今年はモンテヴェルディ生誕450周年。6月には代表作である「聖母マリアの夕べの祈り」を初めて聴いて、勢いでマドリガーレのコンサートも聴きに行きましたが、今度は初めてオペラを観に行きました。バッハ・コレギウム・ジャパンによる、ポッペアの戴冠です!何と言っても大好きな森麻季さんのポッペアが非常に楽しみです!

 

(参考)2017.6.3 モンテヴェルディ/聖母マリアの夕べの祈り(コンチェルト・イタリアーノ)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12280704409.html

 

(参考)2017.6.8 モンテヴェルディ/マドリガーレ(世俗歌曲)(コンチェルト・イタリアーノ)

バッハ・コレギウム・ジャパン

(東京オペラシティコンサートホール)

 

指揮:鈴木 優人

舞台構成:田尾下 哲

 

ポッペア:森 麻季

ネローネ:レイチェル・ニコルズ

オットーネ:クリント・ファン・デア・リンデ

オッターヴィア:波多野 睦美

セネカ/警護官:ディングル・ヤンデル

フォルトゥナ/ドゥルジッラ:森谷 真理

ヴィルトゥ/ヴェネレ:澤江 衣里

アモーレ/ヴァレット:小林 沙羅

アルナルタ/乳母/セナカの友人Ⅰ:藤木 大地

兵士Ⅰ/ルカーノ/セナカの友Ⅱ:櫻田 亮

ネルクーリオ/セネカの友Ⅲ/執政官:加耒 徹

ダミジェッラ/アモーレⅡ:松井 亜季

パッラーデ/アモーレⅢ:清水 梢

兵士Ⅱ/リベルト/護民官:谷口 洋介

 

<モンテヴェルディ生誕450年記念>

モンテヴェルディ/歌劇《ポッペアの戴冠》(演奏会形式)

 

 

今年はヘンデル/アリオダンテに、ペルゴレージ/オリンピーアデと、バロックのオペラにチャレンジした年。それぞれ楽しめましたが、今回のモンテヴェルディ/ポッペアの戴冠は最も年代が古いオペラです。3時間くらいの音楽ですが、予習の段階では、正直なところ、全くと言っていいほどピンと来ず…、4時間半でも喜々として予習したメシアン/アッシジの聖フランチェスコとは勝手が全く異なりました。オリンピーアデの時以上に、不安いっぱいで臨みました…。

 

 

第1幕。冒頭はオケだけの演奏。バッハ・コレギウム・ジャパン(以下、BCJ)の演奏は30秒だけ聴けば、ヨーロッパの最高なレベルの古楽の楽団に匹敵する、素晴らしいオケということが分かります。フォルトゥナ(運命の神)、ヴィルトゥ(美徳の神)、アモーレ(愛の神)の3人の冒頭の歌が心地良い。小林沙羅さんのアモーレのやんちゃな感じがいい。音をわざと少し外し気味にして雰囲気を出します。マーラー4番のバーンスタイン/ACO盤のボーイ・ソプラノのことをまた思い出しました。「人間も神々もアモーレとは争えない」の歌詞には確かに!と納得。

 

オットーネのクリント・ファン・デア・リンデさんのカウンターテナーの美声に痺れます!そして、森麻季さんのポッペア登場。赤いドレス、白い肌、黒い髪、惚れ惚れするほど美しい。脈拍が50上がるくらいドキドキしました。歌も相変わらずの美しいクリスタルヴォイス。9月に聴いたデビュー20周年記念コンサートを思い出しました。

 

(参考)2017.9.9 森麻季さんのデビュー20周年記念コンサート

ポッペアはアモーレとフォルトゥナを味方に付ける頼もしい展開。寂しげなテオルボの先導で波多野睦美さんのオッターヴィアの悲しげな歌。ディングル・ヤンデルさんのセネカは、バスの見事なアジリタ。そんな哲学者セネカをアモーレが揶揄。「綺麗事ばかり言う」「脳みそだけの存在」痛いとこ突きますが、私もアモーレ派かも(笑)。ネローネとセネカの見応えのあるやりとり、皇帝のネローネに指図されても信念を曲げずに、一歩も引かないセネカ、立派です。

 

ポッペアは胸元の開いた赤のドレスでネローネに迫ります。情熱的な歌とともに森麻季さんが本当に眩し過ぎて…、これで落ちない男はいないですね。ネローネも「あなたにローマは小さ過ぎる、イタリアも狭過ぎる」と手放しで賞賛します。その後、ポッペアは夫のオットーネには打って変わって冷たく当たります。森麻季さん、綺麗な高音をホールいっぱいに響かせて感動的!オットーネとポッペアの侍女ドゥルジッラとの哀しいやりとり。自分に思いを寄せるドゥルジッラに惹かれつつも、オットーネはポッペアを忘れることができません。一度好きになってしまったら、ポッペアを忘れることのできる男など、この世にいないのです。

 

 

第2幕。メルクーリオ神がセネカに死が近づいたことを告げますが、セネカは冷静に受け止めます。皇帝からの死の命令を告げる使者へも毅然と対応。この辺りのセネカのセリフは、哲学者に加えて大いなる詩人という印象です。そして、セネカの死は何と!ホール1階中央の通路に光が当たる中、舞台を降りて、その光の道をホール入り口の方に歩んでいきます。何と言う感動!ここで涙がはらはらとこぼれました…。

 

10月末のBCJの宗教改革500周年記念コンサートでは、ここのホールをあたかも北欧のルーテル派の木の雰囲気の教会のように思いましたが、今日は、さらに通路と舞台が大きな十字架をなして、その中をセネカが凜としてこの世を去って行くシーンに見えました。極めて感動的なシーン!

