大きな話題となっている、ワレリー・ゲルギエフさんとウィーン・フィルの来日公演を聴きに行きました。1月末のエサ=ペッカ・サロネン/フィルハーモニア管弦楽団(マーラー9番)以来となる、久しぶりの海外のオーケストラのコンサートです!

 

 

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2020

オープニング スペシャル・プログラム

(サントリーホール)

 

指揮:ワレリー・ゲルギエフ

ピアノ:デニス・マツーエフ

チェロ:堤 剛

 

プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第2番ト短調

チャイコフスキー/ロココ風の主題による変奏曲イ長調

ストラヴィンスキー/バレエ音楽『火の鳥』(全曲、1910年版)

 

 

 

実は、この今年のウィーン・フィルの来日公演、もともと聴きに行く予定はありませんでした。ロシアものの曲が多く、敢えてウィーン・フィルで聴かなくてもいいかな?昨年にクリスティアン・ティーレマンさんとの来日公演のブルックナーやR.シュトラウスをたっぷり楽しんだので、オーストリア・ドイツ系の作曲家のプログラムの時にまた聴きに行けばいい。当初はそう考えたからです。(注:例年11月は海外オーケストラの来日公演のラッシュなので選択を強いられる)

 

(参考)2019.11.5~15 クリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルの2019年来日公演

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12542677853.html

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12544479211.html

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12545690911.html

 

 

 

ところが、コロナ禍で海外のオーケストラの来日公演が次々キャンセルとなり、ウィーン・フィルも同様にいずれキャンセルになるんだろうと思っていたところ、どうやらウィーン・フィルだけは特別に来日するようだ、との観測が流れました!

 

これはヨーロッパの国々がコロナで再びロックダウンを強いられる中、ウィーン・フィルという世界最高のオーケストラを特別に受け入れることで、日本が比較的上手くコロナに対処できていること。そして日本が芸術文化に大いなる価値を抱く国であること。この2点を全世界にアピールする極めて有意義な出来事になる、そう直感で受け取りました。

 

そうであれば、本ブログでウィーン・フィルの大ファンであることを何度も公言している自分が、その特別で貴重なコンサートに参加しない訳にはいかない。ウィーン・フィルを直接、歓迎しに行かなくてどうするのか?、という想いが強くなり、急きょチケットを取ったしだいです。サントリーホールでは追加公演も含め計5日公演がありますが、ここは初日のオープニング・スペシャル・プログラムを聴きに行くのがいいでしょう。

 

 

 

まずはプロコフィエフ。ピアノ協奏曲第2番は古今東西のピアノ協奏曲の中でも特に好きな作品です。よく演奏される3番よりも断然好み。デニス・マツーエフさんのピアノがとても楽しみです。

 

 

第1楽章。冒頭のウィーン・フィルの弦のグリッサンドばりの上昇旋律の妖しさにまず唖然!マツーエフさんのピアノは一音一音のニュアンスが豊かで様々な感情を呼び起こす素晴らしいピアノ!弦楽がいよいよ主題をトゥッティで弾き始める場面の、ギアを上げた踏み込み感にグッと来ます。序盤だけでもうクラクラする展開。

 

マツーエフさんのカデンツァの入りはルバートを利かせて雰囲気たっぷり。カデンツァでは最初は副旋律の方を強調して、無力感や漂い流されていく雰囲気をよく出していました。カデンツァ後半のガガーン♪と楔を入れながらの超絶アルペジオは、強烈なピアノの連続の中に、さらにニュアンスてんこ盛りで圧巻!何というスリリングなピアノ!

 

そしてカデンツァが終わると、まるで最後の審判のように襲い掛かるウィーン・フィルのトロンボーン!聴き応え満点の第1楽章!

 

(参考)プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第2番より第1楽章。あらゆるピアノ協奏曲の中でおそらく最も難しいと思われる長大なカデンツァは6:23~、さらに超絶アルペジオは9:23~。人間って、こんな凄いことができるんですね!また、こんな壮絶な音楽を書いたプロコフィエフ、天才としか言いようがありません。

https://www.youtube.com/watch?v=yDv4UjleX_Y (12分)

※Oxana Shevchenkoさんの公式動画より

 

 

第2楽章は全速力で進み息を付く暇もないピアノが見事!また、速いテンポの中、ウィーン・フィルの楽器の明滅が素晴らしく、特にオーボエやフルートにはウィーン・フィルならで音色を堪能できます。

 

第3楽章。ジャズっぽい旋律をニュアンスたっぷりで進ませるマツーエフさんのピアノが素晴らしい!やるせないフルートのグリッサンドと心に沁み入るヴァイオリンが素敵。

 

第4楽章。激しいオケの入りが強烈!そしてピアノがリズムを刻む場面は、よくぞこんなにと感嘆するほど、一音一音のニュアンスの付いた見事なピアノ!中間部の叙情的な音楽の寂しさといったら!

