馳星周『楽園の眠り』あらすじ | 好奇心の権化、アクティブに生きたい。

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今回は、馳星周さんの『楽園の眠り』のあらすじと感想を。

 

まず、この記事であらすじを。

次の記事でネタバレ感想をつづっていきます。

 

※今回の記事から書籍写真は背表紙となります

 

 

【注意】

細かい部分ははしょってはいますが、オチを除くほとんどを記載します。

これから読む予定のある人はお気を付け下さいますようお願いします。

 

 

 

■登場人物
・友定伸
麹町署生活安全課の刑事。30代。元妻が置いていった息子を虐待している。

・友定雄介(紫音)
友定の息子。5、6歳の美少年。友定の張り手のせいで左耳が聞こえなくなっている。紫音は妙子(後述)が付けた名前。

・大原妙子
父親に虐待されている女子高生。17歳。流産したのをきっかけに家出をした際、街をさまよっていた雄介を保護し、そのまま連れ去ってしまう。

・谷村秀則(ヒデさん)
クラブのDJにして薬の売人。30代半ば。よく公団の自室を若者の溜まり場にしている。妙子の協力者。

・加藤奈緒子
友定が出会い系サイトで知り合った主婦。31歳。2歳の娘を虐待している。

・高木優
元ロックバンドのボーカリストにして、ヒデの元カノ。20代後半。だらしない性格の汚部屋住まい。

・幸治
妙子の元カレ。妙子を孕ませた挙句、暴行を加えて流産させた。



生理が来なくなったので、大原妙子が妊娠検査薬を試すと、結果は陽性でした。
交際相手である幸治に嬉々として報告したところ、幸治は妙子に暴力を振るいます。
「なんでこの歳で父親にならなきゃなんねえんだよ」
腹を執拗に蹴られたせいで、妙子は流産してしまいました。

妙子は治療を終えて入院することになりましたが、看護師の目を盗んで病室から抜け出します。
家に帰れば父親から虐待され、母親は見て見ぬ振り…
一人で生きていく決意を固めて家出を実行しました。

援助交際をした夜、ラブホテル街を歩いていた時、まだ就学もしていないような男の子が一人で歩いているのを見付けます。
優しく話しかけますが、男の子は口が利けないのか、何も答えません。
それでも見捨てられまいとすがり付いてくる男の子を、妙子は連れていくことにしました。

一方、ある託児所では男児の行方がわからなくなっていました。
男児の父親であり刑事でもある友定伸は、託児所から連絡を受け、同僚との飲み会を切り上げて急ぎます。
クソガキが、見付けたら徹底的にぶん殴ってやる――託児所の女性から話を聞く間、息子である雄介への怒りを募らせます。
元妻が置いていった雄介は常に母親に会いたがっており、友定はそんな息子を日常的に虐待していました。
騒ぎになって虐待が明るみになるのを恐れた友定は、警察沙汰にはせず、自力で雄介を捜し出すことを決めます。


妙子はビジネスホテルに部屋を取り、男の子に名前を尋ねます。男の子は答えません。妙子は『紫音』と名付けることにしました。
その後、一緒に風呂に入っている時、紫音の体に痣を見付けます。妙子は紫音が虐待されていると知り、彼を自分の子供として育てることを決めます。

一方、繁華街の聞き込みに回っていた友定は、雄介と思しき子供が十七、八歳の女と一緒に歩いていたという情報を掴みます。
女は昼にも目撃されており、若い男から暴行を受けていたそうです。
友定は目撃場所の管轄である交番で、昼に暴行を受けたという女性の名前が大原妙子であることや、住所が埼玉県川口市にあることを突き止めます。

翌朝。
妙子はチェックアウトを済ませると、援助交際をしている間の紫音の預け先を求めて、こういう時に頼れそうな唯一の大人であるヒデさんに電話をかけます。
ヒデさんはクラブのDJであると同時に薬の売人でもあります。
ヒデさんには紫音を従弟と偽り、夜まで預かって貰う約束を取り付けました。

