木下半太『鈴木ごっこ』あらすじ | 好奇心の権化、アクティブに生きたい。

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今回は、木下半太さんの『鈴木ごっこ』のあらすじと感想を。

 

まず、この記事であらすじを。

次の記事でネタバレ感想をつづっていきます。

 

 

 

【注意】

細かい部分ははしょってはいますが、これから読む予定のある人はお気を付け下さいますようお願いします。

 

 

 

■登場人物
・鈴木小梅
大阪のアラフォー主婦。夫がヤクザの親分の孫娘を孕ませてしまい、迷惑料と慰謝料である2500万円をチャラにする為、「鈴木ごっこ」に参加した。
カフェを経営していたこともあり料理が得意。

・鈴木タケシ
三十代の男性。キャバ嬢に貢いだ2500万円の借金を返す為に「鈴木ごっこ」に参加した。
神経質な性格。

・鈴木ダン
二十歳の男性。父親の借金2500万円を肩代わりし「鈴木ごっこ」に参加した。
へらへらした今時の若者。

・鈴木カツオ
五十歳前後の男性。商売が失敗し、2500万円の借金を返す為に「鈴木ごっこ」に参加した。
気が弱い。

・スキンヘッドの男
小梅たちを「鈴木ごっこ」へ引き込んだヤクザ。

・二階堂家の旦那さん
小梅らが家族ごっこをしている鈴木家の隣に住んでいる一家の主人。地味。

・二階堂家の奥さん
二階堂の美人妻。

・二階堂家の娘
二階堂家の一人娘。可愛い。



四月一日。
今年で三十八歳になる主婦がじっと食卓を見つめていると、インターホンが鳴りました。
ドアを開けると、チンピラ風のキツネといった三十代前半ぐらいの神経質な男、くたびれたトカゲみたいな五十歳前後の気の弱そうな男、背は高いがリスのような二十歳前後のへらへらした男の三人が入ってきます。

今日からこの四人はこの鈴木家で家族ごっこをしなければいけません。
理由はそれぞれありますが、共通しているのは二千五百万円の借金を返す為。合計一億円。

四人をここへ集めたのは、スキンヘッドのヤクザ風の男です。
主婦も彼から「あんたの旦那がウチの会長の孫を孕ませた。慰謝料と迷惑料として二千五百万円の借金がある。旦那に用意できる器量はないだろ? アンタに払って貰うことになった。だがあんたの器量ならソープで働いたところで一日に一人の客が付けばいい方だろうな」と言われ、ここでの「鈴木ごっこ」を提案されていました。

「どうして、家族を演じるだけで借金がチャラになるんでしょうか」
トカゲみたいな中年男が疑問を口にします。
考えられるのは不動産関係の犯罪ですが……。

「やるしかないねん。ヤバい相手とわかってて借金してんから」
大阪出身の主婦は関西弁で答えました。
主婦が参加を決めたのは当然、夫の為ではありません。愛する一人娘の為です。

食卓にカップラーメンを並べ、四人はこれからのことを話し合います。

「名前はどうする? 家族を演じるなら新しい名前を決めなあかんで」
話し合いの末、それぞれの好きなものから名前を付けることにしました。

毎日梅干を食べる主婦は小梅。
武器マニアの三十代男はタケシ。
猫が好きな五十男は、猫の好きなものから連想してカツオ。
バスケットボールが好きな若者はマイケル・ジョーダンから取ってダン。

配役は、タケシと実年齢よりも若く見える小梅が夫婦、童顔のダンは引きこもりがちの中学生の息子、カツオは頭を白くして祖父、となし崩し的に決まります。

男三人が食事を終えて食卓を離れる中、小梅だけがほとんど手を付けていないカップラーメンを見つめていました。


七月一日。
ダンとタケシは隣の二階堂家とかなり打ち解けていました。
二階堂家は美人母娘と地味な旦那の三人家族です。

ダンは、二階堂家の高校生の娘にすっかり惚れています。

ダンとタケシが縁側でカキ氷を食べていると、カツオがガリガリ君を持って帰ってきました。
二階堂家の奥さんから貰ったと、締まりのない顔で語ります。
カツオはむっつりスケベでした。家事をする小梅の胸やお尻をいつも目で追っています。
カツオの視線には小梅も気付いているでしょうが、彼女は全く意に介さず、それどころか夏はタイトなシャツや太もも丸出しのショートパンツで家の中をウロウロするようになりました。