 

そして、そのピアノによる永遠の静寂に惹き込まれていたら…、突然のオケの爆発にビックリ!ここで冒頭の主題が帰ってくることはもちろん分っているのですが、マツーエフさんの惹き込まれる静寂のピアノ、気配を感じさせず突如襲い掛かるウィーン・フィルに、まるで初演を聴いているような感覚。最後も見事に決まりました。

 

 

いや~、全く見事な2番!しかも、暴力的、破滅的な印象の強い2番を、叙情的で美しい曲とさえ感じさせた、マツーエフさんとゲルギエフさんとウィーン・フィルによる圧巻の2番でした!

 

 

 

続いてチャイコフスキー。ロココ風の主題による変奏曲は、正直あまり好みの曲ではありません。美しいものの、あまり面白さを感じない曲という印象…。しかし、堤剛さんの何とも含蓄のあるチェロ、ウィーン・フィルとの素晴らしい掛け合いにより、こんなに素敵な曲だったのか!と大いに惹き込まれました。

 

全般的にはロココの雰囲気のしっとりした美しさに魅了され、また、短調の場面を堤剛さんが切々と聴かせた哀愁の念にグッと来ました。もしかすると、この曲はバリバリ弾いても味が出るものではないのかも?初めてこの曲の良さを実感できた素晴らしい演奏でした!

 

堤剛さんのチェロは、マツーエフさんの強靱なピアノとは対極で、まるで見事に熟成したウイスキーのよう。力強さでは譲るかも知れないけど、年を経て円やかになり味わい深い。この素敵な演奏を聴きながら、こんな風に歳を取れたら本当にいいな、しみじみ感じました。このチェロの良さを十分に堪能できた自分を、私は誇りに思います。

 

 

 

後半はストラヴィンスキー/火の鳥。ゲルギエフさんの火の鳥は、2014年のマリインスキー歌劇場管弦楽団との来日公演での火の鳥が素晴らしかった思い出があります。ウィーン・フィルだとどうなるのでしょうか?

 

(参考)2014.10.15 ワレリー・ゲルギエフ/マリインスキー歌劇場管弦楽団のストラヴィンスキー3部作

https://ameblo.jp/franz2013/entry-11940583043.html

 

 

冒頭の低弦は不気味な響き、背後に邪悪な存在をビンビン感じます。カスチェイの魔法にかかった庭の場面が続きますが、ウィーン・フィルの雅さを感じさせる音色で聴くと、まるで古いお城のよう。ルーマニアにある吸血鬼ドラキュラの居城のモデルとなったブラン城の暗い夜を思い浮かべました。

 

火の鳥の踊りは雰囲気持ちつつリズミカルなクラリネットがとてもいい感じ。王子が捕まえる場面の、火の鳥の驚きの間は、ミハイル・フォーキン振付の美しいバレエのシーンを思わせます。13人の王女たちのホロヴォードのワクワク感がいい!夜明けのホルン→フルート→オーボエ→チェロのリレーは、ウィーン・フィルの音色を存分に堪能でき、陶然となりました!

 

カスチェイの城の場面は、まるで王子が鏡の中に入り込み、その鏡が割れてバラバラになるような、まるで次元が変わったかのような響きの変容。ウィーン・フィルの表現力の凄さを大いに実感できます。カスチェイ一味の凶暴な踊りの前の木琴の連打は、開演前と休憩中に木琴奏者が熱心に練習していましたが、本番では力強く叩いて見事な演奏。GJ!

 

カスチェイ一味の凶暴な踊りはウィーン・フィルが全開となってど迫力!そしてゲルギエフさんはテンポを頻繁に変えてスペクタクルな展開、大いに盛り上げます!続く叙情的な子守唄は、テンポを思い切り落としてたっぷり歌っていました。深い闇の音楽の繊細な弦、そして長調への転調は、次のホルンを呼び込む素晴らしい音楽!

