大門剛明『雪冤』ネタバレ感想 | 好奇心の権化、アクティブに生きたい。

好奇心の権化、アクティブに生きたい。

なるべくお金をかけずに日常と本を絡めてみる

※本題の前に

そろそろここで取り上げる小説の基準をはっきりさせておきましょうかね。



1.最後まで読みきった
大前提。

 

2.有名過ぎない
あまりにも有名な作品は私が取り上げるまでもなく他の人の感想であふれ返ってるので、書く意義を見い出せません。


「そう言うけど、前にシャーロックホームズの感想書いてなかったっけ」?
はい。その後ホームズに関する記事は二度と書かないと決めました。

ドイル許さんからな。
(八つ当たり)


 

3.苦痛の度合いが≦刑務作業
たとえ読んでて苦痛を感じても、恐らく刑務作業よりマシであろう作品なら感想を書きます。
でも正直、どっこいな作品はあります。


以上がこのブログで感想を書く基準です。

面白ければインディー小説を取り上げる可能性もあります。
(最近は全く読んでないけど)




--
【注意】
一個人が好き勝手に書いてます。
これから読む予定のある人の閲覧はお控え下さいますようお願いします。

また辛口です。

あらすじは前回の記事をご覧下さい。





長過ぎない作品なら短期間で読める…
そんな風に考えていた時期が私にもありました。

本作は370ページ。特別短くもなければ長くもありません。
ところが読みきる頃には2ヶ月経ってました。



本作の舞台は京都なのですが、関西弁を喋る登場人物はほとんどいません。
菜摘はそれっぽい言葉を喋りますが、これが大変気持ち悪いです。

「あらへんです」
「くれへんです」
「できひんです」

私はネイティブ関西人ですが、こんな言葉使ったことも聞いたこともありません。
普通に「ありません」「くれません」「できません」って言います。



その菜摘ですが、私の理解の域を遥かに超える心理の持ち主のようです。

"(犯人は石和に)台本のことは言っていなかったのか? 問いたかったが菜摘はどういうわけかためらった。この弁護士は敵で、敵に塩を送るようなものという意識があったのだろうか"
と考え、慎一無罪の決め手に成り得る台本のことを黙ったままでいます。

ずっと恋心を寄せてきた相手が無罪かもしれないとわかれば、喜ばしく思うものなんじゃないんですかね?
少なくとも、大切な人を殺した犯人が他にいる可能性が高いなら、相手側の弁護士にも協力はすると思うんです。私だけですか?



上で述べたことはまだ可愛い。

この作品の一番の問題点は、懲役15年が確定した懲役囚が仮釈で3年で出てきたこと。


私も聞きかじった知識で申し訳ないんですけど…

仮釈放っていうのは最低でも刑期の7割8割を過ぎないと貰えないんです。
刑期の3分の1を経過すると貰える対象になるとはいいますが、あくまで対象になるだけであって、3割で貰えることはまずありません。

しかも本作の場合、3年で仮釈放されてる訳なので、たった2割の刑期で出所してることになりますよね。
対象者にすらなってない筈なんです。本作の舞台が実は日本じゃなかった、とかでもない限り。


この作者は死刑囚の扱いや法律に関わる部分はよく勉強されているだろうに、どうしてこんな簡単なところでチョンボかましたんでしょうか。



真犯人であるメロスの正体ですが、慎一が幼少期に沢井恵美、長尾靖之とともにふざけて線路に落としたホームレスの弟でした。

兄を殺されたと知った弟は、当時子供だった三人に復讐しようと考えました。
そして恵美と靖之が死んだところで、慎一が罪を被ることにしたのです。

…というだけでなく、八木沼と同じように死刑廃止論者だった石和が、


「ワイはディオニスや! ワイがメロスを動かしてたんや! 真犯人のワイが自首したら慎一くんの冤罪が確定して、死刑廃止の礎になれる!!!(意訳)」
 

とか言って狂言を演じたものだから、話がややこしくなった…

 

言ってしまえば本作はそのような物語です。



ホームレスが轢かれた時のことを教えた人物は長尾について、
"年とってからの子や甘やかされて育ったもんであんなになったんやろ"
と説明しています。


私の話で恐縮ですが、私も親が歳取ってからの子ですが、甘やかすとは真逆の育て方をされてきました。
昔の私の記事を読んで下さった方ならよくわかって下さるとは思いますが…

確かに、いい歳して子供を諦めきれず、いざ出来たら猫可愛がりするタイプの馬鹿も世の中にはいます。

けどそれとは対極の立場にある私から言わせていただきますと、本作の作者である大門さんという方が今後もこういう偏見を助長するような書き方を続けるつもりなら、ぜひ直接お話がしてみたいものです。



結局、本作でしているのは「冤罪であろうとなかろうと死刑は廃止すべき」という意見の押し付けです。
死刑制度を続けるなら国民が執行ボタンを押せとまで論じてます。

極論で述べられてるので同じ論調で返しますが、


そこまで言うなら廃止論者が犯罪者を養え。
どんな凶悪犯だろうと、てめえの金で一生面倒見ろ。


冤罪で殺されるなんて絶対にあってはならないけど、どこぞの青葉や座間の犯人まで血税使って生かしておく理由が私にはわかりません。



ところで、殺人罪の時効について作中で言及があったので調べたのですが、2005年以降に発生した事件から25年に延長されてるんですね。
その後に時効は廃止される訳ですが、恥ずかしながら私、廃止前はずっと15年だと思ってました…勉強不足でした。

このことを知るきっかけになっただけでも、私にとって本作を読む意義はあったといえます。




以上、『雪冤』ネタバレ感想でした。