先週土曜日のコンチェルト・イタリアーノによるモンテヴェルディ/聖母マリアの夕べの祈りはすこぶる感動的なコンサートでしたが、どうやらモンテヴェルディは宗教曲よりも、世俗歌曲を沢山書いているようなのです。土曜日に配られたチラシで良さそうなコンサートを見つけたので、迷わず聴きに行きました。

 

(参考)2017.6.3 モンテヴェルディ/聖母マリアの夕べの祈り(コンチェルト・イタリアーノ)

http://ameblo.jp/franz2013/entry-12280704409.html

 

 

コンチェルト・イタリアーノ スペシャル・アンサンブル

~イタリアバロック Mazzo di Madrigale(世俗歌曲の花束)~

(ヤマハホール)

 

チェンバロ:リナルド・アレッサンドリーニ

ソプラノ:モニカ・ピッチニーニ/アンナ・シンボリ

テオルボ:ウーゴ・ディ・ジョヴァンニ/クレイグ・マルキテッリ

 

C.モンテヴェルディ/優しい心と恋の炎

C.モンテヴェルディ/あの高慢なまなざし

C.モンテヴェルディ/苦しみが甘美なものなら

C.モンテヴェルディ/ああ、お前は何と愛らしいのか

G.G.カプスベルガー/ラルペッジャータ

G.G.カプスベルガー/パッサカリア

C.モンテヴェルディ/それは本当なのか

C.モンテヴェルディ/私はとても愛らしい羊飼いの少女

 

C.モンテヴェルディ/甘美な光で

C.モンテヴェルディ/おお、燃えさかる炎

G.フレスコバルディ/パッサカリアによる100のパルティータ

C.モンテヴェルディ/恋文

C.モンテヴェルディ/ああ、恋人はどこに

C.モンテヴェルディ/おお、私は傷つき倒れる

C.モンテヴェルディ/西風(春の風)が戻り

 

(アンコール)

C.モンテヴェルディ/「ポッペアの戴冠」より<ずっとあなたを見つめ>

 

 

最初はてっきり土曜日と同じコンチェルト・イタリアーノによるコンサートと思っていたのですが、プログラムを見ると、選抜メンバー5名による室内楽のコンサートでした。ガ~ン!よく中身を見ず、「コンチェルト・イタリアーノ」「モンテヴェルディ」「マドリガーレ(世俗歌曲)」のキーワードで即決した早とちり…。あの不思議な木管トランペットことコルネットの音をまた聴いてみたかった…。でも、例のリュートに似たテオルボが2台出てきて、素晴らしかったソプラノお2人、そして指揮のリナルド・アレッサンドリーニさんがチェンバロと、これはこれでとても良さそうです。

 

まずはモンテヴェルディのマドリガーレから。マドリガーレとは、イタリア語による牧歌的抒情詩、またはそれを用いた世俗的声楽曲であり、14世紀に発祥し、16世紀には技巧的にも大いに発展したものです。

 

私はファルスタッフの第2幕でフォードが"E questo madrigale~♪"と歌うので、ずっと「哀歌」という意味に取っていましたが、そうではありませんでした。モンテヴェルディは9巻のマドリガーレ集など、何と合計247曲の世俗作品を残しています!「聖母マリアの夕べの祈り」があまりにも有名なので、宗教曲ばかり書いていた作曲家のように思っていましたが、実は世俗作品の方が多く残されています。

 

「優しい心と恋の炎」から始まり、優雅で明るい感じの曲が続きます。伴奏は基本的にチェンバロとテオルボ2台、ソプラノは1人で歌ったり、2人で歌ったりします。演奏は土曜日に続いて完璧。難しいソプラノの旋律も難なくこなし、チェンバロとテオルボがそれぞれいい味を出していました。ただ、どの曲も調性やリズムが似ていて、最後も予想通りの解決になるので、みな同じように聴こえてきて、初心者の私には、なかなか区別が付きません…。

