【転記】猫でもわかる残業代ゼロ法に関する記事② | 矯正知力〇.六

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高プロの法案を全文チェックしてみた。【前編】

佐々木亮  | 弁護士・ブラック企業被害対策弁護団代表6/15(金) 19:02

 いくら言っても、高プロは成果で賃金が得られる制度だって政府が言うので、こうなったら法案の全文を読んで、確認してみましょう。

 成果で賃金が決まるって、書いてあるでしょうか?

見出し

 まず、高プロ制度の最初は見出しです。

 法案には次のとおり書いてあります。

第四十一条の見出しを削り、同条の前に見出しとして「(労働時間等に関する規定の適用除外)」を付し、第四章中同条の次に次の一条を加える。

 見出しには高度プロフェッショナル制度(高プロ)とか成果型賃金という見出しはありません

 ただ、「労働時間等に関する規定の適用除外」と書いてあるだけです。

 これは嶋崎弁護士も指摘しているところです。

 次から条文です。

 生の条文なのでわかりにくいですが、解説を交えながら読んでいきましょう。

委員会の設置など

第四十一条の二

賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、

 まずは、「委員会」というものを設置します。

 委員会の構成員は、使用者と労働者代表とされています。

 人数や労使の配分などについてはここには書かれていません。

当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、

 その委員会が5分の4以上の多数決で議決をする、と書いてあります。

 議決する項目は後で説明しますので、ここでは議決をするという点だけを理解すればOKです。

かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、

 その議決を労基署へ届け出してね、ということです。

第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて

 あとで出てくる第2号には、高プロが適用される可能性のある労働者の範囲が書いてあります。

 その範囲内の労働者でないとダメだよ、ということです。

同意要件

書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを

 ここで出てくる同意要件です。

 労働者が高プロの適用に同意しないとスタートしません。

 ただ、労働者と使用者の力関係を考えると、同意を歯止めにしたところで、うまくいくはずがないというのは、多くの人が指摘するところです。

 「君、明日から高プロ適用だから、サインして」と言われて、「いやです」と言える人がどのくらいいるか、想像してみるといいと思います。

 労働基準法は、現実では使用者が強いために、労働者から見て理不尽な内容でも同意を取ることができてしまう状況を想定して、同意でも破られない最低基準を定めています。

 その労働基準法に「同意」を要件とする制度を入れること自体が、本来は矛盾なのですが、企画業務型裁量労働制などでも導入されており、底割れ現象が起きつつあります。

 さて、続きです。

当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、

 あとで出てくる第1号の業務に就かせた場合に限られることになります。

ここまでのまとめ

 ここまでをまとめると、

 1)委員会を設置する

 2)委員会で5分の4以上で議決

 3)議決したことを労基署へ届ける

 4)2号に該当する労働者から同意を取る

 5)1号に該当する業務をやらせる

ということになります。

どうなるのか?

 で、そうすると、どうなるかというと、

この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない

 ということになります。

 つまり、1日8時間、週40時間の規制はありません

 そうした規制がないので、36協定というものもありませんし、当然、残業代もありませんし、深夜手当もありません

 さらに、1日6時間で45分、8時間で1時間の休憩もありません

 こうなります。

ただし、第三号から第五号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。

 後編で解説する第三号から第五号までの措置を講じていないと、高プロは適用できないよ、ということです。

 ここまで、成果で賃金が決まるとか、そういう記載はありません。

 後編では各号の解説となりますが、そこで出てくるでしょうか?

 後編へ続きます

 

高プロの法案を全文チェックしてみた。【後編】

佐々木亮  | 弁護士・ブラック企業被害対策弁護団代表6/15(金) 22:00

 

前編のあらすじ

 1)委員会を設置する

 2)委員会で5分の4以上で議決

 3)議決を労基署へ届ける

 4)2号に該当する労働者から同意を取る

 5)1号に該当する業務をやらせる

 6)3号から5号の措置を講じること

 以上をやると

この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。

となります。

 じゃあ、1号とか、2号とか何なの? パーマン?(古い)

 というわけで、「〇号」の解説に入ります。

対象業務

 まず1号。

一  高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)

 対象業務を定めているのが、この号。

 しかし、具体的な記述はなく、「厚生労働省令で定める」とされています。

 そのため国会審議を経ずに広げられる危険性があります。

 このあたりの危険性は、次の記事がわかりやすいです。

 高プロ、対象広がる懸念 省令で規定、国会経ず変更可

 また、「高度の専門的知識等」が必要で、「その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」とされていますが、そんな業務たくさんありすぎて、全然、範囲を限定できてないですね。

