今年もヘルベルト・ブロムシュテットさんがN響に客演される!その楽しみなコンサートを両日聴きに行きました。ベートーベン、R.シュトラウス、ワーグナーという充実のプログラムです!

 

 

NHK交響楽団第1924回定期演奏会Bpro.

(NHKホール)

 

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

 

ベートーベン/交響曲第3番変ホ長調「英雄」

R.シュトラウス/交響詩「死と変容」

ワーグナー/歌劇「タンホイザー」序曲

 

 

 

まずはベートーベン。第1楽章。ブロムシュテットさん、冒頭から92歳の年齢を感じさせない、活き活きとしたベートーベン。締めのダッダッダッダッダッダッ!の、前のめり感がとてもいい。中間部の不協和音の場面もあまり溜めず、インテンポ気味に突き進みました。最後のティンパニのダダダダン!も気持ち良いですね。

 

第2楽章。冒頭からそんなには引きずらない演奏。オーボエのソロが本当に素敵。長調の高まりの場面は格調高く。その後の短調になっての、クラリネットが合いの手を強めに入れるのもいいですね。N響の木管のクオリティの高さを感じます。

 

そして、この曲のクライマックスとも言うべき短調の深淵を見せる場面は、意外にあっさりしていた印象。この時点では、今日は第2楽章ではなく、第4楽章に力点を置く解釈なのかな?と思いました。

 

第3楽章。この楽章は通常よりも音量を上げていた印象、やはり尻上がりの英雄なのか?途中の正にホルンの見せ場という場面は、N響のホルンが痺れるほど上手い!

 

第4楽章。さあ、どう第4楽章を盛り上げるのか?と身構えていましたが、これが意外にも、かなりスピーディな演奏!(2日目はそれなりに盛り上げていましたが)あっと言う間に終わったという印象の第4楽章でした。

 

 

あたかも昨年4月に聴いた第4番の再現のような、筋肉質で疾走する英雄という印象でした。大曲かつ曲想が異なるので、第4番と似たアプローチで、果たして十分な表現描写や効果を得られたのか?と、この時点ではいささかの疑問も?

 

しかし、ブロムシュテットさんはN響に指でGJ!のポーズ。全体的には、第2楽章はあるものの、まるで勝利の凱旋、突き進む英雄、という印象を持ちました。

 

 

 

後半は死と変容から。R.シュトラウスの交響詩の中で一番好きな曲です。冒頭のすすり泣くようなヴィオラ!明らかに英雄とは異なる雰囲気を醸し出します。

 

ティンパニの激烈な一発から襲いかかる金管!続く低弦とコントラファゴット!そして悲劇の頂点に向かう場面では、この日ほとんど初めてと思われるアッチェレランド!ブロムシュテットさんの意図、英雄との描き分けをよく感じます!

 

長調に転じて、優しい弦楽に乗ったフルートの音色に何とホッとすることか。覚悟を決めるような決然としたホルンの素晴らしさ!そして大好きな魂の飛翔を感じる、R.シュトラウス得意のヴァイオリンの高音!マロさん率いるN響のヴァイオリンのみなさまが素晴らし過ぎる!

 

そしてその旋律をヴァイオリンと木管がリレーして慈しみを感じる大好きなシーンに移りますが、ブロムシュテットさん、何と、その前にはっきりルフトパウゼを入れてきました!これはかなり痺れました!

 

そしていよいよ登場する浄化の動機。N響の美しいトゥッティ!そして高まってヴァイオリンの音が消えていく名残がまたいい!サントリーホールの音響の素晴らしさを堪能できる瞬間!

 

最後の盛り上がりの前の魂の浄化の場面は、コントラバスの芯のある二拍子が印象的。ここを聴くと、パルジファルの場面転換の場面の音楽を思い出します。テンポよくかつ強めに進む二拍子ですが、その間に悠久の時をも感じる壮大さ!

 

そして、最後の高まりの場面は大きく盛り上げて、R.シュトラウスを聴く喜び!N響の濃密な弦楽、見事なトゥッティに、天に召されそうになる瞬間!素晴らしい死と変容でした!

 

 

火曜日にはクリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルで、最高のばらの騎士組曲を聴きましたが、3日連続してサントリーホールでR.シュトラウスの大好きな曲を、それも素晴らしいオケで聴けた喜び!