一方、友定は職場に三日間の有休を申請します。
それから川口市の市役所で警察手帳を見せて住民票を閲覧し、大原家に向かいます。
大原家では「ある事件の重要参考人が娘さんの知り合いでして」と告げ、妙子の母親から、妙子が中学からの友達と写った写真と、友達二人の名前を入手します。
友定は川口の駅前で若い男女に片っ端から声をかけると、二人の知り合いだという少女を引き当てました。
彼女から二人の電話番号を聞き出すと、今度は二人が通っている高校のある都内へ向かいます。

友定は校門前でそれらしい少女を見付けると、妙子の元彼氏である幸治という男のこと、幸治がよく行くクラブの名前、今の妙子なら援助交際をしているだろうという情報を得ます。
妙子のメールアドレス、妙子がよく使う出会い系サイトのURL、出会い系サイトでの妙子のハンドルネームを聞き出したところで、友定はその場を離れました。
妙子を呼び出せないかと、出会い系サイトに登録します。


妙子が重い体と心を引きずってヒデさんの家へ戻ると、紫音の左耳が聞こえなくなっていることをヒデさんから教えられます。それだけでなく、紫音が妙子の従弟だというのが嘘だと見抜いていることも。
けれど明日も面倒を見てくれるというヒデさんに礼を言い、妙子は紫音とホテルへ向かいました。

ホテルの風呂で紫音は、妙子から買い与えられた玩具のボートで遊んでいます。妙子が出ようと言っても言うことを聞きません。
妙子が声を張り上げると、紫音は癇癪を起こしてボートを壊してしまいます。
妙子は思わず頬を張ってしまいました。抱き締めて謝罪をします。


友定の携帯が出会い系サイトからのメールを受信します。奈緒子という女からでした。
『欲求不満のせいか子供に当たってしまいます。わたしを抱いて下さい』
友定は返信しました。『どんな風に当たるんですか?』
やり取りは続き、奈緒子が二歳の子供を虐待していることを知ります。シンパシーを感じた友定は、自分も子供を虐待していることを明かしました。

夜になって幸治を探しにクラブへ足を運んだところ、幸治はすぐに捕まりました。
店の外に連れて出る際、音楽が突然途切れたのでステージを見ると、DJが筋者風の男たちに引きずり降ろされていました。見なかったことにします。

幸治から聞き出した妙子の番号にかけますが、妙子は出ません。メールを打ちます。
『大原妙子さん、わたしはあなたが連れている男の子の父親です。息子を返して下さい』


翌朝、妙子が目覚めると、見覚えのない番号からの着信と、紫音の父親を名乗る者からのメールが入っていました。
番号は幸治しか知らない。メアドを教えたのも幸治に違いない――
『あなたのような最低の親に渡すことはできません!』妙子は返信すると、昨日と同じようにヒデさんの部屋へ紫音を連れて行きました。

ヒデさんの顔は痣や腫れだらけでした。妙子は手当をしてやります。
聞けば、薬の売り上げノルマを果たせずに、ヤクザにヤキを入れられたそうです。その上クラブをクビになったとも…
どうせ暇だから時間は気にするなと言い、ヒデさんは妙子を送り出します。

一方、友定は妙子の友達である少女に電話をかけます。そしてお気に入りのラブホテルを聞き出します。妙子も使う可能性があると考えたのです。
張り込んでいると案の定、妙子は現れました。しかし接触する前に気付かれてしまいました。

妙子は逃げ出します。紫音の父親だと直感したのです。
タクシーを拾って、ヒデさんの元へ逃げ帰ります。部屋の中から乱暴な声が聞こえてきました。
ヒデさんと紫音の間に割って入り、今日はもう帰ると告げます。
しかし「おれに断られたら、そのガキ預けるところねえんだろう。一緒に飯食ってけって言ってるだけだぜ」と言われ、渋々、留まることに。

食事の後、ヒデさんは紫音の身元を調べたいと言い出します。
「今月中に三百万つくれなきゃ、腎臓を売り飛ばさなきゃならないんだ」
妙子は、紫音は手放さないこと、新しい生活の為にもう百万上乗せすることを条件に、父親を名乗る人物の存在を明かしました。
「どうしてお前の番号を知ったんだ?」
「刑事なのよ、きっと」