労働者の範囲~年収要件

 次、2号。これは労働者の範囲を定めるところです。

二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲

 

 次の「いずれにも」として、「イ」と「ロ」が挙げられます(なぜか法律では「いろはにほへと」なのです)。

 まず、「イ」。

イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。

 ほうほう。書面で職務が定められていればいいのか。

 次、「ロ」。

ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

 出ました。

 これが年収要件です。

 年収と言っても、見込まれる額でOKです。

 交通費もコミコミという答弁がニュースになっていますね。

 金額的には、労働者の平均年収の3倍を相当程度上回ればいいことになっています。

 現時点で出ている数字は1075万円ですが、これについては、実質的には357万円くらいになる可能性があることは、私が過去の記事で指摘しています。

謎の「健康管理時間」

 次、3号です。

三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(第五号ロ及びニ並びに第六号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

 ここで出てくる謎の概念「健康管理時間」。

 健康管理ができる時間だから、働いていない時間なのかなぁ、と思いきや、逆で、働いている時間です。

 高プロでは、労働時間規制がないので、このような変な用語になります。

 それゆえ、過労死をしても、この「健康管理時間」が「労働時間」とは言えないとして、過労死認定がなされない危険性が指摘されています。

 本当は過労死が増えても、統計上は過労死が減るように見えることも、十分にあり得る話です。

 

 で、この「健康管理時間」を使用者は把握する措置をとりましょう、ということが3号には書いてあります。

 おそらく、自己申告でもOKになるのでしょう。

休日104日

 次4号です。

四 対象業務に従事する対象労働者に対し、一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。

 これが年間104日の休日の根拠です。

 しかし、年間104日の休日は、祝日無視、お盆・年末・正月休み無視で、週休2日程度のものですので、それほどの厚遇ではありません。

 また、実際に104日の休日に、労働者が働いたらどうなるのかも、謎のままです。

 ただ制度を作って、「措置」をとればいいのか、本当に休ませる必要があるのか、とてもあいまいな条文になっています。

健康確保措置

 次は5号です。

五 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。

 これが健康確保措置の根拠条項です。

 「いずれかに該当する措置」ですので、次の「イ」「ロ」「ハ」「ニ」の4つのうちから1個とればOKということになります。

まずは、「イ」です。

イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。

 これは、いわゆるインターバル規制です。

 終業時刻から始業時刻までの休息時間を一定程度とるようにするというものです。

 また、労基法37条4項は、深夜労働を定めた条文です。

 1か月の間に午後10時から午前5時まで働く回数を制限しようというものです。

次は「ロ」です。

ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。

 これは、「健康管理時間」の上限設定です。

 つまり、1か月、もしくは、3か月スパンで、働く時間の上限を決めよう、ということですね。

 3つめは「ハ」です。

ハ 一年に一回以上の継続した二週間(労働者が請求した場合においては、一年に二回以上の継続した一週間)(使用者が当該期間において、第三十九条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。

 これは有給休暇とは別に2週間連続の休みを与える、というものです。

 最後が「ニ」です。

ニ 健康管理時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る。)を実施すること。

 これは健康診断をしなさいね、ということです。

 さて、みなさん、上記の「イ」「ロ」「ハ」「ニ」で、会社がどれを選ぶと思いますか?

 どう考えても「ニ」の健康診断に流れそうですよね。

 これが高プロの健康確保措置といわれる制度です。

真の後編へ続く

 長くなったのでここで切ります。

 続きは、真の後編で。

 ちなみに、ここまでも成果で賃金とか出てこないですよね。

 果たして、真の後編には出てくるのか? ドキドキしますね!

 

高プロの法案を全文チェックしてみた。【真の後編】

佐々木亮  | 弁護士・ブラック企業被害対策弁護団代表6/16(土) 8:00

 

 さあ、お待ちかね、真の後編です!

ここまでのあらすじ

 まず、前編で、

 1)委員会を設置する

 2)委員会で5分の4以上の多数決で決議をする

 3)決議したことを労基署へ届ける

 4)2号に該当する労働者から同意を取る

 5)1号に該当する業務をやらせる

 6)3号から5号の措置を講じること

 以上をやると

この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない

となることが分かりました。

 そして、後編で、1号から5号までの解説をしたところです。

 1号 対象業務 厚労省が決める

 2号 対象労働者 書面で職務決めてるとか、年収とか

 3号 「健康管理時間」把握

 4号 104日の休日とか

 5号 健康確保措置 4つのうち1つ選べばOK

 さて、真の後編は6号以降の解説です!

