ということで、昨日はパーヴォ・ヤルヴィさんとギル・シャハムさんとN響による、オーストリアの作曲家の素晴らしいコンサートを聴きましたが、時間は前後しますが、その前に国立新美術館でウィーン・モダン展を観てきました。

 

この美術展は日本・オーストリア外交関係樹立150周年を記念して、ウィーンはカールスプラッツにあるウィーン・ミュージアムの増改築に伴う閉館中に、そのコレクションを東京で披露するものです。ウィーンの世紀末芸術を中心に、それらがどのように形成されていったのかを、その前の時代の美術も含め、流れを追って理解できる素晴らしい企画です。

 

 

ウィーンの美術の流れの解説では、おさらいも含め、特に以下の解説が印象に残りました。

 

◯ヨーゼフ2世の啓蒙主義に基づいた社会の改革。それを通じて、ウィーンは自由な精神を持つ知識人たちを魅了し、文化の中心地へと変貌した。

◯ビーダーマイヤーは19世紀後半の風刺小説の登場人物「ゴットリープ・ビーダーマイヤー」に由来し、「小市民」を意味する。この時代の生活様式と精神構造を表す。

◯ビーダーマイヤーの銀器は、装飾を排し、素材の本質を追求する、シンプルなフォルムと機能性が考慮されたデザインが特徴。モダン・デザインの先駆け。

◯ビーダーマイヤー時代の絵画はウィーン・モダニズムの幕開けと共に再評価された。

◯表現主義の時代、ウィーンでは、ヴィルヘルム・レントゲンによるX線の発見やジークムント・フロイトの「夢判断」などが、芸術家たちの想像力を刺激した。

 

つまり簡単に言うと、ウィーン・モダニズムは何もないところからぽっと出てきたのではなく、ビーダーマイヤーという下地があって、様々な分野での発展や革新に合わせるようにして出てきたもの、ということです。その大きな流れを沢山の美術作品とともに明快に表わしていて、とても説得力のある美術展でした。

 

 

それでは、具体的な絵画にまいりましょう!特に印象に残った絵画は以下の通りです。

 

 

 

(写真)フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー/バラの季節

※ウィーン・モダン展で購入した絵葉書より

 

明るい光と緑の広がりが素晴らしい絵。一見、セガンティーニの絵と間違いそうになるくらいの光の眩しさ!人物と牛、バラの花、奥の山の構図も見事です。

 

 

 

(写真)ハンス・マカルト/シャーロット・ヴォルター

 

私は人物画や肖像画にはそこまで興味を持っていませんが、マカルトの肖像画はいずれも素晴らしく、両脇のドーラ・フルニエ=ガビロン、ハンナ・クリンコッシュの肖像画ともども惹かれました。

 

 

 

(写真)グスタフ・クリムト/愛『アレゴリーとエンブレム』のための原画

 

幻想的な絵画。目をつぶってキスをしようとしている男女。上に見える様々な人の顔は運命の擬人像とのことでした。両脇に金箔、バラの花ですが金箔だと椿に見えてくる不思議。この絵はクリムトの有名な「接吻」の初期バージョンに当たる、ということでした。

 

 

 

(写真)グスタフ・クリムト/牧歌『アレゴリーとエンブレム』のための原画

 

これも非常に印象に残った絵。子供の世話をする母親の温かみを感じる絵。両脇に2人の男性は、やはり運命の擬人像でしょうか?母と子を見守っているような、運命を告げる存在のような?

 

 

 

(写真)ヨーゼフ・エンゲルハルト/ソフィーエンザールの特別席

 

一見して魅了された絵。面白い構図、女性の青に近い肌の色が印象的。クープグラスには黄金色の飲みものが入っていましたが、トカイ酒でしょうか?

 

 

(写真)ヨーゼフ・ホフマン/キャバレー・フレーダーマウスのロビー

 

キャバレー・フレーダーマウスは1907年、最先端の社交の場として、ウィーンの中心地にオープン。小劇場を兼ね備えたキャバレーということでした。「こうもり」という名前のキャバレーとは、洒落っ気があって素敵。キャバレーのすべてのデザインをウィーン工房が手掛けたそうです。

 

 

 

その他、絵葉書こそありませんでしたが、以下の絵の数々が特に印象に残りました。さすがウィーンの美術展。作曲家にちなんだ絵が多いのが特徴です。

 

 

◯ウィーンのフリーメイソンのロッジ

謎の多いフリーメイソンのロッジ内部を描いた珍しい絵。モーツァルトとシカネーダーと言われている人物も描かれていました!見てみたら、「おい、ここのシーンを取り入れような!」とか、2人で魔笛の構想を話しているかのように見えました。

 

◯ヴィルヘルム・アウグスト・リーダー/作曲家フランツ・シューベルト

◯ユーリウス・シュミット/ウィーンの邸宅で開かれたシューベルトの夜会(シューベルティアーデ)

「作曲家フランツ・シューベルト」はシューベルトの有名な絵。とても凛々しい。シューベルトは朝起きてすぐ作曲できるように、眠る時も眼鏡をかけて寝たそうな(笑)。シューベルティアーデの大きな絵はシューベルトのピアノに対する愛好家たちの様々な反応が伺えるダイナミックな絵。ピアノに座って得意そうなシューベルトの表情が本当に素敵。

 

◯フリードリヒ・フォン・アメリング/3つの最も嬉しいもの

黄色と白の服の女性を男性が後ろから抱きすくめる絵。男性の手には白ワインのグラス、女性はリュートを持っています。解説には「酒・女・音楽というこの世の享楽を描いた」とありました。どこかしら、フェルメールの寓意の絵を思わせます。

 

◯フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー/祖父の誕生日祝い

民族衣装姿の祖父を、沢山の孫が囲む微笑ましい絵。祖父の嬉しそうにしている笑顔が本当にいい感じ。状況をよく分かっておらず、きょとんとしていたり(笑)、様々な表情の孫たちも楽しい!

