バッハ・コレギウム・ジャパンによる宗教改革500周年を記念したコンサートがあったので、聴きに行きました。

 

 

バッハ・コレギウム・ジャパン第125回定期演奏会

(東京オペラシティ・コンサートホール)

 

指揮:鈴木 雅明

ソプラノ:ハナ・ブラシコヴァ

カウンターテナー:クリント・ファン・デア・リンデ

テノール:櫻田 亮

バス:ドミニク・ヴェルナー

オルガン独奏:鈴木 優人

 

宗教改革500周年を記念して -

 

マルティン・ルター/コラール《我らの神こそ、堅き砦》(斉唱)

マルティン・アグリコラ/《我らの神こそ、堅き砦》(合唱)

ヨハン・ヴァルター/《我らの神こそ、堅き砦》(合唱)

ディートリヒ・ブクステフーデ/《我らの神こそ、堅き砦》(オルガン独奏)

ヨハン・ヘルマン・シャイン/《我らの神こそ、堅き砦》(2重唱)

セトゥス・カルヴィジウス/《我らの神こそ、堅き砦》(3重唱)

ミハエル・プレトリウス/《我らの神こそ、堅き砦》(3重唱)

ハンス・レオ・ハスラー/《我らの神こそ、堅き砦》(合唱)

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ/《我らの神こそ、堅き砦》BWV720(オルガン独奏)

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ/《我らの神こそ、堅き砦》BWV80b/1

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ/カンタータ第79番《主なる神は太陽にして楯なり》BWV79

 

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ/《いざ、すべての者よ、神に感謝せよ》BWV657(オルガン独奏)

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ/カンタータ第192番《いざ、すべての者よ、神に感謝せよ》BWV192

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ/カンタータ第80番《我らの神こそ、堅き砦》BWV80

 

 

バッハ・コレギウム・ジャパンは世界的に有名なバッハ演奏のスペシャリストの楽団。毎回素晴らしいクオリティのバッハのカンタータなどのコンサートがあることは知っていましたが、そこまで好みの分野ではなかったので、これまで聴きに行ったことはほとんどありませんでした。(1回だけ、マタイ受難曲のコンサートを聴きに行きました。素晴らしい演奏でしたが、未熟者ゆえ、まだマタイ受難曲の良さを十分掴めていません…)

 

しかし、今回のコンサートは宗教改革500周年の記念を謳っていて、本日10月31日が正にその500周年の当日なんです!今年はマルティン・ルターに関係の深いクラーナハの美術展を観たこともあり、宗教改革500周年のことは意識します。何だかこの貴重なコンサートに参加しない選択肢はないように思えてきました(笑)。もしかして視野が広がるかもなので、聴きに行ったしだいです。

 

(参考)2017.1.14 クラーナハ展-500年後の誘惑(国立西洋美術館)

 

 

プログラムが有料かつ1,100円だったので一瞬たじろぎましたが、意を決して(笑)購入して読んでみると、このコンサートの曲目は宗教改革のコラールだったり、宗教改革記念日用に作曲された曲だったり、全て宗教改革にちなんだスペシャルな選曲であることが分かりました!各曲の解説が大変充実しているのと、バッハの時代に人々が宗教改革をどのように祝ったのか、ルターとコラールについて、など極めて充実の内容で、逆に、開演までの20分の時間ではとても読み切れないくらい(笑)。週末にでもゆっくり読むのが楽しみです。

 

加えて、開演前に音楽監督の鈴木雅明さんから特別にお話がありました。まとめると以下の通りです。

 

○今日は宗教改革500周年の当日だが、ハロウィンの日でもある。ハロウィンは11月1日の「諸聖人の日」の前日という意味もある。(”All-hallow Evening”短縮して”Halloween”

○宗教改革の発端となった、マルティン・ルターがヴィッテンベルクの教会に「95ヵ条の論題」を貼り付けたのは10月31日とされているが、実は定かでない。ただし、ルターがマインツのアルブレヒト大司教に手紙を出した日は確かに10月31日の日付となっている。

○ルターが問題提起した免罪符は、聖人の遺徳を賜り、死後の煉獄の苦しみから解放されるためのもの。ルターはこのため、諸聖人の日の11月1日を意識して、前日に手紙を出したのではないかと言われている。

○ルターはドイツ語の賛美歌を作り、庶民が教会に来て歌えるようにした。コラール。

○今日は冒頭そのルターのコラール「我らの神こそ、堅き砦」から始める。同じ「我らの神こそ、堅き砦」の歌を、テノールが旋律を歌ったり、フーガが加わるなど曲風が変わっていき、最後、バッハの「我らの神こそ、堅き砦」に至る変化を楽しんでほしい。

 

コンサートを聴く期待感を高める、素敵なお話でしたが、特にハロウィンはキリスト教でなく、ケルトの風習だと思っていたので、目から鱗でした。

 