その小梅は、今はヤクザに呼ばれて不在でした。

「もしかしたら……」
小梅が呼ばれた理由を考えていると、タケシが意味深につぶやきます。
「小梅の背中に刺青があったんだ」

思わぬ情報に、ダンとカツオはショックを受けます。
「どうして小梅さんの服を脱いだ姿を知っているのですか? 確かに"夫婦"ではありますが……」
「たまたま……風呂場のドアが開いてたんだよ。肝心なのは小梅の正体だ」
「カフェのオーナーだったんだよね?」
「カフェの経営が事実だとしても、その前の職業は聞いていないだろ」

突然、縁側に、スーパーの袋を持った小梅が現れました。
「大変なことになったんよ。さっき、スキンヘッドから新しい指令が出てん……」

その指令というのは、鈴木家の内の誰でもいいから二階堂家の奥さんを落とせというものでした。
「期限はあと九ヶ月。できへんかったら借金はチャラにならへん」
「て、いうか、二階堂家の奥さんを落とすことで、どうして、一億円がチャラになるわけ?」
「ウチもスキンヘッドに同じ質問したけど、『お前らは不倫現場の写真と動画を用意すればいい』って言われて終わり」
「もしかしたら、二階堂家の奥さんの実家が大金持ちとかね……。『旦那と別れたくなければ口止め料を払え』と脅す気だったりして」

どうしたってやるしかありません。
家族の年齢設定から、必然的にタケシに白羽の矢が立ちました。

「まず、二階堂家の奥さんを孤独にしよう」小梅が胸を張ります。
「なるほど。寂しさのあまり理性が崩れれば、過ちを犯す確率も高くなる訳か」
「家族をバラバラにさせるねん。ダンは高校生の娘と仲良くなって。カツオじいさんは、旦那さんを担当してや」

このような作戦を立てる小梅なら、背中に刺青があっても不思議ではありませんでした。


十月一日。
今夜は鈴木家も一緒に、二階堂家でたこ焼きパーティーです。この案件は小梅が取ってきました。
たこ焼きの準備をしているのは、今はタケシと小梅だけです。

「小梅は大阪に帰ったらもう一度カフェをやるのか?」
「もうお店はやらへんよ」
「もったいないねえ。俺ここの家に来てからとんでもなく健康になったんだよ。そこら辺の店の料理よりも美味いと思うぞ」
これで性格さえよければ嫁に貰ってやるのに。小梅の素性を知らないタケシは思いました。

けれどタケシが今興味があるのは、二階堂家の奥さんだけです。
だというのに、タケシは女性への苦手意識から奥さんを口説けないどころか、逆に奥さんからの誘いを拒否している始末でした。

カツオがやってきた時、まだ二階堂の家族がそろっていない段階で、小梅はたこ焼きを焼き始めようとします。
「もう焼き始めるんですか?」
「焼いてるところを二階堂家の人に見られたくないからな」
小梅は小さな瓶をホットプレートの上で振りました。
「小梅、何をしてるんだ」
「薬局で売ってる睡眠薬よりも、かなりキツイ薬」
「……二階堂家を眠らせるのか?」
「旦那さんと娘だけ」

タケシがカツオに指示を出します。
「公衆電話から旦那さんに電話して、『今夜のパーティーは中止になった』と伝えてきてくれ」
カツオは小走りでリビングから出ていきました。

今夜も指令は失敗です。


元旦。
カツオは早朝の公園のベンチで目を覚ましました。
小梅には内緒で、カツオとタケシとダンの三人で大晦日のパーティーを近所のカラオケ店でやった後でした。

「カツじいってば! 寝るなら家で寝なよ! 風邪なんかひいたら母さんに殺されるよ!」
ダンがカツオの後頭部をペチペチと叩きます。
最近の小梅はピリピリしており、少しでも体調を崩すと烈火のごとく怒り出します。

「グォォォォーッ、ブーーン、ブーーン、ドガァーーーーン!」
近くではタケシが滑り台の頂上にちょこんと座って、戦闘機の模型を振り回していました。

師走の中頃まではみんな焦っていましたが、大晦日を迎えると完全に諦めムードが漂っていました。

滑り台を滑り降りたタケシの戦闘機がカツオの股間を攻撃した時、怒声が響き渡ります。
拳を震わせた小梅でした。
タケシの股間攻撃から解放されたカツオは、今度は小梅からボディーブローを突き込まれました。

「もうフニャチンのあんたらの協力はいらへん。ウチが二階堂の奥さんを落としてやる」
これから奥さんと二子玉川に行くという小梅は、男三人をほっぽって消えていきます。初めて小梅が料理を放棄した瞬間でした。

残された三人は朝の住宅街を走り回ります。
ヤケクソになった末の行動でしたが、ダンもタケシもカツオも、楽しくて仕方ありませんでした。


そして鈴木家は、四月一日を迎え――

 

 

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以上があらすじです。

感想は次の記事に続きます。