 

 

 

最後はワーグナー。タンホイザーは大好きなオペラですが、序曲も聴き応え満点の音楽です。そもそもブロムシュテットさんのワーグナー自体が珍しい。果たしてどんなワーグナーになるのでしょうか?

 

冒頭のホルンがもう完璧!音程のみならず、あたかも弦楽器を操るかのような微妙なニュアンスが素敵です。チェロの懺悔の動機の何とも言えない深々とした響き。昨日はウィーン・フィルの素晴らしい弦楽を堪能しましたが、N響もさすがですね!

 

そしていよいよ巡礼の動機が全開に。ザクザクとリズムを刻む弦楽、朗々と吹かれるホルン、N響による広がり感を思わせる響き、タンホイザーを聴く至福!その後のヴェーヌスベルクの場面は、N響の木管のみなさまによる名人芸、めくるめく音楽の展開が素敵。

 

そしてヴェーヌスベルクの場面もほどほどにフィナーレに向かいます。今日はパリ版でなく、ドレスデン版でしたが、今日のこのプログラムの並びでは、凝縮したドレスデン版の方が相応しいように思いました。最後の金管による高らかな巡礼の動機が見事!圧倒的な高揚感とカタルシスと感動!素晴らしいタンホイザーでした!

 

 

 

いや~、ヘルベルト・ブロムシュテットさんとN響による素晴らしい演奏!特に後半のR.シュトラウスとワーグナーは、N響のオケの卓越した機能が全開となった、文句なしの名演だと思いましたが、それはプログラムによるそれぞれの曲の描き方の違いも理由なのかも知れません。

 

 

今日は英雄→死と変容→タンホイザーという凝ったプログラム。いずれも一人の男性が主人公の曲というのはすぐに分かりましたが、なぜラストでも良さそうな一番長い英雄を、敢えて最初に持ってきたのか?ここがポイントだと思います。

 

ブロムシュテットさんとN響の演奏を注意深く聴いて私が感じたのは、前半の英雄はその男性の若い頃、困難には直面するものの、どちらかと言えば順風満帆な時代。後半のR.シュトラウスは年齢を経て病魔との格闘や、そんな中でも枯れることのない芸術を想う強い信念。そしてタンホイザーでは、最後に訪れた救済。演奏のニュアンスから、そんな印象を持ちました。

 

若い内は元気でバリバリ進めて行けても、歳を取れば誰にも綻びや苦難が訪れる。そんな中で、どう自分らしく生きることができるか?信念を貫き通せるのか?そういう場面での生き様こそ大事、そこで男の価値が決まる。そんなことを思いながら聴きました。

 

それを強く想わせたのは、回り道せずに、順調に、推進力を持って進めた英雄。そして、N響が燃えに燃えて、最も白熱し、そして格闘した死と変容の演奏。そしてヴェーヌスベルクの場面が限られ、救済を意味する巡礼の動機がより心に響くドレスデン版のタンホイザー。最後高らかに、そして清々しく鳴り響く巡礼の動機には、涙を禁じ得ませんでした…。

 

 

ということで、私は一人の男性の生き様を、通して描いた絶妙なプログラムと演奏、という印象を持ちました。こういうのを楽しむのも、コンサートを聴きに行く醍醐味なんだと思います。他のよくコンサートを聴きに行っている方々が、このプログラミングにどんな感想を持ったのか?いろいろ見てみると面白いかも知れませんね。

 

 

さらに、今回の公演は、サントリーホールを造った佐治敬三さんの生誕100周年を記念する公演でもありました。「山崎」や「響」を始めとした偉大なウイスキーを創りつつ、コンサート専用のホールであるサントリーホールを造られたのは正に偉業としか言いようがありません!。偉大な男を回顧するに、誠に相応しいプログラムだと思いました。これは果たして偶然なのでしょうか?

 

 

(参考)2019.3.10 サントリー山崎蒸留所観光

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12446324812.html

 

 

 

 

(写真)素晴らしいプログラミングのコンサート、ブロムシュテットさんとN響の感動の名演、佐治敬三さんの生誕100周年のお祝い、ということで、終演後は猫まっしぐら(笑)、サントリーのウイスキーを飲みにバーに立ち寄りました。

 

何度となくブログに書いているように、私は山崎12年をこよなく愛していますが、今日の英雄の変ホ長調の響きには、響17年が合うように思います。佐治敬三さん、クラシック音楽のファンにサントリーホールをプレゼントしていただき、本当にありがとうございます!