大野和士さんと都響のコンサートを聴きに行きました。先日の鈴木優人/読響に続いて、楽しみなオール・ベートーベン・プロです!

 

 

東京都交響楽団都響スペシャル2020

(サントリーホール)

 

指揮:大野 和士

ヴァイオリン:矢部 達哉

チェロ:宮田 大

ピアノ:小山 実稚恵

 

【矢部達哉・都響コンサートマスター30周年記念】

ベートーベン/ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲ハ長調

ベートーベン/交響曲第3番変ホ長調《英雄》

 

 

 

前半はベートーベン/三重協奏曲。2月にアンネ・ゾフィー・ムターさんたちの演奏で聴いた時は、特にロッシーニの音楽に似ている印象を持った三重協奏曲でしたが、今日は都響の芳醇な響き、ソリスト3人のオケによく溶け込んだ卓抜な演奏で、まるでフランスの宮廷で聴いているかのように優雅でゴージャス。最初から最後まで夢のような時間を堪能できた、素晴らしい演奏でした!

 

都響のコンマス矢部達哉さんは、コンマス30周年なので三重協奏曲を、と提案されたそうです。自分だけがソリストとなり注目を浴びるヴァイオリン協奏曲でも良さそうなのに、敢えて三重協奏曲を選択して、みんなでアンサンブルを楽しんでお祝いにするところに、らしさを感じました。

 

 

 

後半はベートーベン/英雄交響曲。矢部達哉さんのコンマス30周年記念ということで、前半でソリストを務めた矢部さんが、後半もコンマスの席に着きます。ソリスト&コンマスで、これは大変なこと、ということでしたが、聴き終わっての感想は…、

 

 

生涯最高の極めて素晴らしい英雄!!!大野和士さんと矢部達也さんと都響の行き着いた、ベートーベンの魅力を120%伝える名演!!!

 

 

いや~、凄すぎました!改めて都響の素晴らしさを思い知りました!大野和士さんは強弱だったり、溜めだったり、曲想を高めるニュアンスをふんだんに盛り込んだ、往年の巨匠風の指揮!こういう演奏に当たるので、コンサート通いは止められないのです!!!

 

 

 

第1楽章。冒頭の弱音から強音に移行するゾクゾク感。途中盛り上がって不協和音になる場面の迫力満点の響き。ラストの弱音からだんだん盛り上がって、クライマックスを迎える期待感と高揚感。素晴らしい指揮と演奏にゾクゾクしっぱなしの第1楽章でした!

 

第2楽章。この楽章も最初から最後まで痺れっぱなし!何と深刻で雄弁、ベートーベンの魂を伝える凄みのあるオケ!冒頭からの葬送の音楽を、どれだけ雰囲気たっぷりに意味深長に演奏することか!この段階でもう涙涙でメロメロです…。

 

後は大野和士さんと都響の曲想を完璧に伝える大きなうねりに流されるだけ。途中、長調で盛大に盛り上がる場面、深刻な短調で深淵を見せる場面、大野和士さんの味付けは往年の巨匠を思わせるもので、オーソドックスな方向の中たっぷりのニュアンス、曲の素晴らしさがグイグイ伝わってくる見事な指揮でした。

 

第3楽章。ここは都響の軽快で小気味よい演奏が心地良いですが、第2楽章から第4楽章へ向けて、何か大切なステップを踏んでいることを実感する、期待感たっぷりの演奏。また途中の都響のホルン隊が立派なこと!今日もGJでした!

 

第4楽章。いよいよテンポアップして、素晴らしい変奏曲が展開されます。特に、短調で走る場面でのテンポ感と弦楽の躍動感が絶妙!ここは立ち昇る木管も聴きものですが、都響の木管が上手すぎて唖然!繊細で緻密で美しい都響サウンドを大いに堪能できます。

 

ベートーベンの音楽に心踊らせながら、私のベートーベン生誕250周年は、この第4楽章の旋律で開幕したことを思い出しました。原曲はバレエ音楽/プロメテウスの創造物ですが、さらには、1月1日にウィーン・フィルのニューイヤーコンサートで聴いた「コントルダンス」です。ベートーベンがその旋律に託した人間賛歌を大いに感じて、脳裏には、農民たちのことを温かく見つめて描いた、ブリューゲルによる農民の踊りの絵画が思い浮かびました。これは感動しました!