 

最初はそのマルティン・ルターのコラール。とてもピュアな曲で心洗われました!そもそも、こういう機会でもなければ、マルティン・ルターの曲を生で聴ける機会はそうそうないはず。非常に貴重な経験でした!ブクステフーデのオルガンは軽やかなストップで天国感を醸し出します。作曲家が変わってだんだん複雑になっていき、最後のバッハは重層的な音楽になりました。

 

前半最後は、バッハのカンタータ第79番「主なる神は太陽にして楯なり」。そう言えば、バッハのカンタータを意識的に聴くのは初めてかも知れません。第1曲はホルンが大変活躍する曲。古楽のシンプルなホルンはバルブがなく、息とベルの中への手の入れ方だけで音階を出すので非常に難しそうですが、とてもいい感じでした。カウンターテナーの歌も心地良い。カンタータって、1曲だけかと思っていましたが、この曲は6曲から成り立っており、曲の変化を楽しめていいですね。最後アーメンで締めました。

 

 

後半はオルガン独奏から。素朴な響きに癒やされます。ここは東京オペラシティ・コンサートホール、木の雰囲気の温かみのあるホールですが、オルガンを聴いていると、あたかもフィンランドのルーテル派の教会の中にいるような錯覚を覚えました。ラハティの聖十字架のルーテル教会やヨエンスーのルーテル教会など、フィンランドの教会は、金銀などの装飾を控えた、木の温もりのある素朴な教会が多く、正にルターの精神が息づいている印象を持ちます。

 

続いてカンタータ第192番「いざ、すべての者よ、神に感謝せよ」。第1曲はフラウト・トラヴェルソというリコーダーのような音のする楽器の温かい音色が魅力的。ブランデンブルグ協奏曲第4番を思い出します。第2曲のソプラノ独唱も印象的でした。前半は曲を追いかけるのに必死でしたが、後半は少し余裕が出てきたので、バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏に目を向けると、オケは合奏もソロも、どのパートも見事。合唱の切れが非常に良く、ソリストも各人素晴らしい印象を持ちました。ちなみに、モーツァルト「ミサ曲ハ短調」のCDが2017年のグラモフォン賞(合唱部門)を受賞されたそうです!

 

最後はカンタータ第80番「我らの神こそ、堅き砦」。今日の1曲目のマルティン・ルターのコラールを内包したカンタータです!第79番と第80番は実際に宗教改革記念日のために書かれた、正に今日演奏されるに相応しい特別な曲。プログラミングの妙に唸るばかりです。

 

第1曲は冒頭から勢いのあるフーガでびっくりしました!第2曲の弦とほのぼのとしたオルガンの掛け合いもいい感じ。第5曲の弦楽のワクワク感も素晴らしい。第7曲のオーボエ・ダ・カッチャという独特な楽器の豊かな響きも印象的。最後第8曲は合唱で締めました。これら第1・2・5・8曲に含まれるマルティン・ルターの宗教改革のコラールが、バッハのカンタータの音楽に乗って歌われるのを聴くことに、それもこの宗教改革500周年の当日に聴くことに、無上の喜びを感じました!!!

 

 

鈴木雅明さんのタクトが降ろされたら、ブラヴォーならぬ“Schöne !”(美しい!)の掛け声が!おそらくドイツ人の方からだと思いますが、とても的を得た反応でいいなと思いました。ホールに外国の方が多かったので、バッハ・コレギウム・ジャパンが外国のバッハ愛好家から熱烈な支持を得ているのを体感できました。

 

 

バッハ・コレギウム・ジャパンの素晴らしいバッハを聴くことができ、とても心を揺さぶられました!バッハのコンサートは久しぶりですが、いいものですね。これだけレベルの極めて高い、世界で評価されているバッハ演奏があるのに、これまで聴きに行っていなかったのはもったいなかったと著しく反省…。この宗教改革500周年の記念コンサートに参加したことをきっかけに、それこそ意識改革をして、バッハもいろいろ聴きに行ってみよう、と思いました。と言っても、素晴らしいコンサートが沢山あって、お財布が本当にやばいですが(笑)。

 
 

 

(写真)改めて、ヴィッテンベルクの城内教会の扉。1517年10月31日、マルティン・ルターはこの扉に「95条の論題」を張り出し、ここに宗教改革の火蓋が切って落とされました。

 

 

(写真)ヴィッテンベルクのマルクトにあるマルティン・ルター像

 

(写真)日本福音ルーテル市ヶ谷教会にて。8月に今泉響平さんのピアノ・リサイタルを聴きに行った時に見つけました。


 

(追伸)バッハのカンタータ、とても良かったので、ぜひまた聴いてみたくなりました。魅力的なコンサートを見つけて聴きに行こうと思います!(また何かフラグが立ちました(笑)、どこかで回収予定!)