一方、妙子を取り逃がした友定は、奈緒子とメールのやり取りを再開していました。
そこに、妙子からのメールを受信します。
『子供を虐待していることがばれるのが怖いんでしょう。四百万用意して』
友定は返信します。『営利誘拐は大罪だ』


妙子はヒデさんの言う通りにメールを打っていました。
『背中やお尻の痣はデジカメで撮ってある』
返事が来ます。『安月給の公務員に四百万は用意できない』
『刑事なら銀行がお金を貸してくれるでしょう? あるいは退職金の前借りもできるって聞いた。明日の夕方までに用意して』

妙子の返事に、友定はいぶかしがります。今時の女子高生がそんなことを知っているだろうか。
『君の横にいる人と話がしたい』

紫音の父親からの返事を見ても、ヒデさんはとにかく金を用意するようにと、妙子にメールを打たせます。

友定は『せめて写真を送ってくれないか』と話題を変えました。
送られてきた雄介の写真に、スカートが写り込んでいます。どう考えても第三者が撮ったものです。
一度家に戻り、パソコンで画像を拡大すると、シンセサイザーあるいは電子ピアノが見て取れました。音楽関係者の部屋です。
幸治が出入りしていたクラブを思い出します。幸治がいたなら妙子も行っていた可能性が高い。
ヤクザに殴られるDJが脳裏をよぎります。考えられる理由はさしずめ、卸された薬の売り上げが落ち込んでいること――
友定の推理が正しいなら、妙子に身代金を要求させたことにも説明が付きます。
クラブに戻る為、車を走らせました。

一方、ヒデさんは殴られた痛みに耐えかねて薬を使い、言動がおかしくなります。
すっかり怯えてしまった紫音を落ち着かせる為に、妙子は紫音を抱いたまま出かけることにしました。

妙子が出てしばらくしない内に、鍵をかけていなかったヒデさんの部屋の玄関が開かれます。友定でした。
「谷村秀則だな」
友定はヒデさん――谷村を殴り付けて縛り上げると、「ヤクザの件はおれがなんとかしてやる」と交渉します。


妙子が部屋に近付いた時、くぐもった声が聞こえてきました。ドアの隙間から覗くと、紫音の父親がヒデさんを縛り上げているのが見えます。
紫音を抱きかかえると、足音と気配を殺して立ち去りました。

一方、友定は眠れない時間を谷村の部屋で過ごしていました。
携帯がメールを受信します。奈緒子からです。
『子供が泣き止まないの。気が狂いそう! 助けて。お願い』
SOSを受けて、友定は谷村を引き起こすと部屋を飛び出しました。後部座席に谷村を乗せて、奈緒子から教えられたマンションへ向かいます。

「おれが戻るまで待っててくれ。ヤクザに話を付ける約束は忘れない」
友定は谷村にそう言うと、奈緒子のいる部屋へ急ぎました。
幸い、最悪の状況にはなっていませんでした。子供は眠り、部屋には泣き腫らした顔の女が一人、起きています。彼女が奈緒子でした。
すがり付いてくる奈緒子に、友定は彼女を押し倒しました。


妙子はラブホテルで一夜を明かした後、紫音に熱があることに気付きます。
市販薬を飲ませる為にカフェに入り、少しでも食べるように言いますが、紫音は嫌がります。それどころかサンドイッチを床にばらまいてしまいました。
いたたまれなくなり会計をしている間に、紫音はどこかへ行ってしまいます。
すれ違った人から教えて貰った方向へ捜しに行くと、紫音はショウウィンドウに入ったバッグを見つめていました。
「ママ……」
紫音の口からこぼれた言葉に、妙子は嫉妬を覚えます。

その後、どうにか座薬を入れることには成功しますが、熱は引きません。
参っていたところにメールが届きます。送り主はヒデを名乗っています。隙を見て逃げ出したとのこと。
妙子は自分たちが新宿にいることと、紫音が発熱したことを伝えました。