 

(参考)2020.1.1 アンドリス・ネルソンス/ウィーン・フィルのニューイヤーコンサート2020

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12577794239.html

 

 

 

私はこの一年で英雄交響曲を聴くのは3回目でした。過去2回は、昨年11月に聴いたヘルベルト・ブロムシュテット/N響、そして今年7月に聴いた「映像ノット」で話題になったジョナサン・ノット/東響です。

 

(参考)2019.11.6&7 ヘルベルト・ブロムシュテット/N響のベートーベン&R.シュトラウス&ワーグナー

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12543250582.html

 

(参考)2020.7.25 ジョナサン・ノット/東響のストラヴィンスキー&ベートーベン(映像ノット)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12613634837.html

 

 

この2つのコンサートは、昨日のことのようによく覚えているので、今日の大野和士/都響の演奏を聴くに当たり、いい比較になりました。プログラムの「前半」に英雄交響曲を配して、速いテンポで勝利の凱旋のように突き進み、後半のR.シュトラウスとワーグナーとのプログラムの妙を感じたブロムシュテット/N響。チャレンジングな「映像ノット」の試みを通じて、指揮者が指揮台にいる意味を大いに考えさせられた、非常に貴重な機会となったジョナサン・ノット/東響。

 

2つのコンサートを経験した上で聴いた今日の大野和士/都響は、「サントリーホールで聴く極上の都響サウンド」を活かした、英雄交響曲の魅力を衒いなくストレートに伝える、文句なしに素晴らしい演奏!さらに、大野和士さんは曲想を高めるたっぷり目のニュアンスを随所に付けて、巨匠風の指揮!真に感動的な演奏でした!

 

 

素晴らしい演奏に拍手は鳴り止まず。オケが下がった後に、大野和士さんと矢部達哉さんが出てきて、さらにヒートアップ、1階席はみな立ち上がって、スタンディングオベーションでした。観客のみなさんはよく分っていますね。

 

 

繰り返しですが、生涯最高の極めて素晴らしい英雄!!!これを聴くことができて、ただただ幸せでした!大野和士さん、ありがとうございます!矢部達也さん、コンマス30周年おめでとうございます!都響のみなさま、最高でした!また聴きに行きます!

 

 

 

 

 

(写真)ということで、大野和士/都響による最高の英雄交響曲でしたが、興奮冷めやらぬ中、もはや飲まずには帰れなくなり(笑)、バーに立ち寄りました。何を飲むのか?それは少し考えて、すぐに決まりました。B&B(ビー・アンド・ビー)です。

 

ブランデーとベネディクティン、フランスを代表するスピリッツとリキュールにより作られるカクテル。そのブランデーとベネディクティンの頭文字「B」がカクテルの名前の由来です。

 

この日のコンサートのプログラムの解説では、ベートーベンの2曲がいかにフランスに関連した曲かを物語る内容でした。片やフランスで流行っていた協奏交響曲、片やナポレオンにまつわる曲。それを読んで気分はすっかりフランスに。なので、フランスにちなんだお酒を飲むことにしたんです。そして、フランスにちなんだお酒の中で、どうしてB&Bを選んだのか?

 

それはこの日のプログラムがベートーベン2曲だったからです。B&B(ベートーベン&ベートーベン)!(笑) こういうところに大いに悪知恵(笑)が働くのが、フランツならではのお酒の楽しみ方です。

 

 

B&B、しばらくぶりに飲みましたが、めちゃめちゃ美味い!このカクテル、ブランデーもベネディクティン(フランスの修道院で造られる27種類の薬草によるリキュール・配合は門外不出)も単品で飲んで抜群に美味しいお酒ですが、合わせると、また別の魅力が生じる、正に1+1が3にも5にもなるカクテル。ケミストリーを大いに感じます。

 

それは、指揮者とコンサートマスターの関係にも言えるでしょう。プログラムに載っていた矢部達也さんのインタビューでは、1990年代、矢部さんと同時期に都響のコンサートマスターだったジェラルド・ジャーヴィスさんからの教えとして、「(コンマスが指揮者に合わせることはもちろん大事だけれど)自分が持っているものを出して、その上で指揮者の解釈を受け入れることが大事だ、ということを、ジャーヴィスさんから学んだ」とあったのが、とても印象的でした。

 

 

大野和士さんと、矢部達也さんがコンサートマスターを務める都響。そのケミストリーにより実現した英雄交響曲の名演!それを聴いた後に楽しんだ、ブランデーとベネディクティンの協演による極上のB&B。コンサートもお酒も、人々が力を合わせて造り出すものがいかに素晴らしいことか!最高の英雄交響曲の余韻に浸り、その曲の理念を噛みしめながら楽しんだB&Bは、実に味わい深い一杯となりました。