 

(参考)2017.10.31 バッハ・コレギウム・ジャパンの宗教改革500周年記念コンサート

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12324777191.html

 

その後、小林沙羅さんの小姓ヴァレットが松井亜季さんの女官ダミジェッラを口説くシーン。ヴァレットは口説きながらも、「自分の望みが分からない」と、まるでフィガロの結婚のケルビーノの原形のよう(笑)。この役を小林沙羅さんがアモーレと2役で演じるところがいいですね。口説かれているダミジェッラの方が上手(うわて)なところも可笑しい(笑)。ネローネは「白雪の肌、ザクロの紅」とポッペアを讃えます。セネカの死を喜ぶネローネと廷臣ルカーノの素晴らしいアジリタが聴かれる二重唱。ルカーノの櫻田亮さん、レイチェル・ニコルズさんと息もピッタリの素晴らしい歌唱でした。

 

オッターヴィアからポッペア殺害を命令され、うろたえるオットーネ。「一瞬で好きな気持ちを殺意に変えるのは難しい」、そりゃそうですよね。ポッペアは愛の神を讃える歌を歌って、庭で眠りにつきます。お付きのアルナルタ役の藤木大地さんのカウンターテナーの歌も見事。ドゥルジッラの衣装を借りたオットーネが、眠っているポッペアを逡巡した上で殺そうとしますが、アモーレがポッペアを助けて幕。

 

 

第3幕。ドゥルジッラがオットーネを想う喜びの歌から一転、ポッペア殺害未遂の犯人にされ、悲しみの歌に…。オットーネを庇って罪を被ろうとします。そこへオットーネが登場し、自分の罪を認めます。お互いに自分が罪を犯したと譲らない2人。何と深い愛情でしょう!この辺り、涙ためためでした…。ポッペアは顛末を聞き、「これで晴れて離婚できて、ネローネと結ばれる!」。う~ん、今一つ釈然としませんが、その後のポッペアとネローネの美しい二重唱を聴いたら、まあ、いいか、という心境に(笑)。その後、アルナルタが人生の裏表を垣間見せる気の利いた歌。

 

アモーレがポッペアを讃える歌。小林沙羅さん、本当にいい味出していました。晴れて皇后になったポッペアの森麻季さんは、皇后に相応しい重厚感のあるお召しもの、気品が半端ないです。アモーレが3人になって賑やかな歌。最後は舞台が暗くなり、ポッペアとネローネの2人に。予習で唯一「おおっ!」と思った二重唱「ずっとあなたを見つめ」です。

 

(参考)モンテヴェルディ/ポッペアの戴冠から「ずっとあなたを見つめ」

https://www.youtube.com/watch?v=7SJxeoK4x9I

※ワーナークラシックスの公式のYouTubeサイトから。ダニエル・ドゥ・ニースさんのポッペアとフィリップ・ジャルスキーさん(カウンターテナー)のネローネの二重唱。ダニエル・ドゥ・ニースさんはサントリーホールのホールオペラでフィガロの結婚のスザンナを歌っていたのが懐かしいですね。

 

透明で美しく、どこまでも溶け合う惚れ惚れするような二重唱。感涙ものでした!今一つ釈然としないストーリーでも、最後のこの歌を聴くと、メデタシメデタシに思えます。照明が落ちて、オレンジ色の背景に2人の影が映し出されて、非常に美しいエンディング!

 

 

分かる。私、古楽シロウトだし、この曲予習3回しかできてないし、舞台に至っては初めて観ますが、それでも分かります。

 

何この飛び切りの名演!!!

 

 

とっかかりどころがなく、不安いっぱいで臨んだポッペアの戴冠でしたが、素晴らしい歌手のみなさま、鈴木優人さんの見事な指揮、BCJの素晴らしい演奏、小粋な演出と舞台で、めちゃめちゃ楽しめました!やっぱりライヴの力って凄い!歌手のみなさまはみな完璧で、こんなに10人以上の規模でハイレベルで揃うのって奇跡的!演奏会形式と銘打たれてはいますが、オケの前と後ろに簡素ですが味のある舞台、全曲通して演出が付いて、セミ・ステージ形式と言い切って全く問題ありません。演奏会形式でなく、オペラを観た公演、としてカウントしたいと思います。

 

多くの素晴らしい歌手のみなさまの中でも、やっぱり森麻季さんの歌は素晴らしかった!ラ・ボエームのムゼッタとともに、森麻季さんの最高のはまり役では?大好きな歌手が出演すると、それだけでより集中して観るので、それを通じて作品への理解が進みます。今年はヘンデル、モンテヴェルディと、森麻季さんのおかげもあって大いに開眼することができました。森麻季さん、本当にありがとう!ますますのご活躍を祈っております!

 

 

 

(写真)レンブラント/キューピッドとしゃぼん玉。拙ブログで既に2回使った絵ですが、今日の気分はこれ。アモーレ、しゃぼん玉吹かしている暇、全くありませんでした(笑)。ポッペア&ネローネだけでなく、オットーネ&ポッペア、オットーネ&ドゥルジッラ、ヴァレット&ダミジェッラなど、あちこちで大活躍でした!

※ザルツブルクのレジデンツ・ギャラリーで購入した絵葉書より

 

 

(追伸)日曜のカンブルラン/読響のメシアン/アッシジの聖フランチェスコの超名演に、今日のポッペアの戴冠と、今週の東京はめちゃめちゃ凄いことになっています!