 

カプスベルガーの2曲はテオルボ2台のみの演奏。透明感があり、どこかひなびた懐かしさを感じる曲。とても良かったです。

 

前半最後の曲はモンテヴェルディ「私はとても愛らしい羊飼いの少女」。歌詞はこんな感じです。

 

私は とても愛らしい羊飼いの少女

私の頬は バラとジャスミンのよう

この顔と 黄金の髪を見れば

まるで若々しい森の精のようだと皆が言う

(中略)

祭りの日に 私が踊りに行けば

羊飼いたちは誰もが 私に選ばれようと

鏡や花や果物や 珊瑚の首飾りを持ってくる

 

何だかラ・ボエームのムゼッタのワルツを彷彿とさせますね(笑)。歌詞にピッタリな、とても晴れやかで勢いのある曲ですが、最後はやや悲しげな曲調となり、以下のセリフに。

 

それなのに 愛しいリーディオ あなたは

私の眼差しが嬉しくないの?こうして私は いつまでも虚しく

残酷な人よ あなたの情けを乞わねばならない

 

モンテヴェルディの世俗歌曲はイタリアらしく恋の歌ばかり。いささか、こっぱずかしい(笑)曲名通りの、直接的で情感に訴える歌詞が本当に潔く心地良いですが、このコンサートに出てきた歌は、結ばれる恋、というよりは、一方通行で切ない恋の歌が多かったです。

 

休憩時間にロビーに出ると、「素晴らしい!」「やっぱりモンテヴェルディはいいわ〜」など喜びの感想があちこちから聞こえてきて、どの曲も同じように聴こえてしまう自分が何だか申し訳なく思ってきました…。普段から古楽を聴かれている方は、この微妙な音楽の違いを聴き分けていらっしゃるんですね!本当に凄いなと思いました。

 

刺激を受けたので、後半の曲は集中力のギアを一段上げて聴きました。プログラム上の曲の配置なのかも知れませんが、後半の曲の方が変化が大きく、ドラマティックなように感じました。何となくモンテヴェルディのマドリガーレの楽しみ方、ノリ方のコツを掴みつつあるかな?と思いながら楽しく聴きました。


後半の途中には、フレスコバルディの「パッサカリアによる100のパルティータ」というチェンバロだけによる曲が出てきました。フレスコバルディと聞くと、ワインのブルネッロ・ディ・モンタルチーノの方を思い浮かべてしまうくらい、古楽には縁遠いです。解説に多様な構成と表現力を備えた多分に実験的な作品とありましたが、曲想の変化が素晴らしく、そんなに長くはありませんが、大曲を聴いたような印象です。フレスコバルディの主軸は鍵盤楽器とのこと。要チェックです。

 

最後のモンテヴェルディ「西風(春の風)が戻り」は恋愛ものと少し趣きが違って、音楽も変化に富んで、流石は最後を飾る曲だと思いました!ソプラノの二重唱が心底美しい。

 

アンコールはオペラ「ポッペアの戴冠」から。最初テオルボに合わせて歌って、途中からチェンバロが入って激しくなり、最後またテオルボで締める魅力的な曲。マドリガーレよりもっと劇的な感じです。「ポッペアの戴冠」いいですね!全曲聴きたくなりました(フラグ立ちまくりです、笑)。

 

モンテヴェルディの世俗歌曲を沢山聴けて、とても貴重な機会でした!これで代表作の宗教曲と世俗歌曲をいろいろ聴いて、にわかですが、モンテヴェルディをちょっぴり語れるようになりました。やっぱり何でも聴いてみるものですね。

 

 

(写真)モンテヴェルディが楽長を務めたヴェネツィアはサン・マルコ大聖堂(私が行った時は絶賛改修中…)。「聖母マリアの夕べの祈り」はマントヴァで作曲された曲ですが、今回のマドリガーレは全てヴェネツィアに移った後に作曲された曲です。