一方、友定は谷村に成りすましてメールを打っていました。代わりに車は谷村に運転させています。
『子供の発熱を甘く見ない方がいいぞ。どこかでじっとしていた方がいい』

メールの送り主が紫音の父親であるとも知らず、妙子はこれまで通り偽名を使ってシティホテルに部屋を取ります。
しかし場所をメールしようとしたところで、違和感を覚えます。
ヒデさんが携帯を使っているところなんて見たことがない。それなのに、妙に返信が早い。紫音の父親は、ヒデさんを逃がしてしまうような間抜けだろうか――
妙子は「ヒデさんが一人だって確認できるまで、ホテルのこと教えたくない。十二時ちょうどにアルタ前に来て」と伝えました。

友定は谷村をアルタ前に立たせると、道路をはさんで監視しています。十二時を過ぎても妙子は現れません。
不意に、中年の男に肩を叩かれます。「雄介くんのお父さんですか?」肯定すると、封筒を渡されました。中身は空です。
振り返ると、谷村が消えていました。
誰に頼まれたのかと凄むと、中年は若い女性だと答えました。はめられたのだと悟ります。


妙子はサングラスをかけてスカーフを巻いていました。
ヒデさんの側に立って、中年が紫音の父親に声をかけたタイミングでアルタの中に飛び込むように言います。

紫音の父親を振り切った後、ヒデさんは妙子に言います。
「あの親父から何百万もせしめるのは無理だ。息子が誘拐されてるってのに女とやるような奴だ」
妙子は嫌悪感に唇を噛みますが、たとえ百万でも金を用意させることは諦めません。

二人は一度、ホテルへ戻ります。
ヒデさんは知り合いに電話をかけると、ヤミ医者の住所を尋ねました。紫音を連れて行く為です。


友定は新宿のホテルを虱潰しに当たり、妙子がいたホテルを突き止めました。
「ああ、お父様ですか」ホテルマンはあっさりと部屋へ通してくれます。
妙子が宿を取る際に使ったとみられる「弟が風邪を引いたので父親から先に宿泊するように言われた」という嘘に乗ったお陰で怪しまれずに済んだのです。

しかし部屋はもぬけの殻でした。メモ用紙に跡が残ってるのを見付けます。<新宿区大久保1>までは読み取れました。
新宿署生活安全課に電話をかけて、同期から大久保一丁目にいるヤミ医者三人の住所を入手します。
友定は急いで回りますが、また一足遅かったようです。

『ギブアップだ。金を持ってどこに行けばいい?』
友定は妙子にメールを送りました。
それから、奈緒子を呼び出します。

一方、妙子、紫音、ヒデさんは、ヒデさんの元彼女である優という女の部屋に転がり込みました。
優も金に困っているそうです。身代金の話に食い付いてきました。

「この鍵の部屋に息子はいるって言えばいい」と、前に住んでいた部屋の鍵を渡してきます。
妙子は紫音を優に預け、ヒデさんとともに優の車で指定場所に向かいます。

友定は指定場所で谷村に封筒を渡しました。谷村は赤と黒のミニクーパーへ引き返していきます。
実は友定は、奈緒子に車での尾行を頼んでいました。谷村と妙子の乗った車を追わせます。

妙子とヒデさんは、車内で異変に気付きます。封筒の中の束は、最初と最後に数枚の一万円札があるだけで、あとは新聞の切り抜きでした。

怒り狂ったまま、ヒデさんは優のマンションへ車を走らせます。
「妙子、お前のおままごとに付き合うのはここまでだ」
妙子はヒデさんに蹴られます。さらに優からボストンバッグで殴られ、気を失いました。
紫音は二人に連れていかれます。「本当のママに会えるぞ」というヒデさんの嘘を信じ、すっかり大人しくなっています。
二人は最初から、妙子に取り分をくれてやる気などなかったのです。

その後、妙子は部屋に乗り込んできた友定に捕まりますが…

 

 

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以上があらすじです。

感想は次の記事に続きます。