 

そしていよいよ大団円の音楽。朗々と吹かれる圧巻のウィンナ・ホルン!続くハープとヴァイオリンが何と繊細で美しいことか!もう涙涙…。最後の金管はこれまで火の鳥を聴いた中で最もゆっくりたっぷり!人々が手を繋いで不死鳥の羽ばたきを表した、モーリス・ベジャール振付の火の鳥の感動的なエンディングを想起させる、壮大なラストでした!

 

(参考)ストラヴィンスキー/バレエ音楽「火の鳥」よりフィナーレ

https://www.youtube.com/watch?v=rYcz-g8WpMc (3分)

※CMajorEntertainmentの公式動画より、グスターボ・ドゥダメル/ロサンゼルス・フィルの演奏

 

 

 

いや~、凄い!!!凄すぎた!!!ゲルギエフさんとウィーン・フィルの火の鳥、もう圧巻でした!!!

 

ロシアものなので聴きに行かなくてもいいかな?なんて、一体誰が言ったんだ?(あなたでしょ!笑)

 

 

私、もう全力で反省しましたが(笑)、よくよく考えてみれば、ウィーン国立歌劇場ではバレエもよく上演されるので、ウィーン・フィルのみなさんはストラヴィンスキーのバレエ音楽はお手のもの、なのかも知れませんね。火の鳥の物語、バレエの光景が目に浮かぶ、しかもウィーン・フィルの雅でどこか懐かしい音色による、おとぎの国の雰囲気たっぷりの最高の火の鳥でした!

 

 

 

アンコールはこれまでの公演ではチャイコフスキーだったそうなので、今日もそうかな?と思っていたら…、何とJ.シュトラウスⅡ/ワルツ「ウィーン気質」!もう大好きなワルツです!ウィーナ・ブリュッ~ト、ウィーナ・ブリュッ~ト♪演奏は言うまでもなく、最高でした!

 

(参考)J.シュトラウスⅡ/ワルツ「ウィーン気質」

https://www.youtube.com/watch?v=aCuB6KxXb58 (9分)

※EuroArtsChannelの公式動画より、ズービン・メータ/ウィーン・フィルの演奏

 

 

ノリノリでこのウィーン気質のワルツを聴きながら私が思ったのは、これはウィーン気質、ウィーンの流儀の表明なのでは?ということ。今回の来日公演ではオケの全員が頻繁にPCR検査を受けて、ホテルに缶詰で、その上で他のオケのようにSD仕様にはしないで、通常の距離で演奏。伝統を守るウィーンのプライドを強く感じました。

 

また、コロナでSD(ソーシャル・ディスタンス)が強いられる中、その対極の世界である、人と人が密着するワルツをアンコールにするなんて、何という粋な計らい!私はウィーンのこういう粋なところが大好きなんです!

 

(なお、オペレッタ「ウィーン気質」のツェドラウ伯爵とガブリエーレ伯爵夫人にちなんだ感想も書きましたが、際どい内容なので、掲載は見送りました、笑)

 

 

 

ワレリー・ゲルギエフさんとデニス・マツーエフさんと堤剛さんとウィーン・フィルのコンサート、圧倒的な素晴らしさでした!!!終演時間は何と21:40!長い時間に渡り、ウィーン・フィルの素晴らしい音色と響きを存分に楽しむことができ、ひたすら幸せな時間でした。

 

 

そして、この日のプログラムは、プロコフィエフ2番のカタストロフ&やるせない感情から、幸せだったロココの時代の回想、火の鳥による復活と明るい未来を感じる希望の音楽、最後は幸せなワルツという流れです。正にいま我々が直面しているコロナとの闘いの中、ウィーン・フィルが火の鳥のように飛来して、明るい未来を照らしてくれた。そんなストーリーを連想させます。

 

このオープニングの公演を選択したのは、ウィーン・フィルを真っ先に出迎えに行きたいという理由なので、このプログラムを聴いたのは全くの偶然でしたが、何と感動的なことか!「音楽の力」をまざまざと感じた最高のコンサートでした!来日していただき、本当にありがとうございました!

 

 

 

(写真)今年1月にニューイヤーコンサート、そして創立150周年の記念コンサート(ベ-トーベンほか)を聴いたムジークフェライン。ウィーン・フィルの本拠地です。150周年はコロナで大変なことになりましたが…、上記感想のように、この来日公演がコロナ禍の中での希望となり、明るい未来につながるといいですね!