この7月は、王様と私、トゥーランドット、エイフマン・バレエ2作品と、舞台公演を沢山楽しんで来ましたが、そのトリを飾るめっちゃ楽しみにしていた公演を観に行きました。バーンスタインのミュージカル/オン・ザ・タウンです!


 

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2019

兵庫県立芸術文化センター東京公演

(東京文化会館大ホール)

 

バーンスタイン/オン・ザ・タウン

 

指揮:佐渡 裕

演出:アントニー・マクドナルド

ムーヴメント・ディレクター:ルーシー・バージ

振付:アシュリー・ペイジ

装置・衣裳デザイン:アントニー・マクドナルド

照明デザイン:ルーシー・カーター

音響デザイン:佐藤 日出夫

合唱指揮:矢澤 定明

 

ゲイビー:チャールズ・ライス

チップ:アレックス・オッターバーン

オジー:ダン・シェルヴィ

アイヴィ:ケイティ・ディーコン

ヒルディ:ジェシカ・ウォーカー

クレア:イーファ・ミスケリー

ワークマン1/ピトキン判事:スティーヴン・リチャードソン

マダム・ディリー:ヒラリー・サマーズ

ルーシー・シュミーラー/アンナ・デニス

ダイアナ・ドリーム/ドロレス・ドロレス/老女:フランソワ・テストリー

ドリーム・バレエ・ゲイビー/ロビン・ケント

アナウンサー/クラブMC:ポール・クリエヴィチ

ラージャ・ビミー/ビル・ポスター:アンドリュー・グリーナン

博物館館長:飯塚 励生

警官:ルーカス・ハント

 

アンサンブル:ロンドンオーディション選抜メンバー

合唱:ひょうごプロデュースオペラ合唱団

管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

 

 

 

(写真)楽しそうな公演プログラム!

 

 

 

昨年のバーンスタイン生誕100周年は、ウィーンや札幌の記念の公演も聴きに行き、最後はニューヨークでお墓まいりもして、バーンスタイン愛が疾走した一年でした。私にとって、この公演はあたかもそれらのシリーズの最後を飾るような企画、とても楽しみです。

 

(参考)2018.5.5&6 ダニエル・ハーディング/エリーザベト・クルマン/ウィーン・フィルのバーンスタイン&マーラー@ウィーン

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12390376173.html

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12392254228.html

 

(参考)2018.7.22 アウトウォーター/五嶋みどり/タイソン/PMFオーケストラのオール・バーンスタイン・プロ@札幌

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12392664911.html

 

(参考)2018.12.29 レニーのお墓参り(グリーン・ウッド墓地)@ニューヨーク

 https://ameblo.jp/franz2013/entry-12433939770.html

 

 

 

第1幕。冒頭は労働者の歌。「空気は柔らかいが、女房はもっと柔らかい」。このミュージカルでの憧れを思わせる気の利いた歌詞。舞台はブルックリンの海軍工場。船からゲイビー、チップ、オジーの3人の水兵が出て来て、有名な「ニューヨーク、ニューヨーク」の歌。歌詞の日本語訳が「素晴らしい街!」でなく、「どえらい街!」になっていたのが面白い。

 

地下鉄で移動中に「ミス改札口(地下鉄)」のアイヴィ・スミスのポスターに魅了されるゲイビー。自由を許された24時間の間にアイヴィとデートするぞ!、と無謀にも宣言します。若い情熱的な恋って本当にいいもんだ。佐渡裕さんは舞台転換の音楽など、非常にキレがあって勢いの良い指揮。さすがレニーの愛弟子です。

 

チップがヒルディの運転するタクシーに無理やり乗せられて(笑)の楽しいやりとりの歌。タクシーがガクンと止まって、チップが座席から投げ出され、その観光名所はもうないのよ、と言うヒルディが楽しい!

 

一方、オジーは自然史博物館に。「現代における男とは何ぞや?」を執筆中の文化人類学者クレアを口説くも、ピテカントロプスと同類にされるオジー(笑)。しかし、へこたれないオジーにクレアが豹変。クレアが「6000年前の昔に戻ろう」と言って、オジーを受け入れる歌には大いに共感しました。

 

私はNHKの日曜夜の生き物の番組が大好きですが、まっすぐな動物たちに比べ、現代人はあれこれ難しく考え過ぎて、自ら生きにくくしているように思います。もっと素直に、動物の本能も大切にしたらいいと思う。

 

アイヴィの情報を得られないゲイビーが一人で黄昏れて、「この街は寂しい、愛する人がいないのは寂しい」と心に沁みる歌。その後に展開されたバレエのシーンが何と素晴らしいことか!

 

最後はさきほどゲイビーの周りにいた沢山のカップルたちが、一人一人でアイスクリームを持ちながら合唱。カップルでありながら、結局は一人の寂しい人間であることを示していたと思われるとても印象的なシーン、グッと来ました!

 

舞台はカーネギーホールに。アイヴィの歌の先生マダム・ディリーは酔っぱらいでまるでレニーのよう?(笑)「ポジション8で歌いなさい!」と指示されたアイヴィが、逆立ちで外れた歌を歌うのが楽しい!(笑)

 

 

 

(写真)カーネギーホール。冬の旅行ではNew York String Orchestraの公演を聴きました。下の写真は最寄りの地下鉄駅にあるレニーの肖像の作品。

 

 

ゲイビーがレッスン室に入って来て、ようやく会えたアイヴィにアプローチしますが、最初は全く相手にされません。しかし、丁寧にやりとりしてアイヴィを讃えるゲイビー。最後は心を掴んで、夜の11時にタイムズスクエアで待ち合わせの約束を取り付けました!最後まで諦めない、心を込めた真摯な気持ちは伝わる。とてもいいなと思ったシーン。

