てふらふらと歩けるのが当時の温泉観光であった。

 

この3つの温泉街でさらに共通することは札幌市から近いという事。

洞爺湖温泉と登別温泉は車で2時間弱で着く。

定山渓温泉に至ってはそもそも札幌市南区であり、札幌駅からでも1時間とかからない。

それが裏目に出てしまい、何故か札幌市民は定山渓温泉を敬遠する。

近すぎて観光に来た気分を味わえない。といった具合だ。

 

札幌市民が「観光」をする時に暗黙のルールみたいなものもある。

例えば国道230号線を走るなら定山渓で止まらず、何故か中山峠を越えたい。とか

国道36号線を走るならせめて太平洋側に出たい。とか

国道5号線なら小樽で観光もするかもしれないけど、積丹くらいまで行きたい。などある。

 

洞爺湖、支笏湖も有名なスポットではあるが、札幌市民は何度も見てきているため、実際に見たところで「おお~」とも「わ~」ともならない。それなら一気に函館までと考える市民が多いが、実際行ってみると「思ったより遠い」というのが感想となる。

それもそのはずで札幌から函館までの距離は310キロくらいある。

これは東京駅から愛知県岡崎市くらいまでの距離であり、札幌市民にとっては同じ北海道であっても「ちょっと函館まで」とは決して言わないのだ。

 

よって札幌から温泉観光となると登別温泉辺りは妥当な判断といるだろう。

 

私たちを乗せた観光バスは札幌市を抜けた辺りで停車してトイレタイムとなった。

たった1時間くらいしか乗ってないのにトイレタイムを設けた理由はビールである。

アルコールで尿意を早め、乗せた乗客ほとんどがトイレへ駆け込む形となった。

その頃私は5缶目のビールを飲み終えたころだったため、私もトイレへ行く形となった。

 

たった1時間であったが、壮絶な時間であったことは想像してほしい。

後からバスを降りてきたドイちゃんに至っては顔つきが変わっていた。

少し、男らしい感じもする。いや、そうではない。

眉間にしわを寄せて、只々怒っていた。

ふらふらな私を見つけると、ドイちゃんは近寄ってきて「なんだよ!あいつら!」

「なんで殴るんだよ!」「しつこいんだよ!何発も何発も!いい加減にしろよ」

 

相当怒っている。

 

「コンドウチャンはどこにいたの?」

「俺はビールを永遠飲まされてた。もう5本飲んだ。」

「マジ?大丈夫?誰に飲まされたの?」

「全然知らない人。やばいかもって思って後ろ見たらドイちゃん殴られてて、あぁぁ。って思ったわ。」

 

2人とも戦っていたのだ。

貴重な休戦時間にお互いをたたえあう。

そして作戦会議が始まった。

このままでは登別温泉につくまでに倒れてしまう。

何とか現地に着くまで安全な場所はないかと考えた結果

まずは2人で席に座ること。そしてドイちゃんを窓際に座らせること。

これはドイちゃんが通路側にいてしまうと、ちょっかいを出されてしまう為。

そして常にいっぱい入ったビールを2人とも手前に置いておくこと。

エンドレスで持ってくるビールを防ぐ方法として「まだ入ってます。」と言えるようにする為。

後は誰とも目を合わせないこと。

 

等々、色々な考えが浮かんできたがどれも決定的に回避できる方法ではなかった。

しかし、後1時間。1時間さえ我慢できれば宿に到着して温泉を満喫できる。

そういった希望を持ちながら私達は健闘を祈った。

 

私達がトイレ休憩を済ましてバスに戻った時のこと、

バスの中では何やらもめごとのような声が聞こえた。

「なんだよそれ!」

「どうなってんだよ!」

「ちゃんとしろよ!」

 

なんだなんだ?何が起きたんだ?

既に半分以上が酔っぱらいの車内に怒号が飛び交う。

私達は恐る恐るバスに乗り込み、まずは座席の確保を優先して2人で座ったあと、隣の人に何があったのか聞いてみた。

 

「何があったんですか?」

 

「おお、信じられないよ。マジであり得ない。だってよ、ビールが無くなったんだぞ。」

 

「え?ビールもう無くなったんですか?あんなにあったのに。」

 

「ちゃんと準備しとけよ!って感じだろ。どうすんだよこれから。」

 

 

やった!やったぞ!朗報だ!

無限に続くと思われたビール地獄がついに終止符をうった。

 

クーラーボックスに大量に入っていたスーパードライは予想以上のペースで無くなった。

今からコンビニで購入しようとしても、これだけの大人数分は確保できない。

スーパーでケース買いしたとしても、冷えてない。

つまり温泉宿に到着するまではアルコールを回避できることになったのだ。

 

管理をしていた人は只々申し訳ない。といった風に謝りながら、とりあえず現地に着いたら対応しますと言っていた。

 

ふふふ。

私は安堵した。

例え現地に到着してそれからビールをケース買いしたとしても、冷やす方法がないだろう。

さらに、温泉宿のビールを注文すれば相当予算が膨れ上がる。

これから先は各々が飲みたい分だけ自販機などで購入するしかないから、私はさっきまでのような状況になることは無いだろう。

 

さらにはみんなの酔いもさめてドイちゃんを無駄に叩いたりするテンションもなくなるはずだ。

ドイちゃん、やったぞ!

俺たちの勝利だ!

 

こうしてブーイングが飛び交う観光バスは一気に登別温泉まで向かうことになった。

 

しかしその後、私の予想は大きく外れることになる...

 

つづく