 

◯フランツ・ルス(父)/皇帝フランツ・ヨーゼフ1世

◯フランツ・ルス(父)/皇后エリーザベト

本当に綺麗なシシィ。白のドレスと首飾りも素敵。そしてウエストが細いの何の!(笑)ヨーゼフも凛々しい。

 

◯クリムト/旧ブルク劇場の観覧席

この時代の客席の華やかさがよく分かる素晴らしい絵で、女性陣のドレスが本当に綺麗。この旧ブルク劇場のボックス席は舞台に向かって真正面の席がほとんどない馬蹄形(笑)。やはり貴族の出逢いの場だったんでしょうね。

 

◯ハンス・マカルト/真夏の夜の夢

マカルトがいかに素晴らしい画家かよく分かる、あらゆる要素が渾然一体となった、大いなる感動を呼び起こす絵!

 

◯オットー・ワーグナー/聖レオポルト教会(シュタインホーフ)の内部

ウィーンのユーゲントシュティールの建築物の代表作です。本当にきらびやかかつ洗練されている装飾の教会。ガイドツアーでしか中には入れませんが、内部を観て回ることはなく、教会の席に座って1時間近くずっとドイツ語の説明を聞いた(笑)思い出がよみがえりました。このほか、郵便貯金局メインホールやマジョリカ・ハウスの陶器製ファザードなど、オットー・ワーグナーの有名な建築の作品がありました。

 

 

(写真)アム・シュタインホーフ教会

 

(参考)2018.5.5 オットー・ワーグナー没後100周年記念展(ウィーン市立美術館)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12390151402.html

 

 

◯ヴィルヘルム・ヴェルナツィク/炎

青地の背景に黄色の炎が印象的。炎を取り囲む女性たちは解説の通り儀式か何かのよう。炎なのに赤が出てこない、とても神秘的な絵。

 

◯アッター湖のクリムトとエミーリエ・フレーゲの写真

アッター湖やエミーリエ・フレーゲの絵は東京都美術館のクリムト展でも出てきましたが、ウィーン・モダン展では写真もありました。

 

◯グスタフ・クリムトのスモック

クリムトが実際に着たスモックの展示までありました!これを着て、猫を抱いていたことを思うと胸熱(笑)。動きやすく、作業がしやすいのでしょう。

 

◯コロマン・モーザー/シクラメンのある静物

一見、コロマン・モーザーらしくない絵ですが、シクラメンよりも鉢植えの方が目立っていたり、構図のバランスが取れていなかったり、何か気になる絵。

 

◯リヒャルト・ゲルストル/作曲家アルノルト・シェーンベルクの肖像

シェーンベルクが深く腰掛けて威厳のある有名な絵です。後にシェーンベルクの奥さんと不倫の関係になり、自殺をするゲルストルが描いた絵。非常に感慨深いものがありました。

 

◯アルノルト・シェーンベルク/グスタフ・マーラーの葬儀

これも有名な絵で、交流のあったカンディンスキーの絵に似ています。参列者の表情は分からず、背景の木々が風に吹かれて波打って、マーラーの激動の人生を表すかのよう。一人大きく描かれているのはアルマでしょうか?

 

◯オーギュスト・ロダン/作曲家グスタフ・マーラーの肖像

何と最後にロダン作のマーラーの顔の彫刻がありました!

 

 

 

ウィーン・モダニズム展、ウィーンの美術がどのように発展したのか、工芸や音楽も交えて体系的に観ることができ、素晴らしかったです!私はウィーンを第2の故郷のように思っているので、今後も度々訪れると思いますが、今回の企画展で体感したことは、現地の美術や工芸に触れる際に大いに参考になることでしょう。立派な図録も購入したので、読むのがとても楽しみです。

 

 

そして、冒頭の話に戻りますが、このウィーン・モダニズム展を楽しんだ後に、パーヴォ・ヤルヴィさんとギル・シャハムさんとN響のオーストリアの音楽のコンサートを聴きに行ったのです!

 

前回の記事で掲載した絵は、シェーンベルクが描いたベルクの絵でした。世紀末の作曲家に関連する絵画をいろいろ観た後に聴いたベルク/ヴァイオリン協奏曲。ウィーン・モダニズム展のクリムトやシーレの絵にシンクロする世界観を感じて、とても味わい深いものでした。

 

私がベルクのヴァイオリン協奏曲を特に好むのは、もしかすると世紀末のウィーンの絵画の存在が理由なのかも知れません。言うまでもなく、音楽と絵画には切っても切れない関係がある。これからも両方を楽しんでいきたいものです。

 

 

(写真)アルノルト・シェーンベルク/作曲家アルバン・ベルクの肖像

 

(参考)2019.6.14 パーヴォ・ヤルヴィ/ギル・シャハム/N響のバッハ&ベルク&ブルックナー

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12480415173.html