 

クレアの部屋。クレアがオジーとお楽しみのところ、ピトキン判事がエプロン姿で登場!今日は2人の婚約のお祝いの日なのに、それを忘れてオジーを連れてきたクレアに、「全て分かっているよ」と寛容なピトキン判事。最後は、自分は外出するので、クレアとオジーに「お楽しみに」とまで言い放つ放任主義!いろいろな形の愛がある、のでしょうか?(笑)

 

ヒルディの部屋。料理が得意だけど、最高の料理は私、と言ってチップに迫るヒルディ。際どい歌詞の連発が楽しい!これ、アメリカだったら、大爆笑の連続になるシーンだと思いますが、そこは奥ゆかしい東京の聴衆のみなさん。

 

アイヴィにデートの約束を取り付けたゲイビーが「僕が僕で良かった」と歌う歌は希望に溢れて本当にいい。しかし、マダム・ディリーに邪魔され、結局アイヴィと会えないゲイビー…。そしてラストのダンスはレニーの音楽が凄いのなんの!

 

コミカル、シリアス、変拍子、パロディ、何でもござれで、まるでストラヴィンスキー/ペトルーシュカの第4場の謝肉祭の日の夕方の音楽のよう!レニーって、やっぱり天才!ゲイビーたちを探すおばあさんのエンディングもいいですね。めっちゃ楽しい第1幕!

 

 

 

第2幕。冒頭のダイアモンド・ディーズ(ナイトクラブ)の踊り子たちの気の利いた踊りがいい!歌手が「いっそ死にたい」とブルーな歌を歌い、それを聴いて落ち込むゲイビー。お店を変えることにしますが、ちょうどピトキン判事が来て(クレアがこのお店で婚約を祝うことを忘れていた、笑)、気前よくテーブルのお勘定を払います。

 

明るいラテンのコンガカバーナ(おそらくコパカバーナのパロディ、笑)に場所を変え、雰囲気も盛り上がります。歌手は明るい音楽を歌いますが、歌詞はまたもやブルーな「いっそ死にたい」の歌!(笑)さらに落ち込むゲイビー…。

 

ここでヒルディが歌う「私がついている」の歌!ヒルディだけでなく、チップ、オジー、クレアと仲間たちが交互に「私がついている!」と歌ってゲイビーを励ます超感動のシーン!もう涙涙…。これはきっと第1幕の「寂しい街」との対比なのでしょうね。

 

例え愛が得られなくても、仲間がいれば生きていける。この人たちは今日出逢ったばかりですよ?非常に印象的なシーンでした。ちなみにクレアが「私の膨大な骨相学の知識もついている!」と歌ったのには大いに萌えましたが(笑)。

 

お店を変えてピトキン判事にお勘定を任せるのはお約束の流れ。次のお店では、歌手が出て来たら、ヒルディは歌わないようにお願いしてました(笑)。ヒルディいい奴!酔っ払ったマダム・ディリーとバッタリ出逢って、アイヴィはコニー・アイランドにいると教えてもらったゲイビー。すぐにコニー・アイランドへと向かいます。

 

三度(みたび)ピトキン判事にお勘定を任せて、みんなもコニー・アイランドに向かいますが、ここでとうとうピトキン判事が「分からない!」と叫んで、55歳にして初めて、物分かりの良すぎる男から脱皮する宣言!とてもユーモラスなシーンですが、人間いくつになっても変わることができる。実は深いメッセージなのかも?(笑)

 

コニー・アイランドに向かうゲイビー。激動の一日に地下鉄の中でウトウトしますが、アイヴィと夢の中で踊るシーンはバレエのみなさんの素晴らしい踊り!追いかける2組のカップルは「24時間は短いけど、いつかきっとまた会える」と希望を感じさせる歌。レニーのそこはかとない明るい音楽がまた絶妙!

 

舞台はコニー・アイランドに移り、最初の夢のある踊りのシーンも素敵。ゲイビーはトルコの踊りのお店で遂にアイヴィに再会します!感動の再会、そして抱き合う二人!しかし、怒ったピトキン判事もやってきて、全員を逮捕してしまいます!

 

ラストは冒頭と同じブルックリンの海軍工場。水兵の3人は逮捕というよりは強制退去で船に帰りますが、ピトキン判事に許された女性陣3人がお別れに駆け付けます!しかもヒルディの運転するタクシーで!ヒルディ、GJ!最後の別れを惜しむ3組のカップル。ラストは登場人物が全員出て来て「ニューヨーク、ニューヨーク」を全員で歌って終わりました!最後の「たいした街」の字幕も絶妙!

 

 

 

佐渡裕さんのオン・ザ・タウン、指揮者・歌手・オケ・演出・舞台と揃って素晴らしい公演でした!ウエスト・サイド・ストーリーは何度も観ていますが、オン・ザ・タウンの実演を初めて観ることができ、それもこんなに素晴らしい公演で観ることができ感無量!冬にニューヨークに旅行に行ってきたばかりなので、ニューヨークの馴染みのある地名も沢山出てきて本当に楽しめました。

 

そのニューヨーク旅行ではブロードウェイ・ミュージカルを9本観てきて、どの作品の音楽も大いに楽しめましたが、その上でオン・ザ・タウンを聴くと、いかにレニーの音楽が斬新であるのかがよく分ります。クラシックはもちろんのこと、ジャズやブルース、ラテンなど様々な様式の音楽を盛り込むとともに、調性だったり、リズムだったり、攻めてる音楽が本当に凄い!

 

レニーの作曲家としての才能を十二分に堪能できた公演でもありました!佐渡裕さんを始め、アーティストのみなさま、本当にありがとうございました!バーンスタイン生誕100周年のシリーズの最後を飾るに相応しい素晴らしい公演でした!