講じる措置

六 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であつて、当該対象労働者に対する有給休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずること。

 労働者の健康がやばそうになったら、有給休暇を与えたり、健康診断したりすることを定めとけよ、ということです。

与党と維新とで修正した条項

 7号はこれです。

七 対象労働者のこの項の規定による同意の撤回に関する手続

 これは政府与党と維新との間の修正協議で入ったものです。

 いったん高プロの適用に同意した労働者が、同意を撤回できる手続きを定めること、ということになります。

 しかし、これでは撤回が権利として労働者に付与されたとみることはできません。

 もし、手続きを「撤回を会社が認めた場合」としたらどうなるんでしょうかね。

 まぁ、ここまで露骨なことをしないまでも、「3年経過後に撤回できる」とか、「撤回に正当な理由が必要」などとしてしまえば、事実上、撤回が困難になるでしょう。

 なので、ほとんど意味がないです。

 もっと、直接的に、「対象労働者は、いつでも同意を取り消すことができる。」とかにしてしまえばいいと思うのですが、そうしないのはなぜなのでしょう?

苦情処理

 次は8号です。

八 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

 これは、とりあえず苦情処理手続き決めておけよ、ということです。

 まぁ、おまじないのようなもんです。

不利益取り扱い禁止

 9号は、

九 使用者は、この項の規定による同意をしなかつた対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

 同意しないからといって、不利益な扱いをしてはいけないよ、ということです。

 一応、こうした定めがあるので、不利益な扱いはしてはいけないのですが、企業も馬鹿じゃないので、「こいつ、高プロの導入に同意しなかったから嫌がらせしまーす」というのはありません。

 だいたい別の理由をひねり出して不利益な扱いをするわけです。

 ですので、ないよりはあった方がいい条文ですが、実効性は高くはありません。

その他

一〇 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

 その他もろもろ厚労省が定めたら、それにも従えよ、ということです。

 以上の、後編から真の後編にかけての1号~10号までを委員会で決議しなさいよ、ということです。

実施状況の報告義務

 条文の第2項は次の通りです。

前項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項第四号から第六号までに規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。

 使用者は労基署へ104日の休日の措置などの実施状況について報告義務があります。

裁量労働制からの引用

 第3項は裁量労働制の条文からの準用です。

第三十八条の四第二項、第三項及び第五項の規定は、第一項の委員会について準用する。

 労基法38条の4の第2項は裁量労働制の委員会について定めた条文です。

 ざっくりいうと、次のことが定められています。

 ・委員会の半数は、労働者代表とすること。

 ・議事録を作って、保存して、労働者に周知すること。

 これを高プロの場合も準用するよ、ということです。

 労基法38条の4の第5項は条文の読み替えが書いてありますが、ここは細かい話なので割愛します。

 第4項は、裁量労働制において、委員会の委員は、厚労省が定める指針に従うように決議しないとダメだよ、という条文の引用です。

第一項の決議をする委員は、当該決議の内容が前項において準用する第三十八条の四第三項の指針に適合したものとなるようにしなければならない。

 高プロでも指針を作ることを想定しているので、この条文が必要になります。

行政官庁は、第三項において準用する第三十八条の四第三項の指針に関し、第一項の決議をする委員に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

 第5項は、労基署は委員に助言・指導をすることができるよ、という条文です。

 あとは18歳未満には高プロは使えないよ、とする60条1項と、高プロの委員会の決議は周知しなければいけないよ、という106条の修正があります。

第六十条第一項中「及び第四十条」を「、第四十条及び第四十一条の二」に改める。

第百六条第一項中 (略)「第三十八条の四第一項及び第五項」を「第三十八条の四第一項及び同条第五項(第四十一条の二第三項において準用する場合を含む。)並びに第四十一条の二第一項」に改める。

まとめ

 以上が法案の全部です。

 どこかに成果で賃金とか書いてあったでしょうか?

 書いてないですよね。

 それが、政府のウソですし、一部のマスコミが政府の説明を信じて垂れ流してきたウソなのです。

 こうした高プロが、6月19日に採決を強行するというウワサがあります。

 すでに、ヒアリングした12名というのも、後付けだったことが判明しています。

 一体、だれが、どう望んだ制度なのでしょうか?

 多くの疑問や疑念、そして懸念を抱えたまま、とにかく採決ありきで進んでいる現状を非常に危惧しています。

 

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【転記】猫でもわかる残業代ゼロ法に関する記事①